変わりたいと希う

世の中には天才と呼ばれる人がいる

　世の中には天才としか思えない人が、少ないながらも確かにいる。

　天才とまではいかなくても才能にあふれるような人ならば、そこらじゅうに散らばっている。

　そんな人に憧れる。

　私もいつか……。そんなことを考える。

　でも、本質的にそういう人間と私という個人との間に違いがあるとは思えない。

　しょせんは同じ人間のはずだから。もしかしたらこれさえも幻想なのかもしれないけれど、そんな夢のないことは今は考えないでおこう。

　才能っていうのは髪の長さみたいなものだと思う。

　髪を伸ばせば魅力が増すかもしれないけれど、同時に邪魔にも感じるようになる。

　手入れも必要になるし、うまくまとめないと目に入ったりもする。

　夏は蒸れるし寝癖は跳ねる。

　しかも周りからは「髪伸ばしてるの？」って言われるようになる。

　全くもって余計なお世話。

　その上、髪が伸びたからといって人生がうまくいくようになるわけでもない。

　大き過ぎる才能は時に自信を縛る鎖にもなるし、長過ぎる髪はどう考えても邪魔。

　ただ、結局のところ変わりたいと思うのなら。それなら単に髪を切るのをやめればそれだけでいい。

　それだけで憧れの美女に一歩近づける。

　今まで惰性で続けていたゲームをやめて、ジャンクな食生活をやめて。酒にタバコに夜更かしに朝寝坊。人生を台無しにしてしまう悪癖を、この際だから切り捨てる。

　努力せずに時間を無駄にするのをやめるだけでいい。

　髪の長い人は、毎日「伸ばそう」と思っているわけではない。

　今日は何センチ伸ばそうだとか、何月までに何センチを目指そうだとか。

　そんなことは考えていない。

　ただ、伸びるのを待つ。

　伸びてきたら、多少邪魔でも切らずに我慢する。

　髪が傷つかないように、何らかの工夫をする。

　何かを始めようなんて、無理して考える必要はない。

　だって、決意などしなくても髪は伸びるから。

　……まあ、世の中そんなにうまくはいかないだろうけどね。