第84話 悪魔の討伐方法

 もし、素材集めの為にレストがマップを開いてなかったら、そもそもいつ精霊界へ入ったのか分からないほど、精霊の森と酷似した精霊界。

 夜道とうっすら漂う霧が、精霊らしき発光球体の方向感覚を狂わす進み方が、気づいたらここに居たという事実が、神隠しという言葉が二人の脳裏に掠めた。

 少し肌寒く感じて身震いしたレストと、剣を掴んだ状態で警戒するアリスは、6種の発光球体が進む方へ警戒しながら歩いて数分。


「うん?…あれは、精霊かな」

「…鑑定したら精霊って出てる。あと、青のアイコンだからNPC」


 視線の先には道案内をしている以外の敵ではない発光球体が見え、鬼ごっこしているものや、枝の上で休むもの、ひたすら木を何周もしているものなど、多くの精霊が居た。

 レストも鑑定をすると、赤色が火の精霊、青色が水の精霊、緑色が風の精霊、橙色が土の精霊、紫色が闇の精霊、黄色が光の精霊と表示される。

 立ち止まってレストが腕を組んで、アリスに聞く。


「闇と光ってレア属性?」


 数多の精霊がいる中で異色を放っている、1体ずつしか居ない闇の精霊と光の精霊を見て、魔法方面に詳しくないレストが聞く。

 その言葉を聞いたアリスは、道案内しているその2体を見ながら答える。


「…多分。私もそこまで詳しくないけど、今の魔法には四属性しか無いから」


 現在のFMGでプレイヤーが使う魔法は、火属性を扱うしか火魔法、水属性を扱う水魔法、風属性を扱う風魔法、土属性を扱う土魔法しかない。

 それを思い出しながら、魔法方面にあまり詳しくないアリスが告げた内容に、同じく詳しくないレストは頷いて納得する。

 再び道案内中している精霊を追い始めた二人は、精霊たちの近くによると、慌てて何処かへ逃げる光景に心を痛めながら進むと、一際は大きな木に出くわした。

 6体の精霊がその大きな木の周り、ぐるぐると周り始めると、


『ようこそいらっしゃいました。異世界からの旅人たちよ』


 何処からともなく響く落ち着きのある女性の声音が聞こえ、何者かが背後から二人の肩をぽんと叩く。


「うひょっ!!」

「…っ!!」


 てっきり目前の木が話したのかと思っていたレストは突然のことに変な悲鳴を上げ、てっきり目前の木から現れるかと思っていたアリスは反射的に背後へ斬りかかる。

 反射的に振られた剣は、アリスが止めようとする前に何者かへ当たるが。


『実体化を解かないと危ない所でしたよ』


 そのまま半透明な体を通り抜けて、


「……アリス。当たらないとはいえ、せめて直前で止めて欲しかった」

「…あっ、ごめん」


 剣は一回転した後に、レストへ当たる直前に壁で遮られる。

 それに背後から奇襲を受けたレストが状況を理解してからガクッと項垂れながら告げ、左側にいたアリスも状況を理解してから剣を元の場所へ戻す。

 二人は何とも言えない微妙な雰囲気を感じていると、笑い声が聞こえる。


『フフフ。面白い二人組ですね』


 レストは振り返って見上げ、アリスは視線を向けて僅かに見上げると、口元を隠した絶世の美女が居た。

 若草色の長髪と瞳に色白な肌、深緑色の植物が描かれた白いワンピースとサンダル。

 男の性でレストが思わず二度見した魅惑的なダイナマイトボディは、背後が透けている。

 それを見ていたアリスのゴミに向けるような視線で、何もなかったかのように装うレストは大きな木を見始めた。

 笑みを浮かべた絶世の美女は、手をパンと叩いて自己紹介する。


「では、私の自己紹介をさせて頂きます。私はオリビア。ここ、精霊界の主で、一般的には大霊樹の精霊と呼ばれています。精霊の格は大精霊ですね。久しぶりの客人なので、少々イタズラしましたが。どうぞよしなに」


 姿を実体化させ、口元から鈴の音のような声を出し、深窓の令嬢を彷彿とさせる雰囲気のオリビアがカーティシーをする。

 それに、レストは左手を後頭部にやって、頭を下げながら言う。


「こっちはレストです。最近、全然放浪してない普通の生産プレイヤーです」

「…普通じゃないでしょ」


 隣からさりげなく修正が入ったレストに、微笑みながらオリビアは言う。


「なら、レストさんと呼ばせて頂きます。で、そちらは?」

「…わた「あっ、家の姉のアリスです

。趣味は…闇討ちです」……」


 言おうとしたアリスをインターセプトしたレストは良い笑顔で、一歩手前に出てから手を向け、勝手に挨拶をした。


「なるほど、闇討ちが趣味の大変困ったお姉さんなんですね」

「そうなんですよ。さっきの闇討ちしてきた所を見たでしょ?」


 バイブモードに入ったアリスを、レストとオリビアは何故か阿吽の呼吸でスルー。


「確かに、容赦のない一撃でしたね」

「あれがしょっちゅうですよ。この前なんて、闇に隠れて悪魔と言って何度も背後から攻撃されましたよ」


 剣を背後で構えたアリスを、オリビアがチラチラと見て、レストは相変わらずのスルー。


「悪魔ですか」

「悪魔ですよ。あっちが勇者だからって、そこまでしなくても」

「もうそろそろやめた方が…」


 無駄のない剣筋で何度も連撃を繰り広げるアリスを、NPCであるオリビアは話を止めようとし、レストはさらに悪そうな笑みを浮かべてスルー。


「大丈夫ですよ。フレンドリーファイア無効なので」

「いえ、説得力がありません」

「大丈夫です。今のアリスにはこっちにダメージを与える手段はありませんから」


 足首を持って逆さにしているアリスを、オリビアは後退って狼狽え、モンスターが居ないのでレストは逆さになっても安心してスルー。


「ごめんなさぃーー!!もう一時は弄らないと誓いましたが、さっきのお返しする絶好のタイミングだったので、ついやっちゃったんですぅーー!!」

「…何か言った?」


 聞こえない振りをし、足首を持ってぐるぐると回り始めたアリスを、オリビアは本体大きな木に突っ込み、懲りてないレストがスルー出来ない状況となり、たまらず声を上げる。

 しかし、アリスはスルー。


「うっ、眩暈が!!視界が気持ち悪い!!」

「…あっ」

『あっ』

「うわぁ!!ぐはっ……」

「………」

『………』


 眩暈で人間砲弾として放たれたレストは、回されて伸ばされた手が飛んだ先の木へ直撃し、飛ばされた力が強過ぎてひ弱な腕では支えきれず、木へ顔から衝突する。

 自動回収される折れた木と天に召されるレストは光となって消えた。

 結果、偶然にも、先に触れた手へのダメージがフレンドリーファイア無効でどうにかなったが、後のが自分から顔をぶつけたという自傷ダメージ扱いとなって、調子に乗ったレストは倒された。

 つまり、フレンドリーファイア無効の無効化に成功した。


「……偶然だから!!」


 不意討ち、もとい闇討ちでレストを倒すことに成功してしまったアリスが慌てて振り返ると、


『なるほど。これは確かに、闇討ちで容赦のない一撃ですね』


 大きな木から生えていた半透明なオリビアが納得するように頷いてから、本体へ引っ込んだ。


「…待って!!話を聞いて!!」


 こうして、アリスは無事に悪魔レストの討伐方法を発見したが、代償として精霊界の主オリビアレスト趣味闇討ちという勘違いが残された。


────────────────────


とうとう悪魔が討伐された。

おめでとうアリス!!

というか、いじるシーンは予定外なんですが、どこぞの悪魔が勝手に動いてやり始めたってやつです。

もう、この主人公が何処を目指しているか分からなくなってきた…。


あっ、スランプの激化とやる気が出ないよ症候群の悪化を確認しました。

これから、更新が遅くなったりするかもしれませんが、気長にお待ちください。

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