四週目
ある日の夜中。小さく半鐘の音が聞こえる。
北の村のものだろうか。
火事が起こったかと政俊は病院を飛び出たが、周りは真っ暗で様子は全くわからない。そもそも北の村で起こってるとしても、こちらから助けに行くことも、向こうから逃げてくることもできない。そのせいか、外に飛び出してきたのは政俊だけで、どこの家も寝てるままの様子である。
「きっと人食い魚人が出たのよ」
女医先生が起きてきて、政俊に声をかけた。
「人食い魚人?」
「信じられないでしょう。出るのよ。この島には。それも北の村ばかり。両生類みたいに手足あって、でもって体は鱗で覆われてて、海から上がってきて二本足で歩くの。放っておくと人が襲われて、食われる。もう何人食われたかしれないわ」
「食われる……って」
「食われるのよ。ガブガブって。服だけ残して骨まで食べるの」
あまりの突飛な話に、恐怖よりも信じられないという感情が政俊をおそった。
「この島にはおまわりさんなんていないし、今ごろ、村人総出でやっつけてるところね。やっつけるってもすごい強くて。鉄パイプで殴ろうが銛で刺そうがギャアギャア騒ぐだけで死なない。だからガソリンぶっかけて焼くの」
「ガソリンで……焼く」
「そのやり方自体危険だし、ガソリンももったいないけど、命にはかえられないから、しょうがないわ……」
政俊は頭が混乱し、言葉がでなかった。その様子を見て女医先生が言う。
「怖くなったでしょう。やっぱり東京へ帰ること、きちんと考えたほうがいいと思うな」
過酷な生活ってそういう意味だったのかと政俊は思った。
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