これを世間では『軟禁』というのでは……?
――有無を言わさずに、無理矢理お城に連れて来られてから数日。
「ほら。もっと口を開けて?」
王子の膝の上に乗せられ、甲斐甲斐しくお世話をされています。
……どうしてこうなった。
前世込みで、誰かに食べさせて貰うという行為に慣れていない私は、ギュッと目を瞑って口を開いた。
……目を瞑らないと、間近にある王子の綺麗な顔が気になって食べ物が喉を通らないのだ。顔の好き嫌いの問題ではない。
綺麗な顔は凶器になるのです!!
抵抗?……ちゃんとしましたよ!?
『自分で食べられるから大丈夫!』、『膝の上はちょっと……!』等々――言葉で伝えられない分、身振り手振りでそれはもう必死に。
……その結果がこれである。
微笑ましそうな表情で見られて――終了。
『何も食べたくない』と首を振れば、リンゴを擦りおろしてくれたり、一口サイズの甘いチョコレートや、口当たりの良いジュレを用意してくれたり…………って、母親か!!
「ん。今日も沢山食べられたね」
瞳を細めて微笑んだ王子は、旦膝の上から私を下ろして椅子に座らせると、食事の済んだ食器をカートに乗せ、部屋の外に運んで行った。
微かに聞こえるやり取りから、廊下にはメイドさんか誰かが控えていたのが分かる。
部屋の中の様子は筒抜けなのです。
公開羞恥プレイなのです。
私は話せないので、聞こえ漏れるのは王子の声だけなんだけどね!?
片付けを終え、室内に戻ってきた王子は、私を横抱きに抱き上げると、そのままドレッサーの前まで運んで行く。
朝食が済んだ後は、私の身支度を整える――というのが、ここ数日の内にルーティーン化した。
「じゃあ、髪を結おうか。今日のドレスも君に似合う物だよ」
大きめなブラシを手に取った王子は、私の髪を丁寧に梳かし始めた。
ニコニコとご機嫌な様子で、髪に香油を付けながら何度も梳かしている内に……まあ!なんということでしょう!私の髪はまるで絹糸の艶々になるのです……!
満足するまで髪を梳かし続けた王子は、今まで使っていたブラシを置いて、持ち手の細いクシに持ち変えた。
細く尖った先端部分を使って髪の毛を掬い上げると、器用に顔の両サイドを編み込んでハーフアップにしていく。
ピンクパールで作った花飾りを差し込んだら――完成らしい。
……何度見ても感心するほどの手際の良さだ。
「うん。可愛い」
王子は私の顔のすぐ脇から鏡を覗き込んだ。
「今日はこれに着替えて。終わったら教えてくれるかな?」
ドレッサーの中から取り出したドレスを手渡された私は、コクリと素直に頷く。
王子が背を背けたのを確認した後、椅子から立ち上がる。
――私は着替えの時と入浴の時等だけ自分の足を使う。
基本的に、起きてから眠るまでの移動は全て王子がやってくれるのだ。
足を手に入れた意味とは……。
激痛を伴う足だったならとても助かるが、普通に歩ける今は……逆に不便だ。
常に王子が一緒に同じ部屋にいるのだ。
……窮屈で仕方ない。
暇な王子なのかと思いきや、そうでもない。
部屋の中で書類仕事をしている事もある。
どうやら私の入浴中や就寝後にこなしているみたいだ。
流石に、夜は自分の部屋に帰る。……隣の部屋だけど。
寝間着を脱いでシュミーズ姿になった私は、渡されたドレスを頭から被って着用し、スカートの裾を引っ張りながら全体を整えた。
王子が用意したドレスは、ファスナーが無かったりと、一人でも着替えがしやすい物が多い。コルセットの様な窮屈な物を強要されないのも嬉しい。
……羞恥心?
そんな物は既に――諦めました。
この押し問答も散々したもの……。
せめてメイドさんにお願いしたかったのだけど……王子は何故か私の側に使用人を置かない。
お風呂もトイレも全て揃っているこの部屋で生活をさせ、誰の目にも触れない様にしている。……『軟禁』状態だ。
足枷が付けられていないだけで、部屋の外には出られないし、王子以外誰とも話せないのだから。
言われるがままに着替えを終えた私は、背を向けている王子の肩をトントンと叩いた。
「ああ、終わったんだね」
王子は笑顔で私を振り返った。
「ふふっ。今日も可愛いね。このドレスには……っと」
王子はドレッサーに向かうと、少し落ち着いた色合いのピンクの長いリボンを持って戻って来た。
それを私の腰の辺りでキュッと結ぶ。
今日のドレスはオフショルダーのプリンセスラインのドレスだ。
リボンと同じ色の生地に、薄ピンクのオーガンジーを幾重にも重ねて、髪飾りと同じピンクパールを細やかな刺繍の上に置いている。
着替えが終わった後は、また王子に横抱きにされて運ばれ、ソファーの上に優しく下ろされた。
――私には、王子がこんな事をする理由が全く分からなかった。
気付いたら【人魚姫】でした。……あれ?みんなの様子おかしくないですか? ゆなか @yunamayo
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