第77話 最後まで全力でやらかす
お食事中の方、お食事後に読むことをオススメします。
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レスト発案によるビックコックローチ掃討作戦を、二人はさらに欠点を改良し、出来るだけアリスの負担を少なくして行った。
それが、アリスは松明2本の投擲てのみで、レストが扉の開閉しつつ、大量の薪の投入と松明2本を投擲するというものだ。
レストはレストで、アリスにゴキブリを近付けないため、【挑発】スキルで己に
どうにか無事?に二人は作戦を終えた。
だが、二人が想定していた部屋中にいる大量のビックコックローチ討伐は予想外の方向へ進む。
それこそ、可能性として考慮していた憎悪の女王討伐すら飛び越えて、異常事態と呼ぶべき状態となった。
火攻めから5分経った頃。
扉から距離を置いた通路の中心で3人分の隙間を空け、お互いに向き合って座る二人は、異様な雰囲気に包まれていた。
「……本当に、あの中に入らなくて良かった」
青ざめるを過ぎ、灰になりそうなぐらい真っ白なアリスの安堵の声。
それに、激しく同意しているレストが力強く縦に首を振る。
「……だって、既に私…レベル3も、上がってる」
「こっちは1だけど、もう少しでレベルアップ…した。おまけに…」
レベルは上がれば上がるほど、上がりにくくなる仕様だ。
さらに、モンスターから貰える経験値はレベル差で増減し、戦闘に参加したパーティメンバーにも貢献度に応じて分配される。
なので、大崩壊の時はレスト一人で戦ったので所得できる多いかったが。
今回は二人で、経験値が分散して少なくなるはずなのに、それでも止まることなく、大崩壊の時より経験値が入り続けている。
「なんか…あれをやる前に持っていた分を除いて、現段階でゴキブリの羽とゴキブリの顎が各300個を越えた…」
たった5分で、確定ドロップではないゴキブリの羽やゴキブリの顎がそれぞれ300個を越えていた。
もともと、大崩壊と探索を経て入手していたドロップアイテムの合計は約500個なのに、今入手したドロップアイテムの合計は約700個。
この結果から分かるだろう。
「…幾ら何でも多い過ぎ」
剣を抱き締めて震えているアリスが言った通り、あの中には燃やされた最低350匹以上のビックコックローチがいた証明なのだ。
現在も入る経験値と、自動回収のログが、まだまだ存在することを意味している。
憎悪の女王ごと倒す方法で、濃縮炸裂液で天井爆破計画を考えていたレストは、この方法を言わなくて良かった、と心底安堵していた。
もし実行して、壊れた壁からこの数のゴキブリが現れた拍子には、アリスに申し訳が立たないから。
「早く、終わらないかな~」
「…確かに」
「あっまた、火属性の魔法らしきするスキルを習得した」
だが、これは前兆に過ぎなかった。
二人に聞こえるスキル習得を知らせるアナウンスは次第に、明らかにヤバい方向へ進む。
「…レスト。もしかして、【火の加護】と【火の祝福】って…」
「うん。見てみたら、火属性に関するエクストラスキルとユニークスキルだって」
アリスの5レベル上がった頃に、火属性のエクストラスキルとユニークスキルの習得に始まり。
虫種に対するダメージボーナスが発生するエクストラスキル【虫殺し】とユニークスキル【蟲の天敵】。
さらに、燃焼や火傷による効果を高めるエクストラスキル【火炙り】に、火属性領域の効果を高めるユニークスキル【灼熱地獄】も習得した。
それ以外にも、二人は幾つかの初期段階の火魔法スキルや、不名誉なスキル【残酷非道】を習得する。
しかし、これでは終わらない。
決め付けにこれである。
「うん??これって…アリス」
「…どうした?」
「アリスの【退魔之剣】が天敵になりそうなユニークスキルを習得した」
「………えっ…」
頬をピクピクさせたレストは語った。
それがどう聞いても、食堂の時にアリスが言った“ラスボス”を彷彿とさせるスキルだった。
【天魔波旬】
プレイヤーレベルに応じて、操作可能な黒き衣(魔属性)を展開する。
攻撃時に魔属性を自動付与する。
黒き衣による自動攻撃と自動防御も可能。
敵対者には畏怖、災禍を付与する。
必要MP444。効果時間600秒。
畏怖:手足の震えが止まらなくなり、身体能力を低下させ、消費コストを増大する。
災禍:装備や部位の耐久値を減らし、被ダメージを増加させ、不運な結果を引き寄せる。
アリスの【退魔之剣】が聖属性を宿すユニークスキルなら、レストの【天魔波旬】は魔属性が宿るユニークスキルという、このゲームでは相反する属性。
というか完全に、聖なる気を妨げる魔の衣と、魔を退ける聖なる剣は、ゲームやラノベで出てきそうな組み合わせだ。
それを聞いたアリスは剣で口元を隠し、どれが原因か必死に考えるレストへ告げた。
「…確か、天魔波旬の意味って、善行を妨げるレスト…間違った、悪魔だったはず」
「今の絶対わざとでしょ!?」
【残酷非道】などの悪徳系スキルを大量に習得していること。
悪徳系スキルを獲得してない者に、複数の美徳系スキルを習得している人か、【退魔之剣】などの聖属性ユニークスキルを持つ者に悪徳なスキルを習得させること。
本人が聖属性の枠組みのスキルを持っていないこと。
相手が魔属性の枠組みのスキルを持っていないこと。
それらが満たされたことで、このスキルを習得させる切っ掛けになったことを、レストは知らない。
「…悪魔は置いといて、せっかくだから獲得したら?」
「置いとかないで!!まぁ、今回はいいか。このスキルかー、うーん…どうしようかな」
ついでに、アリスが何かを企んでいることをレストは知らない。
本気で悩んでいるレストと獲得を薦めるアリスに再び、スキルの習得を知らせるアナウンスが響く。
『【放火魔】を習得しました』
それと同時にレストの背後の少し離れた場所にあった錆びた扉が光の粒子となり消えていく。
偶然にもその光景を見ていたアリスの「…あっ」と言ったことで、背後の変化に気づいたレストが慌てて振り返る。
「……」
「アリス離れるよ!!」
「……分かった!!」
レストをいじったことで戻っていた顔色が再度青ざめ、茫然といった様子で見ていたアリス。
自分のコンパクトチェアを持ち、急いで扉から離れようとするレストが、慌てて声を掛けて、アリスを正気に戻した。
急いでアリスもコンパクトチェアを持って離れる。
「あれ?おかしいな…」
しかし、二人が思っていた結果と大きく違った。
扉が無くなった入り口から出てきたのは、肌を焼きそうな熱気と燃え盛る炎で、1匹もゴキブリは出てこなかったのだ。
それを2分以上見た二人は、事の重大さに気付いた。
「ねぇアリス」
「……なに」
「Gが出て来ないのに、今も経験値が入り続けてるっておかしくない?」
「…おかしい」
「これ、もしかしてやらかした?」
「…確実にやらかしてる。そもそも、放置しているだけでユニークスキルを幾つも習得してる時点で…レベル40代の私たちが連続してレベルアップしている時点で、気付くべきだった」
「そう言えばそうだ…」
暢気に自分たちが待っていた現在が、二人はどういう状況かやっと認識する。
自分たちの想定どころか、運営がしていたであろう想定からも逸脱していることに。
そのタイミングで出た熱が原因の汗を、レストは冷や汗のように感じた。
レストは鋼製のバケツを取り出して、水入りポーションの中身を入れ始める。
「取り敢えず見てくるから、帰ってきた時に燃えてたら、このバケツで水よろしく」
「…【退魔之剣】でHP自動回復大と全耐性大がある私が行こうか?」
「…いや、中にはまだいる可能性があるから、こっちが行ってくるよ。それに、こっちにも装備している松明に火属性耐性とかあるし」
アリスの【退魔之剣】の性能に驚きながらも、レストは首を振って答えた。
そして、足下に置いた松明を持ったレストが扉の方へ向かう。
「すぐ戻ってくるから、待ってて」
レストはアリスに言わないが、帰れなくした張本人だという事と、その方法を立案した人で、これ以上アリスに迷惑を掛けたくないから、前線に立って行動する。
初級ライフポーションを飲み、暑さに顔をしかめつつ、火の粉が当たる部分に痛みのあることを我慢して進む。
たどり着いたレストが火に炙られながらも、入り口から部屋の中を見る。
「これか…経験値とドロップアイテムの量産の仕組みは…」
何故ビックコックローチが大量にいたのかという問いがあるとすれば、答えは。
憎悪の女王が産んでいただ。
憎悪の女王が常に産んでいる卵からは、1つ当たり10匹のビックコックローチが生まれ、それが断続的に続く。
しかし、その大半は部屋中にある燃えた薪で、生まれて3秒もしない内に高温の火で炙られて死ぬ。
これが経験値とドロップアイテムが供給され続けた理由だ。
レストは気付いてないが、大量のものが燃えたことで、空間内の火属性や燃焼が大幅に強化され、外に出る暇もなくなったということに。
「今、見たのはアリスに黙っておこう」
最後に見た、生んだ子供を食らって燃える自分を回復させる憎悪の女王の姿は、言わないと決め。
レストはアリスの元に向かい、水を掛けられた後に内容を説明した。
「…偶然にも、ボスモンスターの習性を使った放置してレベリングする仕組みが出来上がった、と」
「うん」
「…なんか、ズルしている気持ちに…」
「トラウマの代金だと思えば??」
「……そうしとく」
にこやかに言うレストに、アリスは視線を逸らして肯定する。
これを緊急会議中に見た運営の皆さんは、満場一致で憎悪の女王のギミック変更と、取り巻きの大幅減少が可決された。
「そうだ。アリスって聖属性を強化するスキル持ってる?」
「…【聖属性強化】?それなら、剣の耐久値がより無くなりそうだから獲得はしてないけど、習得はしてる」
「そういうスキルがあるなら…この機会に【天魔波旬】を獲得して、魔属性の強化スキルと加護と祝福を習得出来ないかな……せっかくだから、【魔属性強化?】にレベルがあれば獲得して、スキルレベルも上げるのも手か」
「………レスト…本当にラスボスじゃないよね??」
アリスは冗談で言った“ラスボス”という言葉が、妙な現実感を持ち始め。
見ていた運営たちは緊急会議中に、謎の沈黙が場を支配する。
「こっちがラスボスなら、アリスはラスボスを倒す勇者になるよ?」
「…ふーん」
この時、羽根つき帽子で隠された口元は少しだけ歪んでいた。
こうして憎悪の女王が黒い炎で燃え散る頃には、二人ともレベル50に到達し、レストは無事に【魔の加護】や【魔の祝福】などを習得した。
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