第5話 ハマると抜け出せない
「やりますか」
レストは妙に居心地が悪い空間を払拭するように、5回確認したメニューに載るクエストを閉じながら言葉に出す。
瓶を持って洗面台まで行き、水を入れる。
「これ、どう見ても理科のあれだよな」
手に持つ水入りビーカーを下にアルコールランプがある金網付き三脚に置き、視線の先に乳鉢と乳棒、ビーカー挟み、試験管ばさみ、ガラス棒、ピンセットへ向けながら呟く。
レストが配信動画で見たときも、サイトを見たときも、チュートリアルで体験したときも思ったことを。
調合すると理科の実験をしているみたいで、ファンタジーで想像するポーション用のガラス瓶がどう見ても、レストは試験管にしか見えなくなっている。
「よし作るか」
最初に、籠から恐る恐る取った薬草を乳鉢に入れて乳棒で潰す。
生産は器用値がものをいう作業で、高いほど早く終えることも可能。
「これぐらいで良いかな」
なるべく原型が無くなるまで潰した後、乳鉢の中身をビーカーに入れて、ガラス瓶で混ぜる。
「でも、アルコールランプ着けるのはゲームだよな」
レストは空中に浮かぶ青色のパネル、アルコールランプを点火と鎮火させるボタンを押し、アルコールランプに火が着く。
このアルコールランプは火が付いている間、MPを消費し続ける仕様となっているので、回復効果のある調合部屋を重宝される。
「ますます理科ぽい」
時折、葉とかが浮かんだ緑色ぽい液体をかき混ぜたりする。
途中、液体が光を放ち始め。
「完成っと」
光のが終わると、透き通った緑の液体、初級ライフポーションが完成する。
ちなみに、初級ライフポーションはMP5ぐらいで完成する一番簡単なレシピだ。
そして、出現したパネルのポーションを試験管へ入れるかに対してYesと押して、机の上に栓がされたポーションになった。
「効果は…」
名称:初級ライフポーション
種類:薬品 品質:2
耐久値:20/20 重量:1
効果:HPを12回復する。使用不可。
参考:レスト作。クエストアイテム。
「チュートリアルより1回復量増えたけど、良いかな悪いのか分からん」
レストはインベントリに初級ライフポーションがあるのを思い出して、確認してみた。
名称:初級ライフポーション
種類:薬品 品質:3
耐久値:20/20 重量:1
効果:HPを20回復する。
参考:支給品。NPCに売ることは可能。
「つまり標準は20ってことか」
生産系スキルは生産者の応用や工夫次第で効果が変わり、スキルレベルが高いほど最大効果量が増える仕様だ。
レストは一度ハマるとやりこんでしまう性格で、
「面白くなってきた!!」
その自由度にレストが興味を持ち、生産をメインにプレイすることに決めた。
そうと決めた半年前から、溜め込んできた衝動が溢れた。
新たな薬草を持って作り始。
「っと、そうだ。卵出しとこ」
レストは従魔の卵を上腿に置き、作り始めた。
◯
レストが、とうに10本分は作り終え、20本を越え、黙々とした姿で17回復するポーションが作れるようになった頃。
ポーションが完成したタイミングでアナウンスが届いた。
『【調合Ⅱ】を習得しました』
「…マジか!!」
レストは言葉を理解した瞬間笑みを浮かべ、ステータスを開いて獲得しようとするが。
「…ってレベル1だから獲得できん」
レベル上げをしていないので、肝心のスキルを獲得するためのSPが無いことに気付く。
FMGでは、剣で1000体以上のモンスターを倒すや毒に耐え続けるなど、特定条件を達成してスキルを得ることができ、それを習得するという。そして、習得したスキルをSPを1使って使用できるようになり、これを獲得という。
SP(Skill Point)とAP(Ability Point)はレベル上昇で、SP1とAP2のみ得られる。
ちなみに、APは1使うと、HPとMPは10、筋力などは1上がる。
「まぁ、ここで上げたら回復量に変化が出たかもしれないし。無くて良かったかもしれない」
レストはそう言って自分を励まし、卵を撫でて気持ちを切り替え、薬を作り始めた。
◯
数えるのがバカらしくなり、携帯食が残り3となったレストは、それでも静かにうっすら笑みを浮かべて、作り続ける。
自然回復と部屋の回復効果でMPが6まで回復するまで、薬草を葉や茎が分からなくなるぐらい磨り潰す。
アルコールランプで人肌になるぐらいまで温めた水に、潰れた薬草を入れてかき混ぜる。
満遍なく緑が広がるように、潰れた葉や茎が片寄らないように混ぜたものを熱し。
常に左手で卵を撫で、右手で中身をかき混ぜた。
そして、完成した試験管入りのポーションを見て、
「よっしゃぁぁ!!」
名称:初級ライフポーション
種類:道具 品質:3
耐久値:20/20 重量:1
効果:HPを21回復する。使用不可。
参考:レスト作。クエストアイテム。
支給品の効果を越えたポーションを完成させた。
レストは喜びながらも、無意識的に横の籠から薬を取り、水を汲んだ所で作業しようとする自分に気づくが、準備したのにやめるのは勿体なく思い、
「これ終わったら出よ」
作り始めた。
だが、終わっても携帯食片手に準備しながら続けた。
「どうせなら携帯食が無くなるまで作ろ」
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明日から5日間は18時に毎日投稿します。
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