第6話


「おや、珍しい人がいますね」


「キャベルト隊長」


 急に聞こえてきた声に振り替えるとそこにはきちっと隊服を着こんだ男性が立っていた。一見すると線が細くあまり強くは見えないが、なんとなく強そう。


「きゃべる、たいちょう?」


「ああ、申し遅れました。

 カーボ辺境騎士団第2隊長を務めております、キャベルト・プレンドと申します」


 ああ、だから隊長なのか!


「よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げると、きょとんとされてしまった。えっと?


「アラン、相手が名乗ってくれたんだから、アランもきちんと名乗らないと」


 そっか、そうだよね。アランになってから今まで名乗られたことも名乗ったこともないから、すっかり忘れてしまった。


「えっと、アラミレーテ・カーボです」


「はい。

 よろしくお願いしますね」


 よかった、相手の人も怒っていない。ちゃんと気を付けないとね。


「それで、アラミレーテ様はこちらに何をしにいらっしゃったんですか?」


「兄さまを見にきました!」


「そうでしたか。

 それで、アラミレーテ様も剣を練習なさいますか?」


 キャベルト隊長は僕の手にある木剣を見るとそう声をかけてくれる。練習、してみたい。なんだか兄さまが何かを言いたそうな顔をしているけれど構わないよね。


「はい、お願いします!」


「元気な返事ですね。

 それでは……。

 そうですね、軽い打ち合いをしましょうか」


 いきなり? そう思ったものの、久しぶりに剣を持ててうれしかったし僕としても願ったりかなったりだ。ギュッと木剣を握ると、キャベルト隊長がさあどうぞと言わんばかりに待っているのを見て、遠慮なくいくことにした。


 僕の利点は体の小ささだ。ならば狙うのは足元しかない。でもそれはキャベルト隊長も分かっている。なら、フェイントを入れる必要があるよな。


 ひとまず走って近づいていく。いや、遅いな。でも仕方ない。もちろんキャベルト隊長はこちらに油断なく剣を向けている。この人は右利き。なら右に一度重心を持って行って、そっちに意識が向かれた瞬間に左にふみだ、って。


「うわっ!」


 ずさっと音がする。いったい!


「アラン、大丈夫か!」


 思いっきり転んだ……。まさか重心を変えようとしただけで、重さを木剣に持っていかれるなんて……。


「血が出てる。

 すぐ医務室に行こう」


「大丈夫ですか?」


ぐんっと視線が高くなったと思ったら、キャベルト隊長が抱き上げてくれたんだ。


「歩けます」


 目からこぼれそうになるものを必死に我慢しながらそういうと、おとなしくしていてください、と言われてしまった。拒否権はないのか。


 そしてすぐに医務室へとついた。あれ、こんなに近かったっけ? ガチャリと扉を開けるといくつかのベッドや薬品棚が並んだり、手当できるスペースが空いたりした空間が広がっていた。万が一のためと場所は教えられていたけれど、実際に来たのは初めてだ。


「はいはーい、ってキャベルト隊長?」


「おや、イシュン隊長はいらっしゃらないんですね」


「今席を外していまして。

 どうかされましたか?」


「アラミレーテ様がけがをされたのです」


 へ? と間抜けな声を出した彼はやっとキャベルト隊長にだっこされている僕に気が付いたみたいだ。すぐにさっと顔色を変えると、こちらへと席を示した。すぐにけがをした左腕を出す。とっさ過ぎて受け身も取れなかったから結構思いっきりすってしまっていた。と、少し打ってもいる?


「思っていたよりもひどいですね」


 あああ、と変な声を出しながら若い男性は手当をしてくれる。消毒液がすごくしみる……。


「一体何があって、こんなけがをされたんですか?」


「いや、剣に興味があるみたいだから少し稽古をつけようと思ったんだけどね」


「ごめんなさい……」


「いえ、謝る必要はないですよ。

 こちらもいきなり打ち合いと言ってすみませんでした」


 そうやって謝れると余計に申し訳ないというか、なんか……。


「まさか、いきなりフェイントを仕掛けようとするだなんて思いませんでしたからね」


 じっと何かを疑うように、探るようにこちらを見る。居心地が悪いその視線に、思わず目をそらした。やましいことはないけれど、なんだか見つめ返すことはできなかった。


「はい、これで終わり。

 隊長には伝えておくので、また包帯を変えてもらってね」


「ありがとうございます」


「助かったよ、コーパマ」


 いえいえ、と言いながら手際よく使ったものを片付けている。本当にすぐに手当てをしてもらえてよかった。


「無茶はしないでね、アラン。

 本当に驚いたんだから……」


「ごめんなさい……」


 自分でもまさかあんな動きで転ぶとは思わなかったんです、とは口にできず反省していると、あーもうと叫んだあと兄さまは頭をなでてくれました。


「もうやらなければいいよ。

 ひとまず力をつけないとね」


 その言葉にうなずくしかできない。本当に、こんなに弱くなっていたとは。


「まあ、これに懲りずまた訓練場に顔を出してください。

 そしたら指導くらいはできますから」


「はい、よろしくおねがいします」


 素直にそういうと、なぜがキャベルト隊長にも頭をなでられました。そうしてそのまま部屋へと連れ戻されることに。もう少し訓練を見ていたかったんだけれど、休みなさいといわれてしまいました。


「もし1人が寂しいなら、剣の訓練の時ではなく勉強の時に来るかい?

 父上に許可を取ってからになるけれど」


「行きます!」


 また1人でずっと過ごさなきゃいけないならその方がいい、とすぐにうなずいた。


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