第16話 【太巻き事件】


   ──  16番目の扉へようこそ ──



 某神社へのお供え物に関する体験です。


 地元に、とある有名神社の小さな末社があるのですが、落ち着く感じが好きでたまに訪れていました。

 特に願掛けをするわけでもなく、気分転換的にお邪魔をさせて頂いていましたが、過去に1度だけ、どう考えてもどう推察しても分からな過ぎる謎の現象が起きたことがあります。


 そこを訪れる時はいつも、大福や饅頭など、ちょっとした物をお供えするのですが、ある時、たまたま行きに寄ったスーパーで美味しそうな太巻きが売っており、たまにはこういうのもいいかも・・・・と、自分の分とあわせて購入しました。


 太巻き、といっても恵方巻きほどに太くはなく直径は3センチほどで丈も短めでしたので、1本では見場もさみしいので2本をお供えしました。


 そしてしばらくゆっくりしてから帰宅し、自分用に買った太巻き2本はその日のうちに食べました。


 で──

 どう考えてもおかしい、かつ、不可思議すぎて滑稽なほどの《変なこと》が起きたのは翌朝のことでした。


 妙に早くに目が覚めてしまい、時計を見るとまだ早朝の5時で10月の日の出には少し早く外も暗かったのですが、眠くもなかったため私は新聞を取りに外に出ました。


 すると──


(ん?)


 門の上に何か──乗っています。


 裸眼では0.1もない弱視の私の目には、薄暗闇の中でそれが何なのかすぐには把握が出来ず、とりあえず近づいて見てみると──


「え?!」


 思わず声が出てしまいました。



■ 太 巻 き が 乗 っ て い ま す ■



「な・・・・何で?!」


 あまりにも唖然とする事態に遭遇すると脳の分析機能が一時的にストップするらしく、私はしばし、ぼーっとそれを眺めていました。

 そしてどうしたかと言うと、そのままそれを放置でいったん家の中に入りました。


 何と言うか・・・・怖いとか気味が悪いとかではなく、

それが門の上に乗っているという図のあまりの違和感を頭が受け入れ拒否をした──自己分析すればそんな感じでした。


 それから1時間ほどすると外もすっかり明るくなり、気も落ち着いてきたため、もう1度あれを見に行こうか、と、そう思った時、カチャン──と門扉が開く音がしました。

 夜勤明けの父が帰宅をしたのです。


「お帰りなさい」

「あ、起きてたか。ただいま──」

「あっ!」

「ん? ああ、これ、何だか知らんけど門に乗ってたぞ? 悪戯か? 生ゴミに出しとかないと」


 父が手に持っていたのは《太巻き》でした。


 父は流しの三角コーナーの生ゴミ入れに無造作にそれを放り込むといつものように風呂場に向かいました。


(・・・・)


 近づいてよく見た私は混乱しました。

 捨てられたそれ──あの太巻きでした。

 神社に供えたあの太巻きに間違いありません。


 ここで現実的に考えれば、供えたのを見ていた誰かが私が帰ったあと悪戯で1本取り上げ後をつけ家を突き止め、暗くなってから門に乗せた──ということになります。

 

 でも──


 誰が何のために?? 

 そんな面倒臭いことを??

 というか、する意味は??

 2本じゃなくて何故1本??

 何のメッセージ??


 ──どう考えても意味不明です。


 ましてやもし、何らかの意図でそこまでする者がいるとしたら、この件以前にも変なことが身辺に起きていても不思議はないはずですが、妙な気配も事も一切なく、さらにはその神社にたまに行っていることは誰にも言っておらず、知る範囲の誰かの悪戯とも考えられません。

 いや、元よりそんな変質的な知り合いはいませんし。


 場所の環境にしても、その神社は無人で小さく、両脇は路地になっており不審者が身を隠すのも難しいため、隠れて私の様子を伺う誰かがいれば気づけたはずです。


 門に乗せられた1本の太巻き──


 これが昔ばなしで別の品物ならば『傘地蔵か!』とツッコミを入れるところですが、自分の供えた品が半分返ってきたわけですから、神社の神様からの御礼であるはずもなく・・・・。


 結局、訳がわからないまま時間が過ぎ、それ以降に何か妙なことが起きることもなく、忙しかったこともありしばらくは神社にも行かずにいました。


 それから2ヶ月ほどしてまたふいに行きたくなった私は、供え物を買う際に少し迷いましたが結局いつもの甘味の和菓子を選びました。

 正直言えばもう1度、太巻きで試してみたい気持ちもあったのですが、あえてまた謎を呼ぶこともないと思い、それは止めておきました。


 ところが──


 いつもの道を通り向かった先に──ありませんでした。

 神社が。


「え・・・・え?!」


 更地になり、後ろにあった何かの倉庫? とともに進入禁止の囲いが出来ています。

 呆然としました。


 むろん、神社仏閣が何らかの事情で移転をすることはあり、それ自体は不思議な事ではありません。

 ただ、あまりにもいきなりの更地状態に私はかなり動揺しました。


 そのエリアは民家も少なく、訳を聞けそうな店屋もないため、その場でネット検索をしてみましたがヒットせず、市役所に問い合わせをしてみても無人で管理者も分からず、「個人所有だったのでは?」とのことで何ら情報は得られませんでした。


 訪れなかった2ヶ月の間に何か突発的なことがあったのか?! と一瞬思いはしましたが、それはこちら側の単なる推測であり、私が知らなかっただけでどこかに移すことは前々から決まっていたのかもしれません。


 そして馴染んだ神社とのそんな別れに寂しさを感じながら帰宅をし、門を見た時、ふと、私の脳裏にとある思いが浮かびました。


(お別れの挨拶だったのかな?)


 むろん、物理的にはあり得ません。

 神様が何らかの意図で太巻きを1本、家まで運んでくるなど、それこそ昔ばなし風にファンタジー過ぎるとは思います。


 ただ、お供えしたのが2本。

 返ってきたのが1本。

 つまりは《離ればなれ》──


 こじつけに過ぎないことではありますが、結果的に唐突な別れになった状況、そして移転先を探しようもなく2度とお参り出来なくなった現実を考えてみるに、解明不可能な太巻き事件のオチを、神様の粋な計らい、と、《そういうこと》にしておいてもいいのではないか──

 

 今、私はそんな風に思っています。



 それではまた、次の扉でお会いしましょう。



 

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