春休み
ep11.『待ってましたよ』
♦︎夜春
3月23日水曜日、午前10時51分。
春休みは4月7日まで。宿題もこれといって特にないためとても暇だった。
家庭教師は俺が高校2年に上がるまで一先ず休止になった。何やら、向こうの都合で
長期間家を離れるらしいからだ。
「結局昨日居酒屋には行かなかったしなぁ、バイト何しようかな…」
昨日はあれから居酒屋に行かずして、本屋に行きいつのまにか熟読していた。
「今日も本屋にいって時間潰すかー」
そうと決まれば行動のみ。財布にアイポッド。そして一応、壁に引っ掛けて置いたワンショルダーのバッグを背負って出かけた。
♦︎
外はいい感じに晴れていた。三月だから高温とまでは行かずとも寒すぎず暑すぎずの温度だ。しかし、午後は雨が降るかもなんて言っていたけれどこの様子だと雨が降るまでには帰れそうだ。
いつも通りの本屋のTSUTAYAに行くため、乗り換えの駅まで電車で向かう。
ガタンゴトン。ガタンゴトン。
聞き慣れた電車の走る音が聞こえる。特に、することもないまま乗り換えの駅まで
じっと座って着くのを待っていた。
「んーーー!疲れた」
目的の駅に着き、電車から降りた途端ぐーんと大きく伸びをした。
あまり、周りには人がいないけれど邪魔になったら悪いのですぐに気分を切り替えてコンコースに入り、自動券売機を抜けて駅から出る。
丁度、陽光がこちらに差し向いていて眩しくて目を瞑ってしまう。
そのまま陽の当たらないところを通って歩いていたら運悪く、また会った。
「はぁ………なんでまたいるんです?」
「私がここにいるのは私の自由です!」
傘を貸した女の子が悠然と柱に寄りかかっていた。
♦︎ひより
「いや、それにしたって3日連続…もしかして」
あれ?もしかしなくとももうバレちゃった?お願いします!バレてませんように!
「待ち伏せしてます?」
イヤーーーーーーー!バレた、バレた。大丈夫!ここは落ち着いて…
「い、いや…その、待っててあげたんですよ!」
「は?」
いや、すごい。何がすごいってもう視線が痛い(泣)私泣いちゃうよ〜
「あー!今のは違います、友達を待ってたんです!」
これは本当です。今日も
「そうなんですか。それじゃ俺はこれで」
と、全然興味なさげにそう言ったのに驚いて私は必死に「あ、ちょっと待って」を口から出そうとしていた。けれど出てきた言葉は。
「あの、お話したいです…」
「え?いやさっきの言葉聞いてました?」
「?聞いてましたけど?」
ダメだコイツ、的な感じで夜春君は頭を抑え始めました。あ、もう無視決め込んで歩いてますよ…せめて、どこに行くかぐらい聞くのはいいかな…
「どこに行くんですか?」
「関係ありますか?」
ないです。もうやだこの人。近寄ってこないで的な雰囲気が全開。
「はぁ…本屋ですよ。そこのTSUTAYAです」
夜春君私の前で何回溜め息ついたかな…溜め息つくと幸せが逃げるっていうけど夜春君の場合私の好感度が下がってる気がする…気のせい?
「それと、昨日はすみません。少し口が悪かったです。もう一人の子にも伝えてくれるとありがたいです」
「え?あ、大丈夫ですよ。早希ちゃんも気にしてないですから」
急に謝られてビックリした。私はなんとも思ってなかったけれど早希ちゃんはあの後も文句を垂れていたなぁ。宥めるのにちょっと苦労したのは言わないでおこ。
「早希さんって言うんですね」
「はい、そうですけれど…」
昨日夜春君の前で私と早希ちゃんはガッツリ名前で呼びあっていたはず…夜春君。もしかして。忘れてる?
「名前、忘れちゃったんですか?」
「どうでもいいことはすぐ忘れる性質なので」
ど直球にそれって失礼じゃないかなぁ。まぁ、今の私の聞き方も客観的に見ると、すごい失礼なんだけど。
でも、それなら。
「それじゃあ、改めて自己紹介しませんか?」
「いや、別に今後会わない人の名前を覚えてても」
「はいはいはーい。そうゆうことは言いません!わからないですよ?もしかしたら今日また偶然会っちゃたり」
「いや、自分今日もずっと本屋にいると思うんでそちらも本屋に来ない限りはってもしかして付いて来る気だったんですか?」
またしてもバレました。ひよりさん悲しいです。そんなことより今日も?
「昨日も本屋さんに居たんですか?」
「あ、いや。寄っただけですよ」
「今日もずっと。じゃあ昨日もずっと居たってことですよね? でも、昨日はバイトの面接があったんじゃ」
やり返し成功です。何度も私の思惑を見破りおって…うーん。いい気味です。
「…行かなかったんですよ。あの後」
「え?どうしてですか?」
「いや、そんなの」
「そんなの?」
…口籠っちゃった。余計に気になる!なんか話が脱線してる気が…あ!
閑話休題です。
「そうですよ!名前ですよ!名前。教えてください」
「はぁ…三好夜春です。まぁ好きなことは本を読むことですね」
「え?名前だけ言うかと思ったのに」
「自己紹介してくださいって言ったのもう忘れたんですか?」
「あ………」
「はぁ、次は君だよ」
「私は仲西ひよりです!好きなことは歌を歌うこととトリミングです!好きなものは松阪牛!どもです」
夜春君は「はいはい」と適当な相槌を打ってこちらこそと頭を下げた。今時の男の子には申し訳ないけど最近の子より夜春君は礼儀正しいと思う。堅すぎる気もしなくはないけどきっと癖みたいなものなんだろうなぁ。
「ていうか松阪牛って日本三大和牛の一つじゃ…それってそんな頻繁に食べれるもんなんですか?高級和牛なんて俺は食べたことないのに」
「年に3回しか食べないですよ〜。もっと食べたいのに!」
「3回でも多い気が…」
私的にはトリミングに反応されると思ったんだけどな…夜春君は本好きなんだ。
何読むんだろう…私は司馬遼太郎さんとか三浦しをんさんの本を読むけど。
「夜春君は、本は何を読むんですか?」
「俺はなんでも読みますよ。漫画でもラノベでも雑誌でも小説でも。色々と」
良かった〜ふつうに話せるようになってきた。それでも、距離感はやっぱり離れまくってるけどね。(あはは、苦笑もんだよ!)
「え!すごい!ちなみにどんなの読むんですか?」
ニコニコ顔で質問の追求をやめません。これぞ悪女。ハハハ。でも、夜春君が突然横を指差してこう言った。
「お友達ずっと待ってますけど大丈夫ですか?」
ベンチに座ってむくれた顔でこっちを見てたのは早希ちゃんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます