第39話 反省会

 始まりの街にある良心的な価格の食堂で二人は食事を黙々と食べていた。

 先にゆでたまご一番安いメニューを涙目で食べ終わったレストは、アイテム整理をしながら考えていると。

 ガーリックステーキに硬パンと野菜スープが付いた──ステーキセット一番高いメニューをアリスが食べ終わる。

 アリスが最後に使った木製のスプーンを置き、その音によって気づいたレストは視線を向けた。


「…ごちそうさまでした」

「反省会を始める?」

「…始める」


 その一言でメニューを閉じて姿勢を正したレスト。

 つられるようにアリスも背筋を伸ばす。

 こうして、マッドネスモンキーに負けたことで、今まで通り戦っていたら、未だ討伐者のいないマッドネスウルフと戦った時にまずい、と考えた二人による反省会が始まった。


「じゃあ最初はこっちから言うね。反省は…攻撃手段が自爆可能な爆発物しかないことかな。特に障害物が多い所や速い敵には、普通に投げたら近接で戦ってるアリスを巻き込む可能性あるから、他の攻撃手段があった方が良いと思った」

「……」


 無言のジト目をしてくるアリスにたじろぎながらレストは続ける。


「あ、あと…居ない方がアリスの戦闘の邪魔にならないかなーと思い、自爆しました」

「………」

「もうしません!!口に入れて自爆は、絶対!!」


 冗談で考えた腕が使えない状態時に爆発させる方法は、自爆に慣れたレストは大丈夫だろと楽観的に考え実行したが。何があっても絶対にもうしないと決意させるほど、後悔するものだった。

 爆発した時に勢い良く無理矢理口を広げられ、一瞬で口内どころか体内まで経験したことのない激痛。

 死に戻りする直前、爆発は体が膨らませ過ぎた風船のように破裂する光景を、幻視させるのには十分だった。

 死に戻りした後、アリスが死に戻って来るまでその場に茫然と立ち尽くし、アリスの説教で生きてることの素晴らしさを噛みしめたほどだ。

 説教してたアリスが自爆をもうしないか聞いたときに、思わずレストは世界平和への意気込みを言って、街中で正座状態の説教へ移行したのは記憶に新しい。

 そのことを思い出したレストは目を見て力説する。


「…ふーん。口に入れて自爆は…か」

「あっ…」

「…カットピーチ一人前追加」

「もう自爆はしないので勘弁してください!!」


 腕を組みそっぽ向くアリスに、失言をしたレストは拝みながら謝る。

 ちなみにだが、ここの料理はレストの奢りである。

 説教の結果、アリスと組んでいる間に自爆したら何処かで奢る、という約束を二人はした。

 説教中に、レストの「既に何回もしてるから」という言葉で、パーティ組んでいる時に自爆されたくないアリスは、素材集めて金銭に余裕がないことを知っていたのでこの約束させ。

 反省会といえば会議室か何処かの店と二人の中では相場が決まっていたので、この食堂へ来て、勝手に自爆した罰ということで現在レストはなけなしの金で奢っている。


「…約束忘れた罰」

「そんなぁー」


 自業自得なので涙目のレストは店員を呼び、デザートで一番高いカットピーチの料金を払って注文する。

 実は、この約束を忘れないようにさせるために、アリスは自爆した罰で奢らせた。

 何気に計算高いアリスである。

 アリスの中で既に凄腕の職人ではなく、常識外れの変人となっていることは、レストは知らない。

 脳内構図が爆弾=レスト=ポンコツ?となっていることも知らない。


「…次は私の反省」

「あった??」

「……あった」


 頭を傾けながら思い出したが、ダメだった点が分からないので、レストは首を振って降参した。


「…一つ目は遠距離の攻撃手段を持ってないこと」

「アリスは近接型だからしょうがないと思うけど」

「…この点は遠隔型のレストがいるから問題無い。でも、二つ目の反省点のパーティなのに連携が一切取れてない、のが問題」

「た、確かに…今までパーティプレイできてなかった気がする!!」

「…でしょ」


 アリスがどや顔風の無表情で言ったのを、レストは何度も頷く。

 連携と言えるのは咆哮潰しのみで、パーティなのにソロで戦っていた二人は、今頃になって自分たちの戦い方が一般的なパーティを組んだプレイヤーたちと離れていることに気がついた。

 二人とも、ソロでろくにパーティを組んだことがないや、今までのボスにそこまで苦労しなかったのが原因だ。

 お互いに気が合うとはいえ、パーティ組んで三日目なので、経験不足ゆえに上手く戦えず、あと少しの所でマッドネスモンキーに負けた。


「目指せパーティプレイだね」

「……今日から要練習」


 それが改善できれば、マッドネスウルフにも勝てるかもしれない、と二人は考え、連携の練習をすることに決める。


「…三つ目はこの靴で行ったこと」

「銅の靴が??」


 本来なら繊維や革の防具などの軽い装備を身に着けたいアリスだが、速いと言えるモンスターも技量で倒せ、HPと耐久に振ってないという理由もあって、多少遅くなるが防御力の高いものを選んだ。

 なので、現在のアリスは、装飾の鞄以外、靴も含めて銅の軽装で統一している。

 レストが机の下の靴を見たのを確認すると、アリスは言う。


「…鉱物系の靴は他の靴に比べて滑りやすいって、検証サイトに載ってたの忘れてた」

「あー、なるほど。オオテ鉱山が滑る地形してたから、その靴では上手く動けなかったってこと?」

「…うん。靴底まで銅で覆われた防御力重視の靴だったから…滑って戦いにくかった」

「その状態で戦い続けたって凄いね」


 踵を石タイルに叩きつけ、金属音を鳴している悔しそうなアリスに、レストは苦笑する。


「…それにあの時、唐竹じゃなくて横薙ぎしていれば…」


 このあと、店員がカットピーチを持ってくるまで、アリスが自身の技術的な反省点を言い続け、


(これがアリスの強くなれる理由だろうな…)


 話についていけないレストは、強くなりたいと改めて思うのだった。


────────────────────

書いてて思う訳ですが、この二人は出会って三日目だよな…と。

現時点でこの息の合いようだと、本格的にチームワークを磨いたら、どうなるか楽しみです。

いつかは目で会話するというのを書きたいな。

あり得ないぐらい先だろうけど、頑張ります。

これからも楽しんでいってください。

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