ep13.『気をつけてね』

♦︎


ある一人の人物がこの世界に及ぼす気概はどの程度か。


その確率は他人が取る行動ひとつで変動する。どんな微細な行動でもだ。

仮説を立てよう。まず分岐と周波というものが存在してるとする。


分かれていくものと伝わっていくもの。


それはどんな人間にも存在する。

例えば、人間一人が行動を起こしたところで革命は起こせない。


そこには必ず、協同者が存在する。核的存在となるリーダー。

その団体のリーダーとなるものが及ぼす分岐と周波。

リーダというだけで発言力が増し、信頼という数値が上がっていく。


この団体が動くからこそ世間に波を与えることができる。

そして、それが徐々に分かれていく。


じゃあこれを、一個人の人間に向けられたら?


世界に影響する行動が一個人に絞られるのだから分岐は存在しなくなる。

じゃあ、周波は?周りに及ぼす影響は?


一人に波を送り続けたとしても必ずそれは周りに伝播される。

だから、ある固定の対象だけと関わることなんて不可能なんだ。






♦︎


「改めて、買ってくれてどうもです」


確信犯のひよりさんと早希さきさん。本屋にいくというのを知ってるのはひよりさんだけ。その二人と会ったってことはまぁ当然知ってて来たというのは確定。まぁ、人が来る来ないは俺が関与できることじゃないからどうしようもないけど。


「どういたしまして。夜春よはる君はお昼はどうするんですか?」


「自分は家に帰ります」


「そうなん、ですね。良ければ一緒にどうかなって思ったんですが」


「遠慮させてもらいます」


ビニール袋を片手に、ガサゴソという音がなる。(擬音が思いつかない)

となりの早希さんがさっきからじっーと見てくるけど、こちらは無視を決め込む。


「…あの、ライン交換しませんか?」


「いや、大丈夫です。ラインは誰ともやってないので」


「なら、尚更やりましょう」


嫌いなんだよな。通話アプリ的なのは。ただでさえ電話が嫌いなんだ。


「あれって、やったら何かあるんですか?」


「別に何もないですよ」


そう答えたのは早希さんだった。そうか何もないのか。


「だったらやっぱいいです。あ、今何時かわかりますか?」


「えーと、ちょっとまっててください」


そう言って、スマホを取り出し時間を確認してくれる早希さん。隣の人はなにやらぶつぶつと喋っていてお取り込み中らしい。


「えっと、12:51分です」


「あーそろそろか。それじゃ自分はこれで。本に関してはありがとうございます」


「はい、また」

「気をつけて」


軽く会釈してその場を去る。1秒でも早く、さっさと人と離れたかった。


「夜春君………気をつけてね」






♦︎


家に着いたのは1時20分丁度だった。


ポットから麦茶をコップに注いで、居間のテーブルまで持っていく。

カーテン越しにも太陽の光が届いてきて、部屋を明るく照らす。


「買ってもらった本でも読むか…」


ひよりさんに買ってもらった本をビニールから取り出しブックカバーを外す。

辻村深月さんの『かがみの古城』。読みたくても読めなかった本だ。


誰もいない家は閑静としていて物音一つしない。ひたすらにページを捲る音だけが耳には入ってきて偶に車が走る音が反響するだけ。


そうやって無機質に本を読んで何時間がたった頃だろうか。チャイムが鳴って訪問客が来たことを知らせた。


「ごめんくださーい!配達です」

「はい、ちょっと待ってください」


栞を挟み、本を置き、スタスタと玄関まで歩いてドアを開けた。


「こんにちは。配達物です。ここにお名前をお願いします」


言われた通り''三好''と書いて荷物を受け取る。大体の宅配便や配達物は母さんが頼んでるものだ。なにを買ってるのかは知らないけど、受け取る人間が俺以外にいないから毎回荷物を受け取るのは俺になっている。


「ありがとうございます」


「あ!はい。どうもです。気をつけて」


届けてくれた人を見送ったら、ダンボールをリビングまで運ぶ。


「毎回思うけど、なにを頼んでるんだか…」


箱の中身は一度も見たことがない。見るなとは言われてないけどあけるのもめんどくさいし興味もないから結局触らずじまい。


「ま、いっか」


適当に、テーブルの上に置いておいてそのまま居間に戻る。

時間を見ると、読み始めた頃から4時間はゆうに超えていた。


「5時37分か…夜食はどうしよっかな…」


別に作っても作らなくてもどっちでも良い。だけど、暇つぶしやお腹が減った時用の為に作り置き、母さんが帰ってきた時に食べられるように作るぐらいで別に積極的に作りたいわけじゃない。


「はぁ、でも適当に何か作るかー」


リビングに赴き、冷蔵庫から豚肉、こんにゃく、大根と材料となるものを出していく。コンロをつけてカチチチといいが鳴る。その上にフライパンを置いて今のうちに温めておく。作るものは豚バラ大根の煮込み料理だ。


まずは下ごしらえ。包丁を手に持ち大根の皮を厚く剥きとっていく。皮を剥き終えた大根を半月切り。豚肉も適当に切っていく。


「あ、生姜が無い」


生姜を冷蔵庫から取り出したら、皮を剥いて千切りにする。千切りにした生姜をフライパンに入れてそこにごま油も入れて中火で火を通していく。


「ここら辺かなぁ…」


豚肉をフライパンに適当に入れてほぐす。色が変わってきたので胡椒を入れ大根を入れて炒め合わせそこにだし汁を入れる。


おおよそ15分。待機。この間にサラダを簡単に作る。


「あ、ごぼうがある。ならあれでいいや」


いんげんとごぼうを取り出し、切っていんげんとごぼうを茹でる。塩を適量入れるのを忘れずに入れて茹で上がったごぼうといんげんをマヨネーズ、すりごまだけで

混ぜたものに入れてサラダは完成。


15分経ったので、適当に醤油を入れてまた5分くらい放置。砂糖は入れない人間だから一手間省いてることになる。


5分がたち煮汁が少なくなったのを見て大方完了。


「ま、豚肉にも絡んでるしぼちぼちってとこか…味噌汁の方はめんどくさいから作らなくてもいいか…どうせなんか作って食うだろうし」


作った物を電子レンジにぶち込んで、料理は終了。


「…俺は食べないし別にどうでもいい」


その日は、お風呂に入り簡単に勉強をしたら寝てしまった。



3月23日水曜日10時27分。就寝。母さんは帰ってこなかった。


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