第49話 えっ、武器がならそこにあるよ??
「来た来た」
草木や花がまだらに生えた平野にある踏み固められた歩道と、歩道から離れた場所にある地面が抉られた窪み。
光源が月と星しか無い深夜の時間帯で、歩道で立ち止まったレストと様々な姿形の動く影。
「モォォォォオ!!」
「キューー!!」
「ガルルルル!!」
「カチカチカチ!!」
「うん。本当にノーダメだわ」
目が血走る雄牛“ラッシュブル”の突撃を片手で受け止め、背中から体当たりした兎“チャージラビット”は逆に弾き飛ばされ、右手に噛まれた野犬“ワイルドドック”との綱引きには余裕すらあり、足に何度も噛みつく百足“ラージセンチピード”の毒牙が刺さらない。
レベル20~25帯のモンスターで一切のダメージが入ってないレストは、アリスが言っていた防御力の高いという意味を実感して遠い目となった。
「ゼロに何掛けてもゼロだわ」
右手に3匹の野犬と綱引きし、2匹の百足に様々な場所を噛まれ、5匹の兎の交代交代の体当たりを弾き、1匹の闘牛からの助走を付き突進を左手で受け止める。
さらに、周囲で音波攻撃をする蝙蝠“ノイズバット”が2匹、マフラーと化してる蛇“ホールドスネーク”が1匹、頭に爪を立てた猫“スマートキャット”が1匹、虎視眈々と狙う蚊“ビックモスキート”が3匹。
そんな状態でも無傷なレストは動けないので、少し離れた木の上に座るアリスへ助けを求める。
「アリス助けて」
「…反応がない屍のようだ」
「おーいアリスさん。助けてください」
「…反応がない屍のようだ」
「いや、反応あるよね」
20匹近いモンスターに攻撃されている中でも聞き分け、足をふらふら動かしているアリスにツッコミを入れるレスト。
そして、不思議そうな様子のアリスは、突如閃いたかのように、握った拳を掌に乗せる。
「…モンスターを助ける??」
「いやこっち!!」
今ので音波攻撃をしてくる蝙蝠が1匹追加された。
自身が試してみたいとは言ったが、救助要請を送っても茶番を繰り広げてスルーされる理由考えたレストは、
「もしかして、自分で倒せということ」
「…レストのポテンシャルならいける」
モンスターに埋もれながらアリスの方へを見ると頷く姿が見えた。
どうやら、アリスはこのぐらい助けるまでもないと考えてたようだ。
(近すぎるな…どうするか)
爆裂玉を使うにはモンスターが近くて自爆の可能性があり使えない。
爆発物の投擲を主にするレストがどんな行動を取るか、アリスが注目する中、レストは動いた。
「ふーん!!」
「キャィン!」
右手を噛んでいた野犬の1匹を掴み振り回し始めた。
野犬で兎や闘牛に当て、空いた片手で首を絞めている蛇を無理やり外し、顔を持った蛇の尻尾で蝙蝠や蚊に叩きつける。
振り回される苦痛の声を上げるモンスターに、当てられ悲鳴の声を上げるモンスターたち。
「…モンスターは武器じゃない」
顔を手で覆いながらアリスがツッコミを入れた。
「とりゃあー!!」
そんなアリスの呟きに、集中しているレストは気付かない。
必死に戦うレストが可愛い兎を手に、逃げようとした猫へ投げつけた。
「おりゃぁー!!」
せめて、殴りや蹴りで牽制してから、少し距離を空けた後に石を投擲するとか、もう少し常識的な戦いをして欲しいと思うアリスだった。
この後、レストは悲鳴で駆けつけた援軍や夜の襲撃すら同じ方法で退ける。
「…モンスターよりもモンスターっぽかった」
「ぐはぁ!!」
アリスの一言と【暴虐非道】の習得で、無傷なレストは今回の戦闘で一番大きな(精神的)ダメージを負うのだった。
○
「…ここが精霊の森」
「聞いてた以上に幻想的な雰囲気…」
二人がマッドネスウルフへ挑む為にやって来た精霊の森は、夜の時間帯ゆえか美しい光景だった。
木漏れ日の森のような枝葉の隙間から、月光が入る混交樹林。
各所の倒れた木や生えた木の幹にある苔が光り、小川の周囲に蛍が舞い、僅かな光源でうっすら出ている霧が白のカーテンを可視化させ。
風で揺れては擦れる枝葉や草花の音、スズムシやマツムシによる虫の合唱、時々息を潜めたかのような静寂に聞こえる獣の唸り声が、この光景の前には引き立てる為のBGMかのように鳴り響く。
緑園の草原を人々の理想の情景とするなら、精霊の森は今は無き失われた状景。
アリスから事前に聞かされたレストは見とれ、何度か見ているアリスでさえも見入る風景がそこにはあった。
見入っていたことにアリスは気付き、1度だけその風景を凝視た後に振り返って問う。
「…マッドネスウルフ朝からでいい?」
アリスの声で見とれ状態が解除されあレストが慌てて返事をする。
「えっ…あっ、うん、了解」
「…夜明けまで1時間ぐらいあるから、精霊の森周囲で素材集め兼ねてレベリングする」
「了解。でも、少し待ってて」
「…どうかした??」
「蛍捕まえられないかなーって」
「…いつものか」
「ひどい」
泣いたふりをするレストに、平常運行で安心したアリス。
「…すぐに戻って来て。マッドネスウルフがいつ襲ってくるか分からないから」
「そんな気配感じないし、大丈夫だよ」
アリスはウズウズした様子のレストに許可を出し、レストが駆け出す。
飛んでいる蛍がなかなか捕まえられず、ジャンプしたり、川に落ちたり、木からダイブしたりして、生産活動中並みの集中力で、レストは蛍を確保に成功する。
「やっと捕まえた。今度虫取り網作ろうかな…あっ釣竿も」
「グルルルルルゥ!!」
「えっ…ごめんアリス!!」
両手で包み込むように蛍を持った体勢のまま背後に振り返って、大きな狼を見たレストは大声で謝る。
この時、精霊の森の外にいたアリスはフラグが本当にあることを知り、レストが攻撃されると同時にアリスもその場から消えた。
こうして、予定外の夜のマッドネスウルフ戦が始まった。
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書こうとしても上手く書けなくて、書こうと思っていた内容が変わる今日この頃。
書いてて楽しかったけど。
ジャンル変更します。
詳しいことは近況ノートに書きました。
これからも楽しんでいってください。
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