第6話 生産系スキルコンプを目指そう

 ログアウトして作り続ける夢を一回。

 スキル習得を知らせるアナウンスが三回。

 インベントリの森苺を食べること4回。

 HPが減ってもないのにライフポーションを飲むこと五回。

 ログアウトしてトイレに行くのが数回。

 薬草の増えた瞬間を見ること十数回。

 携帯食が無くなった代わりに、水を満腹まで飲み続けること数十回。

 卵に頬擦りしたのが百数回。

 製作レシピにメモること数百回。


 無駄がなくなり1つ当たりの作業時間が減っても、独り言が異様に増えても、部屋の一角に山積みのポーションに出来上がっても、時には冴え渡る勘と感覚論を駆使し、ギラギラとした目で不気味に嗤いながら、レストは作り続けた。


「あぁ!?」


 無駄がない動きで薬草へ手を伸ばすが籠の感触しかなく、レストは恫喝するような低い声で振り向く。 


「あれ、無くなっている」


 徹夜明けの機嫌が悪い人のような姿から、いつも通りのレストに戻る。

 量が減ったら、勝手に増殖した薬草が無くなっていた。

 レストは無意識的に左手に持つ試験管で水を飲みながら、右手で籠を逆さまにしたり振るが薬草はない。


「……」


 レストの頭はまだ試したいことがあるのに出来ない、不完全燃焼が燻りを持て余している。

 でも、無いものはしょうがないと思い、メニューを開けようとして気づく。


「インベントリになかったけ」


 それから7本の薬草を使い、最後に最高記録のポーションを作り出した。


名称:初級ライフポーション

種類:薬品 品質:5

耐久値:20/20 重量:1

効果:HPを46回復する。

参考:レスト作。


 もう、やり残したことは無いとでも言いたげな穏やかな笑顔を浮かべるレストが、部屋を出た瞬間アナウンスが聞こえた。


『【調合の心得】を習得しました』

『【調合の秘法】を習得しました』


「習得したスキルでも見てみるか」


 冴える勘の赴くままに、受付でクエストを精算せず。

 人が居ない所のベンチに座り、メニューのステータスからスキル(+0)の部分を押しスキルを見た。


『獲得可能スキル』

SP:0

【調合Ⅱ】

調合Ⅰの上位互換。

【調合Ⅲ】

調合Ⅱの上位互換。

【料理Ⅰ】

食品を作れる。

【ライフコンバートⅠ】

HP回復時にMPを微小回復する。

空腹、飢餓時は発動しない。

【調合の心得】

調合時に失敗確率を低下する。

調合時に品質が上昇する。

【調合の秘法】

調合時に使う素材が半減する。

調合時に消費するMPが半減する。

調合時に調合時間が半減する。

調合時に超低確率で大成功が発生する。


 VRゲーム初心者とは言えど、他のゲームはしているレストが、思わず絶句するほどのスキルがあった。

 【調合の秘法】が大量生産を可能とするぶっ壊れスキルものだと瞬時に理解する。

 同時に気づいたことがもう2つあった。


(調合以外にもある)


 鍛治だったら【鍛治の秘法】、料理の【料理の秘法】、大工だったら【大工の秘法】みたいに。


(習得条件も調合と同じようなことをすれば獲得できるはず。レベルは無理だけど)


 さすがに詳しく分かっていないが、能力値やスキルを成長させず、部屋に入った後扉から脱出しようとし、素材が無くなるまで作り続け、より高品質を目指して試行錯誤し、自分が持つ素材で7個作り、最後に最高傑作を作れば、レストは手に入るかも知れないと考えた。


(レベルを上げて、持ってない生産スキルの習得を目指さないと。ということは、まずはクエストの報酬を貰って、それをどうするか)


 生き生きとした顔をしたレストが、情報収集とクエストの報酬を貰うために、早足で受付NPCの所へ行った。

 その後、寝る時間が近いので宿を借りてログアウトした。



 8月2日23時に遅めの夕食を終えた誠人は、お風呂などを終え、ベッドでこれからのことを考えていた。


「今回のクエストで7069Gと3レベ上がったから。まずは料理を狙うか…それとも別のスキルを先に習得した方がいいか」


 FMGは生産系スキルは全部で6つある。

 薬材などで薬品を作る調合。

 食材などで食品を作る料理。

 鉱物などで道具を作る鍛治。

 樹木などで家具を作る大工。

 繊維などで衣類を作る裁縫。

 合成して特殊アイテムを作る錬金。

 生産系プレイヤーに人気なのは鍛治、大工、裁縫で、このスキルは装備を作ることが可能だから。

 一番不人気なのは料理である。

 そして、一番特殊な錬金は調合、料理、鍛治、大工、裁縫を獲得することで習得可能だ。


「素材と道具はどうにかなっても、習得するためにはどっかで作る必要あるし……そうだ!!料理室で作ればいい」


 レストが考えた案は簡易生産セットと素材を買って、作り続けるクエストを受け、料理室で簡易生産セットを使って作るというものだ。


 生産系スキルは調合でいう初級ライフポーションのような簡易なものを作るか、調合で料理を手に入れたような生産系スキルを持って類似する行動、で習得できる。 


「なら、明日は携帯食、簡易生産セット、素材の買い出しと、安い素材から順番にスキル習得かな。お休みなさい」


 ハマると楽しみながらやり込み、少し天然があって常人とずれたことをする誠人は知らない。

 普通の生産系プレイヤーはレベルを上げ、能力値とスキルレベルを上げて物を作っているのを。

 大量生産クエストでほどほど稼いだあと、別のクエスト受けて経験値やレベルを稼いでいることを。

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