第14話 【生霊】


    ── 14番目の扉へようこそ ──



 以前、交際中だった彼との間での体験です。


 ある日、滅多にしない喧嘩をし、その際の原因が明らかに彼側にあったため、その時以降はこちらから連絡をすることはなく向こうからもなかったことで1ヶ月ほどの日が過ぎました。


 このまま別れることになるのかな──そう思ったとある夜、就寝中に私は身体に何かがぶつかってくる感触を感じ目覚めかけました。

 寝起きのぼんやりとした視界、カーテンごしに入ってくる外灯の明かり──


 ?!!!!


 その時、薄暗い中で目に映ったものを私は今も忘れることが出来ません。

 それは恐怖というより、あまりにも《意外》で《珍しいもの》という意味で。


【 膝 か ら 下 だ け の 両 足 】


 そう── ジーンズを履いたそれが、私の脇腹横辺りにニュッ! と立ち、さらに、右足の方がボンッ! と蹴っているのです、掛け布団を。

 しかも蹴られている感触がちゃんとある、という実に奇怪極まりない状況です。


(○○だ!)


 その足の正体に気づいた瞬間、私は枕元のスタンドに手を伸ばしスイッチを入れました。

 明るくなった途端、足は消えましたが、それの正体の気配はまだ室内に感じます。

 そこで──


「逆ギレはやめて!」


 そう言ってやりました。

 空間に感じる気配に向けて。

 すると間もなくその気配はスッと消え、同時に確信しました。


 その足の正体──それは間違いなく【彼】でした。


 ジーンズ愛用、長い膝下、そして何より見覚えのある柄物の靴下──私が買ったものです。


(生霊? 呆れた)


 もちろん、本人にそんな自覚はないでしょう。

 まさか自分の足だけが私の元に現れ、さらには布団を蹴っている──むしろ意識的にやろうと思っても出来ることではありません。

 が、いわゆる生霊とはそういうもの、というのが通説であり本人の知らないうちに飛んでいた話も昔から多々あります。


 いずれにせよ、その夜の《両足》は喧嘩で疎遠の原因が100%彼側にあることを、彼の表層意識が認めたくないがための逆ギレ現象だったのだと思います。

 なぜ膝から下の部分だけだったのか? は分かりませんが。


 にしても、この怪異で笑えるのは、生霊がわざわざ私がプレゼントをした靴下を履いていた、ということで、それがなければすぐには彼だと気づけなかったかもしれません。


 生霊のくせに、あれをチョイスして登場してくるとは何ともこしゃくな──あのご当地キャラ《くまモン》の靴下を。



 それではまた、次の扉でお会いしましょう。


 

 




 

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