三週目

 天気のいい日は、夏愛が散歩がてら島を案内してくれた。それに女医先生から聞いた話を合わせると、だいたい島の様子がわかった。


 島には二つの村があるが、険しい山で隔てられており、道も整備されておらず、交流はほとんどないらしい。政俊らがいるところは南の村と言われ、住んでいるのはほぼ全員が農民。食料も畑の作物のほかは山で木の実を採ってきたり狩りを行ったりしてという自給自足に近い生活を行っている。

 山の向こうは北の村と呼ばれ、港や商店など、人間が生活するためのだいたいの施設はそろっている。南の村で手に入らない必要なものは北の村に買い物に行かねばならぬのだが、それも悪路のためそうそう簡単ではない。

 島に郵便や生活物資が運ばれてくるのも船で週二回のスケジュールだが、それも悪天候などのため予定通りに来ることは少ない。なお、島の外との通信手段は郵便のみである。


 一言で言えば、とんでもなく不便なのだ。


 南の村には電気も引かれてない。農具用の発電機はあるが、ガソリン自体が貴重品なので、皆夜はすぐ寝る。女医先生の個人病院には医療機器もあるので、太陽電池と蓄電池と発電機と揃えてあるが、それでも夜は早く寝る。


 女医先生が、ここの生活は過酷だ、よほどの覚悟がない限り、島を出て東京に戻ることを考えたほうがいいのではないかとそれとなく言ってきた。当然である。

 だが政俊は、もう少しここにいさせてほしいと遠回しに返答した。そもそも死ぬ気で海に身を投げたのだ。帰るところなど無い。


 それに。


 夏愛と離れたくない。


 今後のことについて女医先生と話してると、夏愛はいつも心配そうな、さみしそうな顔で覗いてくる。その姿がまたいじらしく、何も考えずに本音を言えば、


 夏愛とずっと一緒にいたい。これからもずっと。

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