マルタ旅行記⑥イタリア料理に癒される
ラバトで目星をつけたレストランは閉まっていたり金額が高すぎたり、入れそうな店がなかなか見つからなかった。
私はもうどこでもいいから入ろうよ、という気分になっていた。疲れていたし、スマホのバッテリーが心配だったからだ。
同居人のスマホはマルタでは圏外で、街歩きではいつも私のスマホでネットに接続していた。その日はバスの中やイムディーナで頻繁にGoogleマップを使い、バッテリーがかなり減っていた。
私は旅先で目の前にレストランがあって金額さえ妥当なら、ふらっと入るタイプだ。彼は違う。トリップアドバイザー(※)に載っている評判がいい店しか入らない。帰り道でもネットが必要なのに、周辺のお店を検索しまくって、もう残り30パーセントしかない。あー、口コミなんか読んでるから。あ、20パーセントになっちゃった。
やっとよさげな店を決めて、その場所へ行ってみた。しかし入口が見つからない。テラス席は見えるのに、どこから入るのかわからない。困り果てて通りすがりの男性2人に聞いてみると、
「ここじゃないか? あれ、違うな」
「いやいやこっちだろ、あれ、ここも違うな」
と言いながら一緒に捜してくれた(私は英語もマルタ語もわからないけど、多分そう言っていた)。
店の入口は近くの建物の中だった。表を閉めて、裏から出入りするようになっていたらしい。私たちだけでは絶対に見つけられなかっただろう。
そこはイタリア料理の店だった。
実は、イタリアンのレストランにはそれまでに2回行っていた。どちらの店もおいしくなかった。シチリアの目と鼻の先とは思えないまずさだ。
料理は、海をほんの100km隔てただけで変わる。
けれど日本の中華や韓国料理も本場の人が食べたら首をかしげるようなものかもしれないし、現地の味覚に合うようアレンジされるのは普通のことだろう。となると、逆にどんな料理が出てくるか楽しみになってくる。
応対してくれたウェイターはイタリア人で爽やか系のイケメンだった。同居人によれば恐らくシチリア出身とのことなので、シチリアーノ君と呼ぶ。
「イチ押しは海老のグリル。めちゃくちゃおいしいよー」
というおすすめに従って海老のグリルと、私はアサリのスパゲティを注文した。
先の2軒の経験から期待はしていなかったが、ここの料理は本物だった。
新鮮なアサリ。ふんわりした海の風味とオリーブオイルがスパゲティに絡み合い、さっぱりした味わいだ。
海老のグリルも絶品だった。大きな白い皿に食欲を刺激する鮮やかなオレンジ色の海老。口の中にひろがる濃厚な旨味。パリパリになった脚のおいしいこと。
私たちは今イタリア料理を食べている。
食事に心から満足したのは久しぶりだった。
店を決めるのに手間取ったせいで、食べ終わったのは22時過ぎだった。路線バスにはあまり乗りたくない時間だ。マルタには電車はない。となるとタクシーしかないが、高そうだし、どうやって呼べばいいかわからない。手持ちの現金が少ないのも心配だった。
困っていると、シチリアーノ君がタクシー配車アプリの存在を教えてくれた。
「マルタでは
その言葉どおり、アプリをダウンロードして目的地を入れたら1分で車がやってきた。30分でホテルに着き、金額は約20ユーロだった。ネット決済だから着いたら降りるだけ。お釣りをごまかされたり遠回りされたりする心配もない。控えめに言って最高だと思ってしまったのは、私がイタリアでなんどか嫌な思いをしたからかもしれない。しかしイタリアのぼったくりタクシーと同一視したらマルタに失礼だろう。
はじめての味との出会いは旅行の楽しみのひとつだが、食べ慣れた味もまた喜びを与えてくれる。
もう3日くらい長くマルタに滞在していたら、またこのお店に海老を食べに行っていたと思う。
※トリップアドバイザー:旅行の口コミサイト。
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