ep21.『私の親子丼』
♦︎
「心配とは?」
言われた言葉は上手く頭の中に入っていかず意味がわからなかった。
心配されたことなんかこの世に生まれてから一度もないから…。
「心配とは…うーん。難しいですね…。簡単に言えば相手を思いやってるんです」
「なるほど。それでどうして俺を心配してるんです?」
「もう、いいですからカレー食べてください」
あまりにも急かされるので仕方なくスプーンを手に取った。
「んじゃ、頂きます」
「はい!召し上がってください!感想!感想!」
パクッと一口だけ口にいれたらゴールデンカレーの風味だと一瞬でわかった。
「ルー大丈夫でした?それで」
「美味しいですよ。じゃがいもは煮込む時に崩れない大きさに切ってありますし人参、玉ねぎ、ひき肉もきちんと下拵えしてあって俺的には十分美味いです」
「もしかして夜春君って料理したりするんですか?」
「まぁ、ほどほどに」
作れと言われればある程度作れるぐらい。
「あ、食べちゃってください。すみません食べながら聞いてください」
「?」
「今夜どこで寝ますか?」
「ぶふぉ!」
「汚いです…。大丈夫ですか?」
「いや、巫山戯てるんですか?なんでひよりさんの部屋で寝るんです?」
謎だ。今すぐにでも帰りたいのが本音なのにひよりさんはこの上同じ部屋で寝ませんか?だと。巫山戯てる。顔見知り程度の関係なのに。
「特に理由は…」
「ひよりさん絶対それほかの男にやったら襲われますよ」
「…え?」
本当に大丈夫だろうか…。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「お粗末様です♪」
後味が残る美味しさでもし食べられるならまた食べたい味だった。自分の料理も不味くはないけれどやっぱり他人が作る料理と自分の作る料理は違くてひよりさんのカレーは暖かかった。
「お風呂はいいです。このまま帰りますね」
「だから今日はもう遅いですから泊まっていってください」
「はぁ、襲いますよ?いやですよね?だから帰ります」
流石にこう言えば帰らせてくれると思い言ったけど全く予想もしてない言葉が飛んできた。
「返り討ちにします!」
「は?」
「だから今日はお泊りですね」
いやいやいやいや、可笑しいでしょ。ふつうに可笑しいと思うのは俺だけ?違うよね。一般的に見てこの子は可笑しい。
「そこまで接点のない男と泊まる!?唐突ですが、自分の身は自分で守れてますか?心配になるんですが」
「今生きてるので守れてきてるんだと思います」
「そうゆう問題じゃないんですけど」
「ま、いいので泊まってくださいね」
あまりにも意思が強くて、断っても断っても相手は認めないことがわかった。
だから、一歩妥協してこう提案した。
「じゃあ条件を一つ。ここで寝ます」
「…わかりました。毛布と布団持ってきますね」
「いやその。このソファに座りながらでもいいです」
「風邪ひきますよ?」
「構いません」
既に風邪ひいてますしね。風邪じゃないけど。
俺がやると言ったけど断られた皿洗いを終えた彼女はなにやら考え事をしていた。
「わかりました。それと、今から私お風呂入ってくるのでテレビでもなんでも見てていいのでゆっくりしてて大丈夫です!」
「いや、ちょっ!」
そのまま廊下を歩く音だけが響いて、部屋には俺一人だけがポツンと残された。
何でも見てというのはひよりさんも含まれるのだろうか。頭痛と戦いながらぼーとしていたらいつのまにか寝ていた。
♦︎
お風呂から出た私は何故だかわからないけどすぐに居間にぴょこっと顔を出したけど視界に入ったのは
「あれ?寝ちゃってる」
言ってた通りソファに座って静かに寝ていた。寝てる時って誰でも可愛い…。
「
顔は出してるけど、壁越しに聞くけど返事は返ってこない。
ここでさっきまで考えてたことを没にして今とても悪いことを思いついた。
「怒られても、起きた後だし大丈夫だね」
洗面所に髪を乾かしに戻って歯磨きもする。
終わったらそのまま居間に戻って、夜春君に毛布をかけてあげる。今日は春の冷え込み。だから、ちゃんとあったかくして眠らないと夜春君の場合もっと酷くなるからきちんとかけてあげた。
「おやすみ」
電気を消したら夜春君のとなりに座って私もぐっすり寝た。
♦︎
目が覚めたら、ソファに横になって寝ていた。あれれ?座って寝てたはず。
「んぅぅ、ふわぁ。やば、眠い」
「あ、起きたの?ひより」
「お母さん?どうしたのこんな早くに」
なんだか頭がぼぅっとするけどお母さんが次に言った言葉でそれはもうばっちりと目が覚めた。
「もう11:30だよ。いつまで寝てたの、もう。お昼夜春君が作ってくれたよ」
「夜春君が?その夜春君はどこ?」
「お父さんが送りに行ったよ。ついさっき。一緒に行けなくて残念ねー」
えぇー!?ついさっきってなんで今日に限って休日癖が発症してるの。あ、今日は休日だった。
「まぁ、起きたんだったら冷めないうちに親子丼食べちゃいなよ。夜春君の作った親子丼すごく美味しいから」
「親子丼?うわぁ、ほんとだ。美味しそう」
「お父さんすごくおかわりするほど美味しかったんだよ」
料理ができるのは知ってたけどここまでだったとは。ひよりはなんだか嬉しくなった。なんで嬉しくなったのかはわからないけれど。
「ん、じゃいただきます」
お箸を使って、いかにもトロトロな溶き卵がご飯の上に乗ってるご飯を口に運ぶ。
そして国から出た感想はもう一言だった。
「美味しい!」
玉ねぎと鶏肉しか入ってないけど鶏肉はダシが効いてて食べやすい柔らかさになっていてあったかいご飯だからか口に入れるとホクホクで心も温まる。
「あ、お父さん帰ってきたよ」
「送ってきたー。ひより起きたのか、その親子丼は美味い」
「ダメだからね!この親子丼は私のだから」
あれ?今私の口からとんでもない言葉が出た気が。あぁ。やっぱりなんかお父さんとお母さん笑ってるよ。
「「誰も取らないからゆっくり食べな」」
それを聞いた私は恥ずかしくて黙り込んでしまった。勿論、親子丼は綺麗に完食しましたとさ。ごちそうさま、夜春君。美味しかったよ。
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