【27日】


  ──  11番目の扉へようこそ ──



 知人のストーカー絡みの体験です。


 ある時、知り合いのGさんから「ちょっと相談があるんだけど──」との連絡があり、たまたま時間があったのでその日のうちに会うことになりました。


 Gさんとは、いわゆるちょっとした知り合いといった関係で、特に親しいわけではありませんでしたが、以前にとある件で行動を共にしたことがあり、以来たまに連絡を取り合ってはいました。

 ただ、今回のように相談を持ちかけられるというのは初めてのことで、何だろう? という疑問を持ちながら約束の場に出向きました。


「早速なんだけど、この人、何か感じる?」


 ケータイ画面を見せながらGさんがそう口にした時、私を呼び出した意図が分かりました。


 第1話でも書きましたが、私には少し変わった能力──というほどのものでもないですが──があり、相手に関する(必要な知らせや警告などの)イメージやビジョンが、ふっ、と脳裏に浮かんでくることがあり、Gさんはそれを知っていたため、何か聞けるのではないか?と、呼んだのだと思いました。

 ただし受け身な能力のため、何も浮かばない時はまったく浮かばないのですが。


 見せられた画面にはGさんと並んで笑みを浮かべている男性が写っています。

「彼氏?」

「元彼」

 ふーん、と思いつつ、じっと見ていると、とある数字が唐突に浮かびました。


【27】


 数字だけが出てくるというケースは初めてで、何のことか、どういう意味か分かりません。


「数字? だけ?」

「今のところは・・・・で、この元彼がどうしたの?」

 相談の核心に触れる問いを私はGさんに向けました。

「それがね──」


 Gさんの話はこうでした。


 3年付き合った彼と別れたのが半年前。

 理由はいわゆる性格の不一致で、趣味志向から物事の考え方から食の好みまで、まさに何から何まで合わないことへの不満が隠しきれなくなったGさんからの引導渡しだったとのこと。

 好きな気持ちがあるうちはそれでも一緒にいられたが今はまったく愛情がなく、Gさんとしてはアラサーということもあり既に前を向いているが元彼の方はそうではなく、たびたび復縁を迫り結果的にストーカー化しているため恐怖を感じている──という話でした。


 話を聞き終えた時、ふいに《27》というのは日にちのことだ──とひらめきました。

 同時に非常に嫌な予感もしてきます。


「今月末の27日、どんな予定?」

「27日は仕事は休みだから実家にでも行こうかと思ってるけど──」

 そう言うGさんに、感じる嫌な予感を話すと顔をしかめ、「何があるんだろう・・・・もういい加減にしてほしい」と、苛立った様子で首を左右に振りました。

 

 すると──

 その仕草を見た瞬間、Gさんの背後から、すーっ、と一筋の煙のようなものが立ち上ぼりました。

 次の瞬間、私の口から「その日を過ぎれば楽になる」という言葉が意図せず自然と飛び出しました。


 そしてそれは不安の中にあるGさんにとってかなり救いの言葉になったらしく、とにかく27日は十分に気をつける、と、いくぶん明るさを感じる表情になり、「27日過ぎたらまた連絡するから」と言い、帰路につきました。


 そして【27日】

 [事]は起こりました。

 Gさんの身に・・・・ではなく、彼の身に。


「27日を過ぎたら楽になる、って・・・・その意味が分かったけど・・・・でも・・・・」

 連絡をくれたGさんの声は沈んでいました。

「何があったの?」

 そう言いながらも私は、正直、聞きたいような聞きたくないような複雑な心境でした。

 

「彼・・・・自殺した・・・・」


 ────────背筋が凍りました。


 もうGさんの前には現れない、ストーカーと化した彼の奇行に追い詰められることも悩まされることもない──

 楽になる──その言葉の意味に寒気を覚えました。


「私への分厚い遺書があったって・・・・」

 そう言い、深く溜め息をついたあとGさんはさらに「あと、なんで27日だったのか・・・・思い出した」とも言いました。


 初デートの日──だったそうです。


「私の方はすっかり忘れてたのにね・・・・」


 復縁という叶わぬ望みへの絶望をGさんへ向ける他虐ではなく、自らに向ける自虐を選んだ彼──

 Gさんにとっては忘れていた程度の日でも、彼にとっては忘れ得ぬ記念日だったということ、そしてその日を大事に思うがゆえに自らの人生最後の日として選んだ──そこまでの思いに慄然としつつ、同時に少なからずの憐れみも感じました。


 そして、あの日、Gさんの背後に立ち上ぼった一筋の煙──あれは彼のGさんへの執着、あるいは生霊が離れていく瞬間だったのではないかと、結末を受けて私にはそう思えてなりません。


 どうにもならない気持ちの温度差──そして執着が身を滅ぼしてしまった悲劇。


 その後、Gさんは遺書は読まずに地元の神社に納めてしまったそうです。

 彼としては、捨てられるよりはまだ良かったかもしれませんが──



 それでは、また次の扉でお会いしましょう。



 




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