第5話 【先生】

   ── 5番目の扉へようこそ ──



 中学生時代の先生にまつわる体験です。


 その先生は男性の◯◯科教諭でした。

 非常に物静かで大人しいイメージの方で、授業中の声も張り上げることもなく淡々と語るような、そんな先生でした。


 ただ、私はその先生が苦手でした。

 別に何か言われたわけでもなく叱咤されたことも1度もなかったのですが、どう言えば良いのか・・・・廊下ですれ違ったり教室に入ってきた瞬間だったり、の、とにかくその姿が目に入ると得もいわれぬ感覚──何だか気持ちが悪い──を感じてしまい、あまり直視が出来ないような状態でした。


 そんな日々のある日──


 チャイムが鳴り、ほどなく先生が引き戸を静かに開け、入ってきました。

 (来ちゃった・・・・)

 申し訳ないながら、またいつもの感情のまま顔を上げ何気なく入り口に目をやると──

 (あれ?)

 中に入り引き戸を閉めるその瞬間、ほんの一瞬のことでしたが──見えたのです。

 女の子が。

 幼稚園児くらいでしょうか・・・・。

 先生の背後、腰の辺りに黄色い帽子と制服?の小さな子がピッタリくっつくようにしていたのを確かに私は目撃しました。

 ゾワッとした感覚が全身に走り、もうその授業の間は1度も先生をまともに見ることは出来ませんでした。


 それからしばらく経ったある日、担任から『今日から◯◯科の授業の担当先生が変わります』と、唐突な告知がありました。

 正直、驚きました。

 学期が変わる時期でもなく、女性の先生のような産休というのも有り得ず、しかも『今日から』という突発感──

 一体どうしたのか? と、クラス内はざわつきました。

 手を上げ、理由を聞く生徒もいましたが、担任の口からは『一身上の都合』としか語られず、結局その日は代行の先生で授業が行われて終わりました。


 ところが意外にもその理由は、帰宅をしてからすぐに母親の口から知らされました。


「●●先生、逮捕されだんだってね! 学校で聞いた?」

「へっ?!!」

 目が点になるとはまさにこれ、という表情になっていたであろう私の口から空気の抜けたような変な声が漏れました。


「えっと・・・・授業に来なかったけど・・・・た、逮捕?」

「あーやっぱり生徒には話してないか。PTAの方じゃもうこの話はすっかり広まってるけどね。だって逮捕だもの。ビックリよ」

 妙なテンションの母親の様子を見、正直、PTAおそるべし、と思いました。

「理由は? 何?」

 当然のその問いに対し母親の口から出た言葉に、私は固まりました。


「痴漢だって」


 痴漢?!!!


 そして、ほとんど無意識に私の口から「あー・・・・そんな感じ・・・・」と言葉が出ました。

「あら、そうなの?! 何か兆候あったの?」

「いや別にそういうのはないけど・・・・ちょっと何か苦手だったというか・・・・」

「そう・・・・」


 そして翌日、朝刊の3面の片隅に小さいスペースではありましたが楕円形に切り取られた顔写真もバッチリに、【中学教師、痴漢で逮捕】という記事が掲載されました。

 被害者は小学生だそうで余罪もあるようでした。


 学校に行くと当たり前のことながら生徒たちは大騒ぎで、一日中その話で持ちきりでした。

 私はその輪に加わりながらも、あの先生に感じた何とも言い難い気持ちの悪さを思い出し、(やっぱり裏でそんなことしてたんだ・・・・)と妙に納得していました。


 ただ、ひとつ引っ掛かったのはあの時に見た女の子の姿──

 あれは間違いなく生きている子供ではなく、いわゆる《霊》だと確信しています。

 となると──


 私の心の奥には実は今も消えずのままの疑念があります。


 あの先生が犯した罪は──

 果たして【痴漢】だけだったのでしょうか・・・・。


 答えは遠い闇の中です・・・・。




 それではまた、次の扉でお会いしましょう。

 



 

 

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