第22話 ご利用は計画的に

「よし行こう!!」


 お互いに初のフレンド登録とパーティ登録をした後、日の出で明るくなり始めた空を見て、レストがキャンプセットをしまう。

 周囲は見ていたアリスがボソッと聞く。


「…どうやって」

「ジャンプして…行けないかな」

「…無理」

「だよね」


 アリスが首を振って答える姿を見て、レストは現実逃避していた光景へ視線を向ける。

 そこには橙色の朝日で僅かに照らされた、爆撃でできた底の見えない穴。

 360度見渡しても円を描くようにあり、跳躍で越えて行こうにも幅が広く、筋力の補正がかっても落ちることが容易に想像出来る穴があった。


 要約すると、レストが夜間の襲撃で爆裂玉を投げ続けた結果。

 現在地は孤島にいるかのような、穴で森から隔絶された脱出困難な場所となったのだ。


「ごめん。こんなことになるとは思ってなかった」


 レストはもうすっかり仲良くなったアリスへ、頭を下げて素直に謝る。

 ドロップ品集めのためアリスへ頼み込み、一晩中【気配察知】と【視線察知】で索敵する度に爆裂玉を投げ続けて、この現状を作り出した張本人だから。


 実は、こんな事態になった多くの要因がある。

 一つ目は、夜によってモンスターが強化されたことで索敵範囲は拡大し。ついでとばかりに大きな音爆音見晴らしの良い土地爆心地場違いな匂い熊鍋が原因で見つかり、多くのモンスターが群れをなし襲ってきたこと。

 二つ目は、イベント期間中により大量のモンスターが発生させ。さらに、装備している暴獣の匂い袋でモンスターが引き寄せられ、より多くのモンスターが集まったこと。

 他にも、低レベルモンスターだから優秀なAIが搭載されてないので逃げないことや、穴がトラップ化したことや、崖のような場所で屯するモンスターへ爆裂玉を投げたことで穴の幅を大きくしたことや、押されて落ちたモンスターへ爆裂玉を投げてより深くしたことなどが要因となるだろう。

 ちなみに、一番の要因はレストが爆裂玉を投げ続けたことだ。


「…レストのせいじゃない。モンスターを任せたのは私」

「でも、ドロップ品欲しさに頼んで実行したのはこっちだから。ごめん」

「……分かった。まずは解決策探そ」


 頭を下げて謝るレストに、子供の容姿からアリスの方が何か申し訳ない気持ちにさせられる。

 レストがVRゲーム初心者(夜明けまでの会話で聞いた)で自分は先輩ということを思い出し、VRゲームの先輩としてアリスは建設的な意見を言う。

 内心先輩ぽくできたと考えてたアリスに、「解決策か…」と必死に考えているレストが閃く。


「自爆がある!!」

「………えっ」


 レストは真っ先に考えついた爆裂玉を足下で爆発させ、死に戻りするという方法。

 この方法は現実時間の昨日、10回以上の炸裂薬による自爆実験から考えついたものだ。

 爆裂玉に自爆可能という効果があること伝え、既に自爆を何度もしていることを言い、この方法で脱出できると説明する。

 自信があったレストの解決策を聞いてアリスは


「…死んだら解決策考えている意味がない」


 と、もっともなことを意見を言われ、レストが考えた解決策は却下された。

 この会話の結果。アリスの中で爆弾=レストの構図が完成したというまでもない。


「…それは最終手段」

「了解しました」


 迫力と揚々のある口調で念押しするアリスに、思わず敬礼して答えるレスト。

 あと、なぜ解決策=自爆という謎の発想になったかレスト自身も分からない。

 ふと、思い出して気づいたことをアリスが聞く。


「…レスト」

「うん??なに??思いついた??」

「…途中から殆ど投げなくなった。何で??」

「……あぁ、あれのこと」


 日の出が近づくに連れて、爆裂玉の投げる回数が減った意味を聞かれたと気づきレストは正直に答える。


「爆裂玉の節約をしようと思って」

「…節約」

「そう節約。で途中から、穴へ落ちたモンスターが出られないことに気づいて、ある程度数溜まってから爆裂玉を投げた方が節約になるかなと思って投げなかった」

「……今もモンスター溜まってるの??」

「現在記録更新中」


 赤いビー玉を片手に持ち、地味に倹約家ぽいところがあるレストが、索敵スキルを持ってないアリスへ穴の方へ指を向け言った。


「今、気配で100匹以上はいるかな」

「…そんなに」

「そぉーいっと」


 レストは急に爆裂玉を投げ、モンスターの多くが屯している崖となった下の部分に当てる。


「勝手に落ちるやつは少ないから、こうやって落とせばたくさん溜まる」


 爆発後は崖が崩れ、その上にいたモンスターも落ちていくのをアリスへ見せながら、レストは楽しそうに説明した。

 実はこれのために【夜目】を獲得している。


「どこまで溜めれるか試して、溜めたのを一気に爆発させるのが何か楽しい」

「……ねぇ」

「うん??」

「…それが原因」

「……あっ…」


 危ない発言をするレストに、少し引きながらジト目でアリスは指摘した。

 この騒動の原因を。

 モンスターを倒すのが目的で、モンスターを穴に集めるのが手段だったのに。レストは途中から集めるが目的となり、目的と手段が逆転している。

 そのため、モンスター集めに爆弾投下と破壊工作を続けた結果。レストはアリスを巻き込んで現状を作り出した。


「誠に申し訳ございません」


 そのことを指摘されたことで、自業自得なレストは本日2度目の謝罪──土下座をして謝る。



「…話を戻すけど」

「了解です」


 謝り続けてアリスに許されたあとも、レストは自主的な地面に正座した状態で解決策の話し合いが続く。


「…モンスターはこの穴に落ちても生きてるの??」

「ごく稀にドロップ品が回収されるので、確実に生きているとは言い難いですが気配はあります」

「…なら降りても大丈夫そう」

「穴に降りる??」

「…降りて脱出しようと思って」

「分かりました。飛び降りて来ましょうか」


 反省した結果、テンパっているレストが先鋒として穴へ降ることを進言する。

 今にも飛び降りそうなレストにアリスは慌てた様子で止めた。


「…飛び降りて欲しい訳じゃない」

「なら、どうやって降りるのですか」

「…えっーと……ロープで降りるとか??」

「ロープは??」

「………ない。私が飛び降りるから待ってて」


 意味のない発言の恥ずかしさで、アリスも同じくテンパった状態になり穴へ近づく。

 さっきまでとは立場が逆転し、今度はレストが慌てて止める。


「ちょっ、それならこっちがしますよ!!」

「…大丈夫。耐久にもHPにも振ってあるから」

「いえそう言う問題じゃなくて、飛び降りならこっちがやります。原因はこっちにありますから。それに簡易裁縫セットも持っているのでロープも作れます。だから早まった真似しないから、早まった真似しないでぇーー!!」


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“ストイック”からテンパる的な言葉に変更。

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