ゴルゴンゾーラ考

 タイトルを見て「また食い物の話かよ!」と思ったでしょ。


 ゴルゴンゾーラ、イタリア原産で世界三大ブルーチーズの1つらしいですが、私はあまり食べません。もともと黴生え系のチーズというやつが苦手でして。


 では何の話かというと。


 昔聞いた忘れられない一言がありまして。バイト先の同僚数人で喋っていたとき、何の話だったかは忘れましたが、ひとりの女の子が言いました。


「ゴルゴンゾーラって殻から触手が出てて、転がりながら襲ってくるイメージ」


 世の中にはうまいことを言う人がいるものです。おかげでゴルゴンゾーラと聞いたら甲殻系軟体動物のモンスターしか頭に浮かばなくなりました。エスカルゴみたいなやつで触手がごそっと出ていて両側に目があります。


 ゴルゴンゾーラの名称は原産地の村が由来だそうです。ギリシャ神話に登場する髪の毛が蛇の女(ゴルゴン)と関連があるのかどうかは分かりませんが、それを別にしても何となく禍々しさを感じませんか?「ゴルゴン」「ゾーラ」ですからね。

 

 さて本題。


 ゴルゴンゾーラからモンスターを連想してしまうのはギリシャ神話の怪物の名前が入っているからだけでなく、日本語の歴史も関係しているのでは? と思ってます。


 ガギグゲゴやザジズゼゾなど濁る音を「濁音」といいますが、「くだもの」「かお」「あし」などの和語で分かるように、古代の日本語には語頭に濁音がくる語がありませんでした。


 その後、中国から濁音ではじまる語が流入します。そのため、もともと日本語ではないそれらの語に対し、違和感が残ったと言われています。


 キラキラ、サラサラ等のオノマトペ(擬音語・擬態語)はきれいな印象ですが、ギラギラ、ザラザラなど濁音ではじまるオノマトペは不純なもの、重いもの、強いもの、といった印象を与えます。 


「ダマ」、「ガラ」なんかもよくない意味としてとられますね。


 カタカナであることにも注目したいです。万葉仮名の一部から作られたカタカナはもともと漢文を読むための記号でしたが、次第に外国起源のものをあらわす文字として定着していきます。


 だから日本語話者はカタカナの単語に異質さを感じるのだそうです。


 ゴルゴンゾーラで怪物が思い浮かぶのは、私たちの言語感覚の根底にあるこの刷り込みが影響しているのではないでしょうか。


 ごるごんぞーらって平仮名で書くいたら禍々しさが和らいだりして。でもですね、ぜんぶ主観です。人によって感じ方は違うと思います。


 ちなみに濁音の語感は日本語に独特で、外国語話者には通じないそうです。


 そうですかね? アメコミとかで日本語の感覚と近いオノマトペをよく見かけますが。BANGバーンとか。


 でもザラザラとサラサラの違いや、ガラガラ、ギラギラなどがもつ良くないイメージは伝わりにくいということなんでしょうか。


 聖ゲオルギオス(ギリシア語名。英語ではジョージ)というキリスト教の聖人がいます。ドラゴンを倒したとされる伝説の勇者ですが、ゲオルギオスと聞くと私は昔からどうしてもワニっぽい二足歩行の怪獣を脳内で生成してしまいます。


 これもやはり私が日本語話者だからなのかもしれません。


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