第20話 少女の依頼

 あのあと、レストと少女はお互いに話が噛み合ってないに気づき、話し合い誤解が解け。

 その過程で少女の名前やレストを探していた理由など色々なことも話した。


 この少女の名前はアリスといい。

 レベル28という高レベルの戦闘メインのゲーム内で一番最初にユニークスキルを得たプレイヤー。

 その為、嫉妬した悪質なプレイヤーGMが制裁済みに妨害され、他のプレイヤーと交流を持てず、現在はそのままソロで活動中。

 ユニークスキルは【退魔之剣】という戦闘系スキルで使うと強力な効果が剣に付与される。

 しかし、最高峰の鍛治プレイヤーが作った銅の剣でも3回使うと壊れる。


 ここからがレストを探していた理由で、最高峰の鍛治プレイヤーが無理なら表へ出ない凄腕のプレイヤーに作って貰おうと探していた所。

 路地裏でレストとぶつかり、その時貰った世に出ない有名な製作者のポーションで、渡してきた人が製作者なら良い剣が作れるかもと思い。

 情報を集め、全力疾走でフィールドに出たハーフリングが木漏れ日の森へ行ったことを知り、アリスは探しに木漏れ日の森へ行った。

 もし、製作者でなくても、製作者を知っている可能性があったから。


 ちなみに、世に出ない有名な製作者というのはクエストで納品したアイテムは職人ギルドで売りに出される仕様で、最高とされる回復量60を越えた回復量100という初級ライフポーションが10個ほど並び大騒ぎになった。

 プレイヤー間では前代未聞のポーションのことを“初級超ライフポーション”と呼び、製作者を数多のプレイヤーが探したが見つからず。

 初級超ライフポーションの製作者がレストだと名前だけ有名になっている。

 素材買い出しの時に資金が不足でクエストを受け納品したライフポーションが、そんな騒動を起こしているとは知らず、レストはその話を聞いて顔がひきつった。


 そして現在は夜。

 もともと、レストが転移したのが夕暮れ時で、アリスの話を聞いていた段階で夜になり、続きの話をするためキャンプを準備した。

 鍋が置かれた焚き火を挟み、アリスは石の上に座っている。


「…ねぇ」

「どうかした」

「…あなたがレストなの??」


 誤解を解くために、先に話をしたアリスは緊張しながら聞く。

 だが、肝心のレストは特に躊躇いもなく言った。


「そうだよ」

「…なら、話を聞いてた通り剣を作って欲しい」

「……」


 レストは少し考えたあと、信頼できると判断したアリスに答える。


「報酬は誰にも作った人や武器が持つ効果を言わないと約束するなら良いよ」

「…分かった。これ銅鉱石」

「じゃあわ。アリスさん護衛よろしく!!」

「……えっ、でも」


 アリスから品質3の銅鉱石を貰った瞬間、レストは開いていたメニューから簡易鍛治セットを取り出し作り始めた。

 鍛治に集中しているレストを見て、アリスは剣を抜いて護衛をしながら考える。


(……もしかして私嫌われてる)


 職人ギルドで生産場所を借りるとアリスは思っていた。

 だが、その場で鍛治セットを広げ、その他の必要な素材とかも出し、レストが加工している。

 職人ギルドでないと、簡易鍛治セットでは質の低い物が出来上がるのにである。

 だからアリスは思ったのだ。

 嫌われてるから適当に作るのではないだろうかと。


(……あっ、【鍛治】スキル確認してない)


 そして、もう一つの可能性に気づいた。

 レストは【鍛治】スキルを持ってないのを実演しているのではないだろうかと、アリスは考えた。

 だから聞く。


「…レスト。【鍛治】スキルある??」

「……あるよ。無いならないっていうよ」


 遅れて返答された内容に、アリスはますます分からなくなる。


(…一体なら何で)


 考えているうちに、炉の火力が高まったことを確認したレストは銅鉱石を入れ、本格的に作り始めた。

 その光景を眺めていたアリスは感嘆の息を吐く。


(…凄い)


 焚き火や炉の炎、月明かりと言った僅かな光源で照らされるレストは無駄のない流暢な動きで、インゴットを精錬し、剣を作り始めた。

 所々何をやっているかアリスには分からないが、熟練の技と言えるレベルの動作で一つの剣を作るのは、芸術品にも見えるし儀式にも見える。

 レストに対して容姿通りの子供っぽいや見ていて危なっかしいと言った印象を持っていたアリスが、凄腕の職人と改めてるのには時間が掛からなかった。


 もちろん、開始して10日の初心者のレストがここまでの技量を発揮できるのには理由がある。

 【鍛治】などの生産スキルには微量だが動作に補正があり、レストが持つ【鍛治の心得】の心得系や【鍛治の秘法】の秘法系で補正が強化され、【鍛治Ⅰ】とは思えない技量を発揮しているから。

 さらに、【万物の創造者】で補正が大幅に強化し、強化された分の補正が最適化され、最適化により苦手な部分や未熟な部分の動作を重点的に補正したことで、レストは凄まじい技量となっている。


 心得や秘法に比べて、【万物の創造者】を獲得初期では最適化がされてないため補正が掛からず、生産活動をすればするほど徐々に最適化が進み、現在違和感なく補正が掛かっている。

 そのため、熟練を感じさせる技量となっているが、レストに自覚はない。


 1度だけあった夜の襲撃をアリスが瞬殺し、10分経った頃。


「できた」


 レストは短い時間で完成させ、アリスへ作っ剣を譲渡した。

 目の前で行われた圧倒的な技量の鍛治で作られた剣を取り出し、予感があったアリスは恐る恐る確認する。


(…なにこれ)


 あまりの衝撃に無表情が崩れ目を見開き、装備している剣と情報と比べて、アリスは驚愕した。


名称:銅の片手剣

種類:装備 品質:3

耐久値:108/134 重量:4

効果:攻撃力+9。

装備条件:筋力2以上。

参考:スミ作。


名称:銅の片手剣

種類:装備 品質:7

耐久値:312/312 重量:4

効果:攻撃力+19、筋力+2、耐久減少軽減小。

装備条件:筋力2以上。

参考:レスト作。


 品質、耐久値、攻撃力が2倍以上なうえに、レア装備とされる効果が2つも付き、その効果が現存する効果よりも上位互換という。

 片手剣の中で現在最高の攻撃力を誇ったアリスの剣よりも、格違いな高性能の剣だったのだから。


(だから、報酬があれなんだ)


 アリスは平静を取り戻したあと、報酬の内容や、レストが何でゆすりと勘違いしたかに納得した。

 転移スキル使えるうえに、強力なアイテムも製作可能なプレイヤー。

 ゆすりや妨害するプレイヤーが出てくることが容易に予想できた。

 だからこそ、アリスからレストの情報が漏れないように、製作者と効果を言わないことがレストにとって報酬なのだと。


 でも、同時に考えてしまう。

 あり得ないぐらい製作速度と技量を持つレストが、職人ギルドで鍛治場を借りて作ったらどれだけの性能の剣ができるのかと。


(…でも言わない。言ったらここで縁が切れそうだから)


 アリスは静かに決心し、鍛治をしているレストへ向く。


「…ありがと。レスト」

「……どういたしまして」


 願った通りの長く使える剣を作ってくれたレストに、アリスは淡く笑みを浮かべ感謝を告げた。


「…ところで次は何作ってるの??」

「……銅の片手剣。まだ、貰った素材のから」

「…えっ」

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