第38話 黒星
次に二人が目指したのは暴獣マッドネスモンキーがいる“オオテ鉱山”。
特徴をあげるとすれば、1メートル以上の幹を持つ大樹が森全体に自生し、枝葉が日差しを遮断するから薄暗く。大きな手で覆ったかのように僅かな光しか地面へ届かないため、地面や落ち葉が湿って滑りやすく、戦闘がやりづらい。
鉱物資源のある坑道へ行く道以外は獣道で傾斜な上に、湿った地面を踏んで転げ落ちたという事故も発生している。
β版から注意が必要な場所と言われ、鉱物採掘以外では訪れるプレイヤーが少ない、木漏れ日の森とは違った意味で不人気のフィールドだ。
「こいつが今回の相手か…」
「…強そう」
マッドネスクロウの時とは違い、それなりのプレイヤーたちが集まった一角に座っている大猿(討伐済み)がいた。
暴獣特有の赤黒い毛並みと赤い瞳、肌色の皮膚持つ約4メートルの身長。毛並みで隠れているが、引き締まった体から容易に鍛えられた筋肉が想像できる。
「…体力回復してから挑む」
「了解…コンパクトチェアいる??」
「…いる」
突風の谷からオオテ鉱山のマッドネスモンキーいる場所まで直線上に進んだとはいえ、道中の地形やモンスターの戦闘、さらに休まず来たで、二人とも体力減少による身体能力低下を感じている。
アリスの提案に即答したレストがコンパクトチェアを出して、二人は傾斜となっていない所で座った。
「せっかくだし、この前言ったホットミルクに森イチゴのジャム入れたやつ作るね」
「…ありがと」
何人かのプレイヤーがパーティの勧誘や回復アイテムの売買に来たが全部断り、ジャム入りホットミルクで癒された二人はマッドネスモンキーに挑んだ。
◯
レストとアリスが転移した先は、傾斜や獣道と言った凹凸のある地面がなくなり。今まで戦った暴獣のボス部屋と違い、障害物となる大樹が生えたボス部屋だった。
そして、二人の正面から数十メートル離れた位置にある大樹に暴獣のマッドネスモンキーはいた。
それらを事前に知っていた二人が動き出す。
「ギャァア!!ギャァア!!」
「【隠密】」
「…【挑発】【疾走】【体動の呼吸】」
今まで通りアリスが前線で戦い、レストが後方で支援するために行動をした。
ログアウトした時に集めたマッドネスモンキーに関する情報から、攻撃するとき以外は木から降りて来ないと知っているアリスが、自身を標的にさせるために、マッドネスモンキーがいる大樹を斬りつけ、揺らして
1つの爆裂玉だけ持つレストは姿見えているとあんまり効果のない【隠密】を、最も効果を発揮させるために後方のマッドネスモンキーから見えない大樹の後ろへ隠れる。
「…レスト行った!!」
だが、マッドネスモンキーが標的にしたのはレストだった。
木から木へと移動し始めたマッドネスモンキーは、レストと直線上になる大樹へたどり着き。
幹を強く蹴りつけて、
「ギャァア!!」
「ぅがぁ!」
背中を向け逃げていたレストに飛び蹴りを食らわせ、顔から地面に激突したレストはHPが3割削った。
「くっ!!」
「ギャァア!!ギャァァア!!」
「あぁぁぁあぁぁあ!!」
不自然に片手を上げるレストを踏みつけたマッドネスモンキーは、そのまま体重を生かしたジャンプして再度踏みつける。
それを繰り返し、着実に1%ずつ減らしていく。
「ギャァァァア!!」
「あがぁ!!」
5 度目に踏まれ時、レストは上げていた手を後ろへ爆裂玉を投げる。
しかし、レストの上でジャンプしているマッドネスモンキーには当たりもしない。
後方10メートルぐらい投げ飛ばされた爆裂玉は爆発し、大樹をへし折った。
「ギャァ??」
「…【クイックスラッシュ】」
後方を見ていたマッドネスモンキーに、いつもより走るのが遅いアリスが斬りつける。
再び斬りかかろうしたが、マッドネスモンキーは大きく跳躍してレストが隠れていた木を掴まり、登り始めた。
「助かったアリス」
「…ごめん、転けて遅れた」
前側の装備に土が付いた状態のアリスは答え、レストを背後に二人の周囲の木を移動するマッドネスモンキーの方へ剣先を向ける。
メニューから新たに爆裂玉をレストが装備した。
それから、マッドネスモンキーの踵落とし、タックル、引っ掻き、プレスなどの攻撃が続き。アリスがカウンターをしかけて、合計で約2割ほどのダメージを与えていく。
(このままじゃあ…アリスの足を引っ張ってしまう)
狙われるのを守られてばかりで、何も出来ないレストは己の無力さを噛み締める。
唯一の攻撃手段を下手に投げると、善戦しているアリスを自爆に巻き込んでしまう可能性があるから。
例え自爆によるダメージが無くとも、吹き飛ばされて不利な状況になるかも知れず。機動力のあるマッドネスモンキーに当てるのが難しいことはマッドネスベアの時に経験し、枝葉を当たらず投げて当てられる自信もない。狙えるであろうタイミングは、マッドネスモンキーが攻撃しに近づいてくる時だから、必然的に自爆のリスクが高まる。
だから、爆裂玉を投げて支援することが出来ない。
レストは「せめて、他の攻撃手段を作っておけば良かった」と内心後悔した。
「……私と相性が悪いかもしれない。爆弾投げて倒して」
一方、アリスもこのままではじり貧だと感じていた。
遠距離への攻撃手段もない、決定打になる攻撃は狙う隙もない、滑る足場では実力が出しきれないことを。
だから、暴獣の心は諦め、決定打と遠距離攻撃が出来るレストに託した。
「ごめんけど。こっちも相性が悪い。機動力のあるマッドネスモンキーと周りの植物が邪魔で、投げたら自爆して巻き込む可能性がある」
「……このままやるしかない」
剣を構えてアリスはこのまま戦うことを決め。
レストはこの状況を打開するために、思いついた方法を実行するために決意した。
「いや。アリス、今から自爆して、出来るだけダメージ与えてくるから、あとよろしく」
「………えっ!?」
守るものが居なくなれば、アリスは今以上に戦えると考えたレストは走り出す。
転けそうになることもあったが、アリスからある程度距離を取り、マッドネスモンキーが来ているのを確認したあと。
確実に成功させるため、【挑発】を使って爆裂玉を木の根元に当てた。
「アリス。絶対近づかないでね!!」
「ギャァァア!!」
「ぐふっ」
アリスが「…しなくていい!!」という言葉はマッドネスモンキーの叫び声で消え、レストに聞こえなかった。
体当たりで押し倒されて踏まれたレストは、メニューから取り出した何かを口に入れ、ガシッと足を抱きしめたあと、
「あとは頼んだ!!」
「…レスト!!」
アリスへ一言伝え、歯の上に乗せた爆裂玉を勢い良く噛んだ。
そして、いつもより大きな爆発が起き、残ったのは爆心地から少し離れた大樹に叩きつけられたマッドネスモンキーのみ。
「…【首刈り】【退魔之剣】【ライトスラッシュ】」
後で叱ることを決めたアリスは、既に滑る足下をお構い無しで走り始め、HP3割と少しまで減らしたマッドネスモンキーへコンボを決め、2割以下にすることを成功させる。
この後、スキルによるカウンターも決め、MPが無くなっても通常攻撃だけで着実にダメージを与え、1割を切ったが。
「ギャァァァァアア!!」
凶暴化したマッドネスモンキーに攻撃し続けたことでアリスは体力の限界を向かえ、剣が折れてなくなった僅かの隙に、他の暴獣より溜めが短い硬直効果の咆哮で動きを止められたまま、ドロップキックを食らい、アリスの視界は暗転した。
この後、街中で正座をして叱られ、襟首を持たれた引きずられる子供がいたとか。
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ハート数とか、PV回数とか、色々な記念ができてなかったので、今日は2話更新します。
次は19時にどうぞ。
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