第76話 体を張るのはレストの仕事です
お食事中の方、お食事後に読むことをオススメします。
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必死な土下座謝罪の後、妙に食事回数が増えたレストは、顔が微妙だと物語っている焼きフナを食べながら、アリスに相談する。
「これからどうしようか?」
「……どうって?」
「出口を探すのか、あの扉の奥へ行くのか、死に戻りするか」
レスト自身はどの選択肢でも良いので、選択肢が限られるアリスにこれからのことを聞いた。
決定権を渡されたアリスはそれぞれを思い浮かべ、考える。
出口を探すは、運が良ければ見付かるかもしれないが、見付からない場合ずっと探せるかと言われれば、今の精神的な問題ではキツく。
あの大群を倒して扉の先へ行くは、大群をどうにか出来る気がしないのと、考えているだけで震えが止まらなくなるので却下され。
アリスは二つがダメだったので、死に戻りを選択した。
「…ゴキブリに殺される以外の死に戻り」
絶対に譲れない条件も付けて。
それに対して、少し考えたレストは2本目の焼きフナを食べながら答える。
「下水で溺「…却下」し…だよね」
食い気味で却下されたレストは、紫色かと思えば黄色が浮かんでいたりするおどろおどろしい色の水面を見て、同感を示すように頷く。
「…それは最終手段にして…お願いだから」
水の色が問題ではなく、ゴキブリが入った水で死にたくないアリスは、レストの肩を掴み揺さぶる。
レストはアリスの必死な懇願に、冗談だったという機会を失った。
「他の方法だと、自爆はアリスとの約束でダメだし…」
「……そう」
一瞬、自爆に心が揺さぶられたアリスは、レストから視線をそらす。
そんな姿を見てないレストは天井を見上げ、指を折って死に戻り方法を言い始める。
「あとは…服毒と餓死と、ロープで絞殺と、Gに殺されるかもしれない天井爆発で圧死と…スライムの欠片を飲んで窒息死と……水を入れたバケツで溺死………松明で焼死と…………壁で頭を打ち続けると……」
「…もういいから。死に戻りはやめよう」
「えっ、うん。分かった」
考え始めると想像以上に出てくる自殺方法。
踏み込んでは行けない領域に入りそうで、何か怖くなったアリスはレストを止める。
ちなみに、スライムを呑み込んで窒息死したのは、今日の夜中に起きた時で、回らない頭で間違って出したスライムの欠片を、ゼリーと勘違いして食べて発覚した。
それでレストは眠れなくなり、植物の世話の後に凧を作った。
別の選択肢を少し考えた後、青ざめた無表情でアリスは、躊躇いながら話す。
「…扉は」
「そっち選ぶんだ…意外」
「……出口を見付かる気がしない…」
「そうだね…」
素で驚いた表情を浮かべたレストも理由を聞いて、アリス同様に暗い雰囲気となる。
既に4時間に到達しようとしている現在、脱出できるかもしれない手掛かりがあるのに、出口の手掛かりを探して再び歩き出せるほど、二人の心に気力はなかった。
レストが心配するのを余所に、アリスは再び戦う決意をした。
「…あの大きいG、エリアボス?」
「【ショートカット】【ショートカット】っと。レベル50で憎悪の女王って名前で、ボスと表示されていたから、そうだと思う」
トラウマで名前を見る余裕が無かったアリスは、経験で予測して答えを導き出し、Gを殲滅していたレストは肯定した。
FMGには、フィールド内の何処かに存在するボスモンスターが存在しており、それらを総称してエリアボスと呼ばれている。
エリアボスとイベントボスの違いは、ボス部屋と呼ばれる特殊な空間を持たないことや、倒すと再出現まで挑戦できないこと、ボスモンスターがエリア毎のレベル帯最高レベルで固定されていること。
最大の特徴が、夜間にだけ現れては破壊活動に勤しんだり、とある場所を常に徘徊していたりなど、特殊な生態をしていることだろう。
攻略方法を考えていたアリスは、隣で松明を壁に立て掛けて、倒れないようにしているレストに聞く。
「…あれ倒せる?」
「大量の爆裂玉か、濃縮炸裂薬を使えば」
「…レストでそれなら、他のプレイヤーは無理」
「別枠扱い!?」
「…つまり、あれらを倒すためのギミックがあるはず…」
レストが投擲でGを倒している間も、色々考えていたアリスは、ため息を吐き出す。
情報が少なくて攻略方法が見付からず、爆裂玉とかを使うのは爆発後がどうなるか分からないので使用出来ない。
あの状況だと自分が使えなくなることを理解しているアリスは、愚痴りたくなってぼやく。
「……せめて、数を減らす方法があれば」
「数を減らす方法ならあるよ。多分だけど」
「…そんな方法ある訳…えっ…」
レストがあるって言葉を認識した瞬間、アリスはレストの方へ顔を向けた。
それに対して、頬を掻きながらレストは言う。
「ボスも一緒に倒せるとは思えないけど、扉からここに来るまでの間に思い付いた方法」
今までボスモンスターも含めて、全てのゴキブリの討伐方法を考えていたレストは語り始めた。
「燃えているモンスターって、燃えてないモンスターに触れていると引火することがあるみたいでね。その方法を利用すれば、ボスは倒せないだろうけど、あの中で密集しているGたちは殆どが燃えると思うよ。つまり、松明をあの中に投げ込めばいい」
レストがこのモンスターが引火するという現象を見付けたのは、一番最初の大崩壊の時で。
瓦礫で動けなくなっていたゴキブリに、レストが松明で叩いて燃焼したゴキブリが逃げようとして、動けなくなったゴキブリに突っ込み、燃え始めた。
それを利用し、扉を開けた瞬間に松明を投げ入れ、中にあるものを燃やすのがレストが考えた討伐方法だ。
話を聞いたアリスは聞いた内容を考慮し、経験から成功の可能性や失敗する要因、改良案を導き出す。
「…それ、燃えているGがいたら、燃えたGは逃げない」
「あっ、そうか…なら…あと4本ある松明の内、使う用を除けた3本も投げる」
「…それで燃えない可能性も減る。投げる対象を女王にした方がいい」
「確かに大きいし、触れる対象が増えていいかも。そうだ、薪を撒くのはどうかな」
「…いいと思う。あと、中のが出てこないようにすぐ閉める必要もある」
それにレストも訂正を入れ、穴があった討伐方法を修正していく。
出来上がった討伐方法で、扉の奥に住み着いたゴキブリたちを倒す為に、二人は再び扉へ向かった。
そして、物資的な準備を終え、アリスの心の準備を終えた頃。
「……分かっていれば、見ても大丈夫と思う」
「無理なら大丈夫だから言ってね!!」
この期にトラウマを少しでも克服しようとアリスは意気込み、その背後でまた泣き出すのではないかと、気が気でないレストは狼狽えている。
「じゃあ開けるね【挑発】」
「…分かった」
松明を扉の横に立て掛け、それとは別の松明を持ったレストは、メニューを開いた状態で扉を力強く押した。
レストは開いたと同時にしゃがみ、待機状態だった【宝物庫】から100個の薪をオブジェクト化させ、ゴキブリたちに薪の雨を降り注がせた。
「…ッ!!」
レストが手に持っていた松明を投げた瞬間に、背後で少し怯えた様子を見せたアリスも、2本の松明も一際大きなゴキブリに投擲する。
「おりゃあーー!!」
最後に、レストは壁に立て掛けていた松明を投げ、雄叫びを上げながら無理やり閉じた。
この大量のビックコックローチを討伐する方法は、レストが【挑発】でゴキブリを引き付けながら扉を開けた後に屈み、屈んで出来たスペースからアリスが松明2本を投擲して。
最後に、薪を出現させ、松明2本を投擲したレストが扉を閉めて、自動回収のログが止まったら、残ったゴキブリたちと戦うという方法だ。
事前に、燃えたゴキブリで薪に火が着くか試しているかや、踏んで捕まえたゴキブリを燃やしたゴキブリに当てて燃えるか確かめてもいるので、二人は成功する自信を持って実行した。
憎悪の女王や、何匹かのビックコックローチが燃えていたことを見ていたレストは、成功した達成感と現状の諦観が混じったため息を吐く。
「さっさと倒すか」
「………」
開けた時間は5秒にも満たないが、群がって攻撃してくる10匹以上のゴキブリを無視して、レストは足下の近くに置いていた装備中の松明を拾い、アリスから遠い場所で戦い始める。
ちなみに、1匹も纏わり付かれてないアリスは、レストが全身にゴキブリを装備した姿を見て、トラウマを思い出して放心していた。
こうして、大量のビックコックローチを討伐する方法は、レストが扉の開閉と松明2本と薪と【挑発】を、アリスが松明2本を担当することで無事に終わった。
しかし、この方法が、中にいた憎悪の女王すら討伐する方法だったことを、この時の二人は知るよしもない。
「……レスト。お願いだから、あんまり近付かないで」
「結構、精神的に来るものがあるけど…まぁ、全身にGを纏まり付かせた人がいたら、こっちもそんな反応するから、仕方がないかな」
「……本当にごめんなさい」
「いいって。アリスもあげたコンパクトチェアに座って、その時を待つよ」
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憎悪の女王討伐が終わらなかった…
追伸。
ネタが切れました。
更新ペースかなり落ちると思います。
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