【4枚目の画像】
── 3番目の扉へようこそ ──
友人のCがリサイクルショップで購入したという自転車の画像を添付したメールを送ってきた時の体験です。
『これ、中古だけど、なかなかいいでしょ?』
添付画像は計4枚。
1~3枚までは黄色い塗装の自転車が横や前からなど違う角度で写っています。
そして4枚目──
「何これ・・・・」
見た瞬間、思わず声が出ました。
4枚目の画像には、一見どういう意図で写したのかが不明な、ましてや自転車とはまるで関係のないものが写っています。
女?──そう、女が写っているのです。
自転車の画像の半分以下の小さなサイズの画面の中に黒髪ショートボブヘアの女が。
『4枚目の画像、これ何?』
私はすぐさまその画像だけを添付しての返信を送りました。
すると──
『何これ。こんなの送ってないよ? というか3枚だけだよ、送ったのは』
彼女からのメール内容に私は混乱しました。
とりあえず話した方が早いと思い、すぐに電話をしてみると──
「いや、こんなの送ってないから、ほんとに。だいたい何これ、気持ち悪い」
「でも自転車の画像と一緒にきたから何か意味があるのかと思って・・・・」
「だから知らないって。誰よ、これ。何で濡れてんの? 気持ち悪っ」
そう、その画像に写っている女の髪、そのショートボブヘアが洗い立てのように濡れているのです。
しかも若干うつむき加減で目の下辺りまで前髪が垂れているため表情が読めません。
「でも・・・・じゃ、どこから来たんだろう。どうやって添付されたんだろう、この画像」
「そんなの分からないよ・・・・とりあえず消そうよ、これ。うまく言えないけど嫌な感じがする・・・・すぐ消そう」
「そうだね、そうしよう」
物理的に理解不能な事態を分析するよりも関わらないことを優先すべく、私たちは電話を切り、正体不明のその奇妙な画像をすぐに消しました。
が──
その後まもなく就寝をした私の身に"それ"に関係するとしか思えない現象が起きてしまったのです。
横になってからケータイを見ていた私がウトウトし始めた時、ふいに身体に布団にめり込みそうなほどの重さがのしかかったかと思うと、次の瞬間、全身が締め付けられるような金縛りに襲われました。
そして、もがくことすら出来ないガチガチに固まった状態の中、私の脳裏に唐突に《音と声》が響きました。
『きゃーーーーーーーっ!!』
ガッチャーーーン!!!!!
『何すんのよおおおーーーー!』
(え、ちょっ、な、何っ?!)
悲鳴、衝突音、絶叫──
もう何が何やら訳が分かりません。
ほどなく金縛りは解けましたが、そのあと私の中に(ひょっとして・・・・)という、とある疑念が浮かびました。
あの自転車、訳ありなんじゃ──
たぶん間違いない、そう感じてならなかった私は翌日、念のためCにその話をしましたが、気に入って買った本人としては「うーん・・・・」という反応に留まり、私自身もそれ以上は何とも言えず、話はそこまでとなりました。
怪我をした、との連絡がCから入ったのは、それから2日後のことでした。
あの自転車で走っていたところ、歩道と道路のほんのちょっとの段差に車輪が引っ掛かり、横倒しに派手に転倒してしまった、と。
「大丈夫なの?!」
「あんまり大丈夫じゃない・・・・」
聞けばアスファルトにかなり身体を打ちつけ、顔にも擦り傷が出来たと。
「気のせいかもしれないけど・・・・」
Cはそう言い、少し口ごもりました。
「どうしたの?」
「何かね、やたらハンドルが取られる感じだったんだよね、あれ乗ってて」
「ハンドル?」
「うん、まあ・・・・慣れてないせいかもしれないけどね」
けれど結局、それから1ヶ月もしないうちにCは自転車を購入店のリサイクルショップに持ち込み、売ってしまいました。
最初の転倒から日を置かず、乗る度にハンドルを取られるようにして転び、あげくには車に轢かれそうにもなったことで、さすがに怖くなったんだそうです。
「今思えば買った時、私はあれより高い値段の別の自転車が気に入ったのに店長が安い方のあれをやたらすすめてきたんだよね。商売なんだから普通は高い方を売りたいじゃない? なのに」
「やっぱりあの女の画像や私のあの金縛りや悲鳴や叫び、関連あるのかも」
そう私が言うとCはうなずきながら「そういえば持ち込んだ時、その店長『もういらないの? 早いな』とか言ってたっけ・・・・もしかするとあれ、売れて戻ってを繰り返してるのかもしれない」と言い、小さく左右に首を振りました。
「中古はやっぱり怖いね。お金貯めて新品買うわ」
Cはまだ薄く残る頬の擦り傷痕をさすりながらそう言いました。
金縛りの最中に脳裏に響いた"あれ"──
あの自転車は、いわゆる《事故車》だったのではないか。
あの4枚目の謎の画像の女=運転していた女性だったのでは・・・・。
そしてその女性はすでに──
リサイクルショップで購入した品や骨董品などから災厄がもたらされるケースがあることは知っていましたが、常に接する使用頻度の高い物はなるべく新品を買う方がいい──そう強く思わされた出来事でした。
それではまた次の扉でお会いしましょう。
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