マルタ旅行記①マルタに行こう

「マルタに行こう!」


 イタリアの国内旅行は高すぎる。


 海外のほうが安いとは妙な話だが、イタリアではパンデミックの影響で旅行費、つまりホテル代やレストランでの食事代が10パーセントから20パーセント程度、各地で値上がりしているそうだ。よく行くサヴェッレトリ(※)の宿代もコロナ前とは比べ物にならない。


 マルタ島は飛行機で1時間20分。ホテル代は、見たところそんなに高くないようだ。


 近い、安い。


 というわけで今年のバカンスはマルタ島に決まった。フライトはLCCで往復175ユーロ。数年前の同じ時期に同じくらいの距離を旅行したときはアリタリアで300ユーロだったから安い。


 アリタリアと言えば、私はアリタリア航空の国際線と相性が悪く、ほぼ毎回なんらかのトラブルに見舞われた。


 ロストバゲージ。飛行機に預けた荷物が見つからない現象である。同じ便に乗ってきた人たちが自分の荷物をピックアップして次々に立ち去るなか、ぽつんと残って空っぽのベルトコンベアを見つめる心細さよ。ロストバゲージに遭った理由は分からないが、ローマ(FCO)発、成田(TKO)行きなのに、タグになぜか「ミラノ(MXP)」と印字されていたのが原因ではないかと推測している。


 アリタリアは霧に弱かった。フィレンツェの空港は霧が多いので、離陸できずキャンセルになったり着陸できなかったことがあった。天候のせいだから仕方ないが、他の航空会社はちゃんと飛んでいた。


 空港に行ったら自分が乗るはずの機体がなかったこともある。


 しかし、トラブルだらけでもやっぱり私はアリタリアが好きだった。機内食のチーズはおいしいし、着陸態勢に入ると自動音声が流れ、それを聞くたびにイタリアに来た実感が湧いて嬉しかったものだ。


 アリタリア航空は2021年、経営不振で国営化されて「ITAエアウェイズ」と名前が変わった。最後に乗ったのは2019年、パンテッレリーア島からローマに帰る国内線。窓から見えたエメラルド色の湖が素晴らしかった。


 関係ない話はこのくらいにして今回の旅行に戻ると、飛行機のチケットをとり、必要なものをそろえて荷物を詰めて、あとは飛び立つだけとなったとき、同居人が体調を崩した。


 私の風邪がうつったからだ。


 飛行機は19時半。それに合わせて空港に着くには17時半のバスに乗らないといけないのに、16時頃になっても彼は頭痛と微熱でソファから起きあがれない。


 出発を1日延ばすか。


 往路のフライトの変更には1人340ユーロほどかかる。もう2回行って帰ってこられる額だ。


 最悪の事態も考えた。このまま体調が回復せず、旅行そのものをキャンセルすることになるかもしれない。自分が風邪をうつした申し訳なさで落ち込み、出発する目処もたたなくて途方に暮れてしまった。




※サヴェッレトリ:イタリア南部、プーリア州にあるリゾート地。

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