第6話 【黒い長方形】

     ── 6番目の扉へようこそ ──



 子供の頃に見た妙なモノが、友人および世界の各地でも目撃されている──という体験です。


 小学4年の頃だったと思います。

 父親の知り合いが都内某市に移転をし、『空気も夜空もすごく綺麗だから遊びに来て』と誘われたとのことで1泊で訪ねることになりました。


 行ってみるとそこは都内郊外というより、どこの山岳地帯ですか? と勘違いするほどに山々に囲まれた緑深い場所で、隣家といっても徒歩3分くらいは余裕で離れているような田舎でした。


 その家庭には5歳の幼女がいましたが、遊び相手には小さ過ぎ、私は日暮れ頃にはすでに退屈し、家の中で話に花を咲かせている両親たちを横目に外に出ました。


 家の前にはかなり広い空き地があるのですが、その端にポツンとひとつ鉄棒があり、そこから2メートルほど先は崖になっていました。

 

 私は鉄棒に乗り、足をブラつかせながら里山の連なる景色の中、夕焼けをぼんやり眺めていました。

 すると前方上空の薄い雲の中から、ポン! という感じで唐突に妙なモノが現れました。


【真っ黒な長方形】


 (何・・・・あれ・・・・)

 

 唐突にいきなり、ポン! だったので思考が追い付かず、目が離せないままそれを凝視する私──


 色は見事に真っ黒。

 平面ではなく長方形の立方体で、大きさがどれくらいなのか、離れているので正確には推定できませんでしたが、下の山々との対比からたぶんかなり大きなものだろうことは理解できました。


 にしてもそれはただ現れただけで微動だにせず、一点に留まっています。

 時間にして5,6分だったでしょうか・・・・またいきなりそれは消えました。

 パッ! と。

 ポン! と現れて、パッ! です。

 わけが分かりません。


 その後とりあえず親には話しましたが、『カラスじゃない?』で片付けられ、ぜんぜん違うと思いながらも、お喋りとは真逆の大人しめな子供だった私はそれ以上はその話には触れることなく、時間とともに次第に忘れていきました。


 が!


 2年前、まさかの蘇り!──あの黒い長方形の話を意外にも身近な友人の口から聞かされることになったのです。


 友人Dはある日、仕事で都内の浅草橋方面のとあるオフィスビルに出向いたそうです。

 商談を終え、一服しようと最上階にあるという喫煙ルームに向かいました。

 その一角は大きなガラス窓から新宿副都心がよく見える眺めの良いスペースで、他に誰もいなかったため友人はタバコをふかしながら立って外をのんびり見ていたそうです。


 すると──


 友人いわく、「都庁の上辺りにさ、浮いてるんだよ、真っ黒な箱みたいなのが」とのこと。

「最初は何かの宣伝の飛行船かとも思ったんだけど、それにしちゃ何の広告も書かれてないし、ちっとも動かないし、それに・・・・」

 少し考えるように間を置き、続けて「何か・・・・脚みたいのが出てるんだよ、8本くらい。着陸用? みたいな」と言いました。

「脚?! 大きさは? その、全体の」

「ん~・・・・下のビル群からするとかなりの大きさに感じたけど、真っ昼間にあんなのが上空に浮かんでたら大ニュースだしビル街も影で暗くなると思うんだよね。でもネットで騒ぎにならなかったなぁ・・・・でも・・・・」

「でも?」

「何だあれ、って見てたらさ、ふいに横に人が来たんだよ。たぶんビル内で働いてる人だと思うけど。で、その人がさ、あれ見て変なこと言うんだ」

「どんな?」


『あー・・・・ああいうの、よく出るんですよ。この辺り、何か変なんですよね』


「え、そんなこと言ったの?」

「そっ、驚きもせずに淡々と」

「へー・・・・それで? その黒いのはどうなったの?」

「それが一瞬その人の方を見て、また外を見たら消えてた」

「?! 一瞬で?」

「一瞬で」


(あれだ、あれと同じだ)

 私の脳裏に、あの夕暮れに見た真っ黒な長方形が蘇りました。

 まったく同じモノに間違いないという確信とともに。


 それからすぐに私は、異様にあれが気になりネットで検索をしてみました。


 すると──出てきました。


 アメリカ、中国、そして福島でも、あれは目撃されていました。

 アメリカの目撃談には画像もあり、それは長方形ではなく正方形でしたが、やはり真っ黒で窓も何もありません。

 ひょっとするとフェイク画像の可能性もありますが、目撃した方の話を読んでみるとほぼ同様に《ポン! と現れ、パッ! と消える》状況だったようで、やはり何が何だか分からない──という感じです。


 特に興味深かったのは福島県の会津磐梯山の上空に現れた、との地元タウン紙記者のブログ記事で、それには画像はなかったのですが、記者がたまたま地元の人たちと目撃した内容として、磐梯山の上空に真っ黒な箱のようなモノが現れ、皆が見ている状況の中、いきなり真上にものすごいスピードで上昇し《パッ! と消えた》とのことが詳しく書かれていました。


 そして後日、記者が磐梯山の麓で農作業をしている古老に話を聞いてみると、『何度も見てる』と、平然とそう言っていた──とのこと。


 調べてますます私は分析不能に陥りましたが、ただ、事実として私を含むごく普通の一般人があちこちで目撃しているということだけは分かり、自分だけではないのだという一種の安堵感を得ることは出来ました。


 たぶん一生、正体は分からずじまいとは思いますが。

 

 加えて──

 

 目撃し驚く友人に淡々と、『ああいうの、よく出るんですよ。この辺り、何か変なんですよね』と語った人物は何者だったのか。


 そして、目撃談の詳細を書いていた福島のタウン紙の記者のブログが現在は消えてしまっているのは何故なのか──


 この2つの謎の答えも、一生分からぬままでしょう・・・・というより、分からない方がいい──のかもしれません・・・・。



 それでは、また次の扉でお会いしましょう。

 




 



 


 


 

 

 

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