【江ノ島】
── 10番目の扉へようこそ ──
サザンオールスターズの歌詞にも登場する湘南の地の【江ノ島】での体験です。
観光スポットとして知られる風光明媚なこの島には、昔から伝えられている不思議な話が多々あります。
その中のひとつに《島内では時々時間の流れがおかしくなる。時空の歪みがある》というものがあり、半ば都市伝説的な、知る人ぞ知る噂として私もだいぶ以前に耳にしていました。
その噂には、《時間が経過が早すぎる》《時間の経過が遅すぎる》という二通りがあり、例えば島内で2時間は過ごしたはずが実際には1時間も経っていなかった、あるいはその逆で倍の時間が過ぎていた──というようなケースです。
ある時、友人カップルと会った際、たまたま都市伝説の話題になり、友人の彼氏が思い出したように江ノ島の件を口に出したことから「行って確かめてみようか」という話になり、時間もまだ昼下がりだったことから勢いで出掛けてみることになりました。
到着し、駅前から大橋を渡って島の入り口の大鳥居の所に着いた時点で私たちは時間合わせも兼ねていったん休憩しました。
友人が「4時ちょうどにここを出発して島の裏側まで行ってとんぼ返りしよう。時計は今からいっさい見ないこと」と言い、それでOK、と、私たちは時間きっちりに大鳥居をくぐりました。
土産品屋が左右に並ぶ参道を抜け、江ノ島神社にお参りしてから島の頂上に行き、そこから下り裏側に降り、江ノ島洞窟の手前で少し休憩し、そこからまた来た道を戻る──
階段だらけの行程ですので、大人3人、のんびりゆっくり目に歩きながらの往復で、通常の時間の流れならば間違いなく1時間以上は経っているはずです。
大鳥居の所で私たちはそれぞれ体感時間を言い合いました。
「1時間15分」
「ほぼ1時間」
「1時間20分」
まさに人それぞれ、といった時間感覚でしたが、共通しているのはとにかく最低1時間は過ぎている──そういうことでした。
そして友人の「じゃ、今の時間を見てみよう」の言葉を合図にいっせいにスマホを取り出し確認をしてみると──
?!!!!
「えーー、何でーー???」
「嘘だろ?!」
「いや、これはないわ、おかしいわ」
江ノ島神社はお稲荷様ではないですが、この時の気分としてはまさに狐につままれた、といった感じでした。
経過時間は────たったの32分!!
ありえません、絶対にどうしても無理です。
テレポートでもしない限り、あのゆっくり徒歩では確実に完全に無理です。
物理的に起きるはずがない現実を前に3人ともにしばし黙り込みました。
しかし考えたところで解決はしないため、結局は「やっぱり時空の歪みがあるんじゃないの? 」という曖昧なオチにし、その日は解散しました。
しばらくしてから私は別の友人とまた江ノ島に行く機会がありました。
ただの散策です。
ある程度楽しんだところでその友人に《たったの32分!》の体験を話してみました。
すると──
「あ、聞いたことある。逢魔が時に起きる、って話でしょ?」
「逢魔が時?」
「うん。だいたい夕暮れ辺りの時間帯のことそう言うじゃない? その頃に時間がおかしくなることがある、って話は前に聞いたよ?」
言われてみれば3人で実験をしてみたのは日暮れが早くなり始めの10月下旬。
大鳥居からの出発が4時。
逢魔が時、と言われればそうかもしれない──
「私たちが認識してる"普通"なんてさ、この世界の全体からしたらごく一部でしかないんじゃない? 知らないことの方が多いんだよ、きっと」
その友人の達観したような話ぶりに半ば感心しながら私は(あの時、時間はどこに消えたんだろう・・・・)と、ぼんやり考えました。
いや、ひょっとしたら消えたのは時間ではなく、途中で知らずのうちに一時的に時空の歪みに取り込まれた私たち3人の方だったのかもしれませんが───
それではまた、次の扉でお会いしましょう。
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