最高の2020年

 YouTubeでThe Jackalザ・ジャッカルをフォローしています。The Jackalは映像製作を行う若手のイタリア人のグループで、皮肉のきいた笑いが売りの超人気チャンネル。Webを中心に活動し、最近は映画にも進出しているらしいです。


 YouTubeってトップ画面に動画が適当に並びますよね。あれついつい見ちゃいます。絶妙なチョイスでぶっこんでくるので「あれ? 筋トレしようとしたのになんで1時間も心霊動画を見てるんだろ」とか。昨日見たThe Jackalの新作もたまたまトップにあがってたもので、タイトルは


 Se il 2020 fosse andato bene(もし2020年がうまくいってたら)。


 これってあの有名な英語の構文


「もし私が鳥だったら(空を飛べるのに)」


 みたいなやつです。やりましたよね、中学の英語でしたっけ?


「あのときトレンチコートの前をひらかなければ、逮捕されなかったのに」「もし私が性的倒錯者なら、全裸でデリバリーを受け取るのに」というような過去や現在の「if」をあらわすやつ。


 これめちゃくちゃ覚えにくいんですよ、中級あたりで出るのにくっそ複雑で。くだけた会話なら使わずに切り抜けることもできるので、せっかく覚えても忘れるという。たまに真面目に使おうとして時制が分からず頓挫。忘れた頃にまた出る中盤のボスみたいな。倒したと思ったら「わははは!」って逃げて「ほんとうのおそろしさをみせてやろう」って進化して実はラスボスでした的な。また何言ってるのわかりませんね。


 で、肝心の動画の内容に戻るんですけど2020年がよろしくなかった一般的な要因の最大のやつはあれですよね。なので、あれが存在しないパラレルワールドが展開します。


 みちみちにくっついてソファに座り、歓談する4、5人の男女。そこへアジア系の若者が加わって、みんなに紹介されます。


「私の中国人の友達なの」

「中国のどこ出身?」

「武漢からきました」

「「「「武漢!?」」」」


 顔を引きつらせたのは、知らない地名なので戸惑ったから。ひとりが微笑んで言います。


「聞いたことないなあ」


 そこへ不織布マスク姿の別の男が。


「お前……なんでマスクしてるんだ? まさか……」

「そうなんだ、実は……」


 実は医大生(外科)。


「卒業試験に受かったんだよ! 満点で!」

「「「「おめでとう!」」」」


「〇時のニュースです。暇すぎてやることがない消防隊員たちの退屈が深刻化しています」


 暇でよかったです。


「ユーロ2020、フランスは決勝でイタリアに0-9の大敗を喫したのち、『モナ・リザ』の返還を約束しました」

「2020年東京オリンピックで獲得したすべての金メダルを売却し、国の借金が減りました」

「クリストファー・ノーラン、ついに理解可能な映画を撮る」


 いくら「最高の一年」でも非現実的じゃね? という小ネタをこれでもかと、よくもまあ思いつくな。実は「うまくいった場合の2020年」のシミュレーションを主人公が、何ていいましたっけ、あの顔面に装着するやつ。VR? あれで疑似体験していたというオチだったのですが。ラストから2番目のネタが大事なメッセージっぽい扱いだったのでご紹介しますね。



「学校に行けず医療を受けられず飢餓に苦しむ子供が今年はアフリカなど世界で50万人にのぼります」

「え? これって全然いいニュースじゃなくない?」

「いいニュースなんだよ、現実には3億7千万人いるから」



 社会問題に高い関心を寄せる彼ららしいまとめ方です。


 ところで「もし2020年がうまくいってたら」は実現しなかったifですが、今年まだ終わってなくない? あと1ヶ月半あるんですけど。このあと巻き返す可能性はないと。つらい。


 切なくも痛快な、久々に腹を抱えて笑えた動画でした。

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