第48話 アリス先生

 嫌な予感で問い質したアリスは、何かのキーアイテムの次に出した伝説のアイテムで、嫉妬すら起きないレストの常識外れっぷりに呆れた。

 そして、このままでは色々不味そうな気がしたので、先送りにしてた常識を教え始めて数分。


「マジか…」


 レストは説教(アリスは普通に教えているつもり)で茫然とした声で、土下座した状態で頭を抱えた。

 アリスから共有機能を使い見せられた標準的な初級ライフポーションや装備の数々で、どれぐらい自作のアイテムがぶっ壊れ性能か理解させられ。

 メニューから見ることができる週一で行われた集計ランキングに載る、ユニークホルダー(ユニークスキル持ち)ランキングのトップが2つしか持ってない衝撃の事実や、最高火力ランキングでトップのアリスと同等以上の攻撃をしていたことを気付かされ。

 暴獣たちから受けたダメージだと思っていたことが自傷ダメージで本来は殆ど食らって無かったり、敏捷を優先的に振っているアリスより速かったことを教えられた。


「…ユニークスキル持ちのプレイヤーは常識外れと言われてる」


 何よりもレストがユニークスキルを幾つか持っていることを知っているアリスが言った一言で、


(これ客観的に見ると、常識外れどころか非常識の塊なんですけど)


 ランキングに乗っている合計のユニークスキル数よりも多い、8つのユニークスキルを持っていることにレストは気付き。

 教えられたことやレジェンドスキルの存在も相まって、どれだけ自身が非常識な存在かを知り、思わず今まで以上に自制と自重をしようと決意したほどだ。

 土下座状態でナニカから頭を守るような体勢のレストが、イベント終了後にやる予定だった生産活動の見直している時、再びアリスが話しを戻す。


「…あの指輪だけでもとんでもない発見したのは分かる??」

「は、はい。あれだけ倒して3つしか入手出来なかった暴獣の匂い袋の効果がモンスターの遭遇率上昇補正だけなのに…ふ、古き緣の指輪は通行許可とか色々な効果が付いていること」

「…それ以外にも。レストが見つけた祠は、1日1度だけフィールド内の何処かにあると言われる祠イベントの祠。お供えすると、ポーションとかHP+1が付いた指輪とか貰えることからガチャとも言われてる」

「そんなイベントあるんだ」

「……」


 知らないでお供えした様子のレストに、アリスはこの時初めて天然疑惑が浮上した。


「…そのイベントで、確率かそれとも何かの条件があるのかは分からないけど、強力なアイテムが入手できると分かったこと」

「うん」

「…効果を見るに何処かへ行くために必要なアイテムだということ」

「うん。あっ、後でアリス誘って来ようと思って場所覚えたから行ってみ、行きませんか??」


 僅かに表情の変化でお叱り中だと思い出し、敬語に戻しながら少し青ざめた様子で誘うレスト。

 マイペースなレストに少し呆れたアリスだったが、やったことがなかったので頷いて承諾した。

 ちなみに、アリスは呆れはしたが怒ったりはしてない。レストが怖がったアリスの表情や声音は、嫌な予感でいつも以上に表情や声音が強ばり、アリスと交友持って数日のレストが怒られていると思い込み、今もなお勘違いしているだけのことだ。


「…そんなとんでもない発見したのに、それ以上のアイテムを発見した」

「あのー、生命水は多分他のプレイヤーじゃあ当分入手出来ないと思いますよ」

「……えっ!?」

「ここからは他言無用でお願いします」


 アリスを信用してるから言うことにしたレストは、苦笑しながら告げる。


「生命水って黄金に輝く木の周りにあった泉から取ったもので…採取条件というものがありまして」

「…それを満たしてないと入手出来ないということ??」

「生命水が入っていたポーション瓶以外のポーション瓶に入れると爆散するし。器用+100以上やプレイヤーレベル100以上とか凄く条件厳しいので…あっユニークスキルのお陰です」

「………つまり、現状レストが持つユニークスキルが無いと入手出来ないと」


 レストは視線を横にずらして頷く。

 並みのポーション瓶じゃあ爆散するとか、そのポーション瓶を持っていた理由とか、採取条件の異常さとか、必要な条件を無視したユニークスキルとか、ツッコミたい所が多々あるけど、アリスはそっち方面に詳しい訳でもないので納得した。


「…なら、それ人前で使ったり、見せたりしない方がいい」

「分かりました。例えばですが、一人の時なら良いですか?」

「…人前でなければ」


 使うつもりでいるレストに、アリスは釘を刺すことにした。


「…そのアイテムの存在を知られると、唯一入手できるレストもそのアイテムも狙われる」

「気をつけます」

「…ゲーム内だけじゃない」

「えっ!?」

「…ごく稀に現実で居場所特定して、脅迫してくる人とかいる」

「それてマジの話だったの」

「…ゲーム内のいざこざで現実の殺人事件を起こしたとか、VRゴーグルやハードとかを窃盗や壊したりしたって、何度か他のゲームしてるときに聞いたことある」


 ネットで書かれていて知っていたがアリスの口から出た言葉で、思わず普通に聞いてしまったレストは、淡々と説明される内容に背筋が凍ったかのような感覚を味わい、頬を引き攣った。

 それを確認したアリスはいつもより僅かに力が籠った声音で、無頓着なレストに警告する。


「…だから、不用意に使わないこと」

「了解しました!!」


 レストは高速で頷いて正座の敬礼で答えた。

 このあと、ボス部屋から出た二人は夜のオオテ鉱山を大樹爆破で祠まで進み、レストの発案でアリスも大量のお供え物をした。

 インベントリにある勿体無くて捨てられない大量の剣や、数多の暴獣の素材、誰かさんのポーション一つ、レストから譲渡された採集物を各種1つ。


「…これ」

「おぉぉ!!」


 その結果、“???への通行が許可される”と“不壊”と“譲渡不可”の効果を持つ木製の指輪、縁の指輪を入手した。


「…また増えた」


 レストには聞こえないように小声で漏らし、少しずつ増えていくレストへの借りの返済方法を悩むアリスだった。

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