第3話

目覚めたのは病院だった。目覚めても頭は回らず、呆然としていた。

コンコン。

「担当看護師の矢崎です。何があったか覚えていますか?」

「はい…家が…。…っ!彼は…。リクは…。」

「心配しなくても大丈夫ですよ?生きています。ただ、病院が違うので会うことはできませんが。」

よかった。

「んふふ。安心した?ああ、失礼、病院が違うからとかではなく、二度と会うことはできません。」

「えっ。やだ。あなた、だれ。」

焦ったサユはナースコールを探そうとしたものの身動きが取れない。首にも違和感を感じた。

「ナースコールなんてないよ。ねぇどうして気づかないの?2年も君のことを見てきたのに。罰も与えてきたのに。もしかして偶然だと思ってる?去年の火災もこないだのも。僕だよ?君が彼氏と旅行なんて行くから、その罰が去年の火災。そのあと僕が近づいて付き合おうと思っていたのにそれよりも早く近づいてきたその辺の男とくっつきやがってさあ。なぁ。どういうつもりなんだよ!じっくりじっくり僕のものにしようと思っていたのに!…ふっ。失礼。もう君は僕から逃げられない。慌てる必要はない。今回の火災は、その罰。あ、そうそう、ここは病院じゃないよ。僕の家。僕が看護師なのも嘘。僕は医者だよ。」

急に口調が強くなる男にサユは身を小さくした。

「…家に帰して」

「あはははははは!いったいどこに帰るって!?帰る家ないじゃん!馬鹿なの?あ、彼氏ならまだ生きてるよ、虫の息だけど!もうすぐ絶えるだろうね!あっははははは!君は天涯孤独だ!僕がいないと生きていけない、僕に依存するしかない!」

「そ、そんな、リク、リクに会わせて…」

「まだその男の名前を呼ぶの?そろそろやめてくれない?耳障りだ。黙れ。」

サユは混乱した。なんとしてでもリクに会いたかった。その一心で必死に体をよじった。

「あ、もしかして逃げれるとでも思ってる?首、違和感に気付いてるよね?く、び、わ。それに足枷。ベッドに繋がってるから起き上がれないよ。逃げるどころじゃないね?ふふっ。君を外に出す気はないよ。早く前の男のことは忘れて僕だけをみた方がいいよ?」

「お願い、ここから出して…。」

「まだ言うの?俺を求めてないその口、いらないね?切り落としちゃう?え?なにそんなに怯えた顔して必死に首振ってるの?自分が撒いた種でしょ?まあ僕も君とキスできなくなるのは嫌だし…ああ。俺の口で塞いじゃおっか。ふふ。許してほしい?キス、したくない?ねえ?嫌なの?これからずっとずっと一緒なのに?そんなに拒まれたら…狂わせたくなるじゃん。手、出せ。」

「やだ。やだ!」

男の手が伸びる。私は必死に抵抗した。何をされるかわからない、そんな恐怖が私を襲っていた。

抵抗も虚しくがっちりとサユの腕が捕らえられた。

「はは。怖い?そりゃ怖いよね?サユは僕のこと知らないもんね?ふふ。僕?僕は楽しい。サユが僕の家にいて、僕のことしか見ることができない。これから先を想像するだけでゾクゾクする。で、この手に何をすると思う?安心して?僕は医者だ。死なせはしないよ。」

男はどこからかナイフを取り出し見せつける。

「これで。どうしようかなぁ。ふふ。あ、その前に。首輪、もうちょっとキツくしようか。今は何も考えない方がいいよ。君のためにも。」

「え、やだっ!」

「はい大人しくしてー僕が絞め殺しちゃわないように。サユが暴れると僕の手が滑っちゃうかもよ?」

こんなことを言われては大人しくするほかなかった。とにかく早くリクの所へ行きたい。

サユが大人しくなった瞬間、首がかなり苦しくなった。ギリギリ息ができている程度の苦しさにサユは空いている手で首輪を掴み少しでも緩めようとしたが自分の苦しさが増すだけだと気づき自分の体を掴み痛みで苦しさを紛らわそうとしていた。

「力を入れれば入れるほど苦しくなるよ。僕は構わないけど死なれたら困るな。僕は一人になりたくないし。痛みが欲しいなら与えてあげるよ。」

そう言った男はサユの腕にナイフを当てた。サユの腕に血が滲む。酸素が少なく回らない脳と腕に感じるほんのりとした痛みにサユは力を抜いた。その頬には涙が伝う。

「ああ、泣かないで。」

男はその涙を舐めとった。

「ん、美味しい。」

そう呟いて男はサユに軽くキスをして部屋を後にした。

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