第37話 暴獣の習性

「…キャンプ貸してくれてありがとう。いってらっしゃい」

「昼食のデザートにゼリーでも食べてのんびりしておいで。きちんと無事に帰ってくるから……いってきます」


 昼食の為にログアウトするアリスへ最後に伝えたあと、レストは画面を操作して、大丈夫と言いたげなサムズアップと共に白い粒子となり消えた。


「…大丈夫だといいけど」


 レストが居なくなった方を見て、アリスは思わず言う。

 アリスは不安が胸に押し寄せてくるが、昼食を取るためにキャンプの準備を始める。

 回避訓練を見る限りド素人の印象が強く、弟子みたいな存在で、不思議と気が合うゲーム友達のレストに悪いが。

 突風で吹き飛ばされ落ちるか、マッドネスクロウの足に掴まれて落とされるビジョンしか浮かばない。

 アリスはその不安を誤魔化すように、地面がある所に置いてテントを立てることに集中する。

 そして、テントが飛ばされないよう杭を小槌で打って固定していた時に、白い粒子が発生し、レストは戻ってきた。

 レストがアリスを確認すると悟った目をして、


「初手で倒しちゃった☆」


 左手を腰に当てて握った右手で頭を叩き、片目ウィンクと舌を出す──俗に言うテヘペロのポーズで、とんでもないことを言い放った。

 思わず小槌を投げたアリスは悪くない。



 円柱のような石で出来た不安定な足場は、分断するかのような2メートルの狭間が中央で重なり、十字に分かれた4つの足場を形成し。

 その足場の1つにレストはいた。

 レストに見えないが、分断された十字の隙間と足場の外側はずっと下に地面があり、高い位置にいることが分かる。

 そいつは、レストがいる足場から十字の中心を挟んだ逆側に向かい合うよう存在した。

 黄色の月が照らすのは、暴獣特有の赤黒い姿と血のような赤い瞳。3メートルという巨体と地面に着いた鋭い爪がある足。全体的に少し黒く感じる黄色の嘴を少し開いくマッドネスクロウ。


「先手必勝!!」


 レストは黒の巨体を確認した瞬間、準備していた5つの爆裂玉を取り出して、翼を広げて吼えようとしているマッドネスクロウに投げつけた。


「よし!!…危な!!」


 投げた爆裂玉は全部当てることに成功し、マッドネスクロウから爆音と悲鳴が聞こえる。

 レストはガッツポーズをして喜び、突風が吹く前兆である微風を感じる。

 突風で飛ばされないよう足場に捕まり、飛ばないように戻ってきた帽子を押さえ、風に当たる面積を減らすために伏せた。

 作戦が成功したことにレストは、内心成功した歓喜で埋め尽くされる。


 この作戦は一人で挑むと決めた時から道中でどう戦うか考え、レストが暴獣と戦い続けて気づいた暴獣の習性を利用した作戦。

 吼えてから攻撃に移る暴獣へ、吼える前に爆裂玉を当てるというものだ。

 それも同時に複数当てれば、最初から大ダメージ与えられるという、レスト自慢の作戦である。


「クァァァ…ァァ…ァ」

「声はするのに何処にもいない…まさか上に!!」


 突風が止んだのを確認すると、レストはマッドネスクロウの声はしたが、いないという状況に遭遇した。

 この状況の類似解と、アリスのアドバイスである空を飛ぶボスだというのを思いだし、レストは空を見るがマッドネスクロウの姿が見つからない。

 レストが周囲を探そうとしたときに、物が落ちたような大音量が響き、ドロップアイテムの自動回収のログが現れた。


『【先手必勝】を習得しました』

『【爆殺強化Ⅱ】を習得しました』

「……マジか」


 先手必勝で【先手必勝】などのスキルを習得したことや、レベルアップを知らせる表示にレストは、とある考えるが浮かび頬が引きずる。

 それを確かめるために、ぴょんぴょんと狭間を越え、マッドネスクロウがいた足場へ行く。

 しっかり掴まって伏したレストは足場が存在しない地面が見える所を見下ろすと、爆裂玉が爆発した訳でもないのにあるクレーター。


「あーやっぱり。爆裂玉で飛ばされたマッドネスクロウは落ちたのか」


 レストはマッドネスクロウが爆裂玉の爆風で飛ばされ、あのクレーターの位置に落ちたと考えた。


 マッドネスクロウは、本来なら飛行中に魔法や弓による攻撃を食らわせて落下させるという方法で倒すボスなのだが。

 レストの作戦と爆裂玉が上手く作用した結果、死にかけのマッドネスクロウは地面へ落下した。

 マッドネスクロウが威嚇のように翼を広げて吼えようとした為に、威力がおかしい爆裂玉の爆風で浮かび上がり、それが飛行中の攻撃と判定され落下する。

 さらに、マッドネスクロウは他の暴獣たちより軽く、爆風で足場の無い所まで飛ばされ、ギリギリ生きていたが高い位置から落下することになる。

 魔法では出だしが遅くて、攻撃が間に合わず。

 弓では威力が足りず、ノックバックさせることも、浮かび上がらせることも出来ない。

 現在、爆裂玉を持つレストのみ出来る方法だ。


 戻った時にいるであろうアリスへの説明をどうするか考えているレストは気づいてないが。


「いたら、テヘペロで乗りきろう」


 あんなセリフを言ってすぐ戻るのは恥ずかしいと思うレストは、和ませるために何故かテヘペロ作戦をしてから説明することを決め、ボス部屋を出た。

 テヘペロでは小槌によるツッコミ(当ててません)をもらい、説明を聞いたアリスが「…出会い頭の爆弾は酷い」と呆れた声音だったのが印象的である。

 アリスがログインするのを待っているレストはドロップアイテム目当てで、暴獣の心晶の使用限界まで使い。今日で合計3度のマッドネスクロウにあの酷い戦いをして、ドロップアイテムにご満悦のレスト。


「…次に行く」

「了解!!」


 こうして、二人が身構えていたレベル40の暴獣はあっさりと倒された。


────────────────────

アリスがログアウトしたあとに、レストは新たな黒歴史を作ったことに気づいて、羞恥心で精神的ダメージを負った模様。

全然昨日の反省が生かせてないレストでした。


とあるテヘペロは見て、思わず使いたくなってしまった!!

次の話から真面目?に暴獣攻略スタート!!

これからも楽しんでいってください。

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