第4話 【警告】

   ── 4番目の扉へようこそ ──



 とある夏の8月、お盆の時期の体験です。


 当時の交際相手はかなり多忙でなかなか休みが取れず、ようやくお盆の中日に丸1日の休みが取れることになりました。

「富士五湖辺り行ってみようか」

「あ、いいね」

 彼の提案に二つ返事をしたのが、その休みの1週間前のこと。


 久々の遠出にワクワクしていたところ、3日前になり突然、彼の車が壊れました。

「おかしいなぁ、車検通したばかりなのに」

 彼自身では原因が分からず、知り合いの修理屋さんに持ち込むことになりました。

 が、時期も時期であるため点検~修理までは1週間以上はかかるとのこと。

「代車が出払ってるから、その人の車を貸してくれることになったよ。2台あるからいいよ、って」

 そう言う彼の言葉に、「ほんと? それはありがたいね」と私は返し、あらためて当日を楽しみにしました。


 が──


「また壊れた。動かない」

 出かける前日、またもその車も壊れました。

「まいったなぁ」

 彼からのメールには困り顔の絵文字。

 せっかく貸してもらった、しかもまだ新しい車がいきなり動かなくなった──

(もしかして・・・・行かない方がいいというお知らせじゃ・・・・)

 何とも嫌な感じがし、そう思ったものの、ただ彼にはそんな懸念は文字にも口にも出せませんでした。


 何故なら彼はいわゆる非科学的な話が嫌いなタイプで、心霊現象などはハナから否定し馬鹿にしていましたので、私も過去の体験談や自身の身に起きることなどは一切話さずにいたからです。

 ましてや楽しみにしている久しぶりの遠出。

 嫌な予感など口にしようものなら激怒で別れにまで至りかねません。

「レンタカー借りるか・・・・」

 そうなるのかな・・・・と思いつつ、しかし胸騒ぎはおさまらず。

(明日朝、急に高熱が出たとか仮病を使おうか・・・・)

 そんな考えもよぎりました。


 すると──


「車、兄貴が貸してくれるって。明日は行けるよ!」

 夜、弾んだ声で彼から電話がありました。

「え、あ、そうなんだ。良かった」

 内心では違和感と不安がいっぱいでしたが、やはり嬉しそうな彼の声を聞くとそんな風に言ってしまう自分。

(また壊れるかもしれないし・・・・)

 行ってはいけない、という何らかのお知らせ、警告であるならば、3台目の車もまたいきなり動かなくなるんじゃないか──もうそれを期待するしかありません。


 しかし結果的には私を迎えに来るまでの間に3台目の車には何事も起こらず、早朝の晴天の下、ご機嫌な彼の運転で富士方面へと出発をしました。


 が──


 高速道路に入って最初のトンネルで【事】は起きました。

 それはもう、極端にとんでもないことが。


「ええええっ?!」

 トンネルに入った瞬時、目に飛び込んだのは中央車線にジグザグに停車している数台の車──


「わああっ」

「きゃあああっ」


 キーーーーーーーー

 ガッシャーーーーーーーーン!!!!!


 急ブレーキも間に合わず、私たちの車はそこに突っ込みました。

 突っ込む前の数秒、目前の光景がスローモーションのように見えたのを覚えています。


 実は私たちの車がトンネルに入る少し前、中では玉突き事故が起きていたのです。

 起きたばかりの、各車のドライバーや同乗者らが混乱状況の中、そこにさらに後方から突っ込むという二次的事故──

 死者が出なかったことだけは幸いでした。


 一瞬飛んだ意識が戻り気がついた時、私はどういう風に落ちたのか記憶にまったくないのですが座席から滑り落ち、ダッシュボードの下のスペースにはまるように沈んでいました。

 何がどうなったのか、意識を巡らそうとしたその時、脳裏にそれはハッキリと響きました。


『だ・か・らっ!』


 完全な怒り口調──

 まさに《怒られた》感じでした。


 たぶん、何とかしてどうにかして引き留めようとしてくれていたにも関わらず、またそれを私も感じていたにも関わらず、中止の方向に危機感をもって動かなかったことへの守護の方からの《お叱り》だったのではないかと、そう思います。


 だから止めさせようとしたのに!

 だから気付けるようにしたのに!


 そんな怒りを感じる声の強い響きを、私は決して忘れることは出来ません。


 3台目の車に異変が起きなかったのは匙を投げられたからなのか、あえての戒めなのか、それともさすがに3台壊すのは難しかったのか──

 それは今でも分かりませんが。

 


 それではまた次の扉でお会いしましょう。

 


 

 

 





 

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