第21話 同類

「…そんなに使って大丈夫??」

「うん?…あっこれ。これならまだ500個近い在庫あるから大丈夫」


 片手剣1本分の銅鉱石から片手剣2本作るという質量保存の法則を無視したレストが鍛治を終え、キャンプしている場所が高台のようになった頃。

 この惨事の原因である赤いビー玉爆裂玉について質問され、レストは楽しそうに鍋をかき混ぜながら答える。


「…500個って」

「………ユニークスキルだよ」


 インベントリの容量を思い出したレストが視線をそらしながらポツリ言い訳をし、アリスは目の前の規格外に本日4回目のジト目を送った。


 ちなみに、アリスが過去にジト目になったのは、レストに説明されたときである。

 1回目は「ユニークスキル(真)のお陰で2本目の剣を作れた」と言ったとき。

 2回目は「始めて銅の片手剣を作った」と言ったとき。

 3回目は「ユニークスキル(嘘)でドロップアイテムは自動回収できるから大丈夫」と言ったとき。


 アリスの中では爆撃でモンスターを倒すうえに、複数のユニークスキルという爆弾を持つプレイヤー、爆弾=レストの構図が出来上がりつつある。


 なお、アリスはレストの嘘に気づいていません。


「…スキルいうときは気をつけて」

「アリスさんなら大丈夫と思っていってるから」


 自爆可能という爆発物を扱うも相まって、レストの会ってその日に信用する無防備さに、アリスは頭を抱えたくなった。

 信用されているというのは、嬉しくないわけではないが。


 まぁ、肝心のレストはレジェンドスキル【万物の創造者】が爆弾なので、アリスの話で信用できると思い、説明できないことをユニークスキルといい、贅沢な囮にしているだけだが。


「こんなものかな………思ったより美味しくできたかも」


 レストは自作の木の小皿を使い味見をしたあと、新たに用意した木皿に鍋の中身を入れ、木製スプーンもセットでアリスに渡す。


「どぉーぞ」

「…いいの??」

「いいよ、いいよ。一人で食べられる量じゃないし、この熊鍋」

「…熊鍋は初めて」

「こっちも」


 お互いに夜空の下で食べ始める。


「…美味しい」

「調味料が少なくて不安だったけど、美味しいできてよかった」


 街で買った野菜と塩、森で集めた食材、持っていた熊肉で作った鍋。

 熊肉は鍋の具材や良い肉を使ったことで臭みがなく、微かな甘味と舌の上でとろけるような肉の旨味がし、入った野菜と一緒に食べるとより美味しい。

 スープは野菜や森の食材の出汁、熊肉の脂が溶け合い、何度でも飲みたくなる味となった。


「…この肉美味しい」

「うん。マッドネスベアの肉が凄く美味しい」


 この熊鍋にはお客様アリスもいたので、持っている中で一番良い肉マッドネスベアの肉を使っている。


「…マッドネスベア??」


 最前線で戦っていたアリスが知らないモンスター名だったので問いかけた。


「そういえば今日は出てこないね。木漏れ日の森に出る暴獣マッドネスベア」

「………暴獣!!」


 レストの爆弾発言に、アリスは驚愕のあまり立ち上がる。

 アリスがこの森に来る前、街にいるだけで耳に入った情報があった。

 それがこのイベントでレベリングしていたプレイヤーたちが夜の各フィールドで暴獣に襲われ、ろくな準備が整わないうちにボス戦となり、多くのプレイヤーが死に戻りしてきたというものだ。


「レベル30のデカイ熊。赤いオーラを纏うと5セット、25連続で木を投げてくる敵だった」

「…倒したの??」

「そうだよ」


 スプーンに乗った肉を見せながら、レストは答えた。

 アリスは手に持つ料理が熊鍋(マッドネスベア)と表示されているのを見て、考える。

 料理を置いて、アリスはレストに頭を下げて言う。


「…そのパーティに入れて欲しい」

「??」

「…暴獣の噂を聞く限りソロでは倒せないから。一緒に倒して欲しい。ドロップアイテムも優先的に選んでいいから」

「パーティ組むのはいいんだけど」


 頭を上げたアリスにレストは言いづらそうに伝えた。


「こっちもソロだよ」

「…」

「それもフレンドゼロのパーティ経験無し」

「…」

「それに今日始めてモンスターに勝った」

「…でも爆弾投げて倒してた」

「昨日やっと完成してね」

「…」

「さらにいうと、攻撃スキルや魔法スキルや戦闘スキルは持ってない。スキル構成はほとんど生産関連のスキル」


 アリスが勇気を出して言ったことに、帰ってきたのは無慈悲ともいうべき言葉だった。

 

 マッドネスベアを倒したパーティに入れて貰おうと頼んだら、レストはボッチな戦闘初心者の生産プレイヤーだったという事実。

 レストが初心者だから木漏れ日の森に来ていたと、アリスはその発想へ至った。

 内心イベントクエストを諦めようと考え、料理を再び持ったときに気づく。

 レストが暴獣のドロップアイテムらしきもので熊鍋を作っていたことに。


「…ねぇ」

「うん??」

「…もしかしてソロで倒した」

「レベル13の時にね」

「…今は」

「レベル21」


 レベル13の時、10以上離れたレベル30のボスモンスターをソロ討伐。

 言っていたことが本当なら、攻撃スキル、魔法スキル、戦闘スキルなしの通常攻撃だけで。


「…どうやって??」

「爆裂玉で」


 周囲にクレーターを作った赤いビー玉を見せ、パーティープレイしてみたかったレストが聞く。


「一緒にパーティ組む?」

「…よろしく」

「ドロップアイテムは半分づつ、欲しいのはお互いに相談するでどう??」

「…分かった」

「あと、討伐後に一人で挑戦させて」

「…」


 アリスは最後の言葉に本日5回目のジト目を送った。

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