第7話:崩壊するマウント=ポティトゥ
「グガガ、グオオ、グギャギャ!?」
マウント=ポティトゥは声にならぬ声で苦痛を表現していた。自分の腹を内側から食い破られる感覚に襲われていたのである。彼はすでに痛覚を完全にオフにしているが、この気持ちの悪さはこの上ないものであった。
しかし、満足したりないのか黒い蛇たちは腹から胸、胸から首へと侵食していく。身体の内側から外側へ食い破り、また外側から内側へもぐり込んで行く。その衝撃にマウント=ポティトゥは細かく身体全体を震わせる他、やれることはなかった。自分の身体自体をマグマのように熱して、この体内でのたうち回る蛇たちを焼き払おうとしても、自分から発せられる熱はこの蛇たちに吸収されてしまう。
どんどんと、身体の熱を奪い取られ、なおかつ、黒く細長い蛇たちに体内を焼かれるという不思議な感覚にマウント=ポティトゥは襲われることになる。そして、ついに黒い蛇たちは首から上の頭の部分に入り込む。
『損傷大。損傷大。体内に膨大な熱を感知。排熱作業、追いつかズ』
けたたましい警告音と共に、そのような警告メッセージが脳内に表示される。だが、その警告メッセージは途切れ途切れの表示となっている。それもそうだろう。それを表示している脳内が今まさに黒い蛇に侵食されているのだから。
ついに、黒い蛇たちは熊顔のマウント=ポティトゥの頭を何重にも巻き付く。蛇たちは口を焼き、鼻を焼き、耳を焼く。そしてついには両目も真っ黒に焼き尽くすのであった。そしてマムシのような黒い蛇たちは、最後はその焼いた眼の穴に飛び込み、脳内を蹂躙したあと、弾けるようにマウント=ポティトゥの後頭部から一気に外へと飛び出すことになる。
「グオオオオオン??」
脳内を破壊尽くされたと同時にマウント=ポティトゥは断末魔をあげる。そして彼はその後、ぴくりとも動かなくなってしまうのであった。マウント=ポティトゥが満足な抵抗も出来ずに絶命したのをその断末魔から知ったナナ=ビュランは
「終わった……? あたしたち、こいつに勝った……?」
物言わぬ死骸と化したマウント=ポティトゥの目前で両膝を地面につけて、荒い呼吸をするナナ=ビュランであった。彼女の身に宿る魔力のほとんどを
ナナ=ビュランにとって、こんな経験は初めてだった。ナナ=ビュランはどんな武器にも炎を纏わせることを出来るが、その炎を彼女は完全に支配下に置いていた。ナナ=ビュランの意思を無視して、敵を焼くことは今までありえなかったのだ。だが、黒い炎で出来上がった蛇たちは違った。蛇たちが眼に余る凄惨な方法でマウント=ポティトゥを食らいつくそうとしたので、ナナ=ビュランは止めようとしたのだ。
ナナ=ビュランとしても、敵を塗炭の苦しみを与えて、殺そうなどと思っていなかったのだ。それなのに黒い蛇たちはそんな彼女の心情を知っているはずなのに、それを無視して、より凄惨で残酷な方法でマウント=ポティトゥを殺してしまったのであった。腹の中から食い破られるのは如何ほどの苦しみを味わうのだろうか? ナナ=ビュランはそれを想像しただけで吐き気を催しそうになる。
しかし、それでもだ。その黒い蛇たちにより、ナナ=ビュランたちが助かったのは事実である。黒い蛇たちは消える間際に恨めしそうな視線でナナ=ビュランを見つめてきたのだが、それはナナ=ビュランに対する抗議の色を表していたのかもしれない。
だが、ナナ=ビュランはどうしても黒い蛇たちにお礼を言うような気分ではなかった。マウント=ポティトゥが食われていくのを間近で見ていたのだ。その時、黒い蛇は獰猛な食欲を満たせることに喜びを感じているかのようにも思えてしょうがなかったのである。だからこそ、ナナ=ビュランは蛇たちに対して、感謝どころか恐怖を覚えたのである。
荒い呼吸をなんとか整え終えたナナ=ビュランは立ち上がり、未だマウント=ポティトゥの身体に食い込みっぱなしの
(だ、大丈夫……よね?)
ナナ=ビュランは一度、生唾をゴクリと喉の奥に飲み込んだ後、意を決して、
するとだ。
マウント=ポティトゥの上半身が砕け散り、その破片や塊が地面に転がる。ここに来て、ナナ=ビュランとマウント=ポティトゥの様子をうかがっていたシャトゥ=ツナーとネーコ=オッスゥは怪物に勝利したと確信したのである。
「やったッス……。俺たちは勝ったッス……」
「やったみゃー。
シャトゥ=ツナーとネーコ=オッスゥは身体のあちこちから血を流しながら、地面に横たわっていた。誰も彼も無傷であったわけではない。3人とも、満身創痍であったが、マウント=ポティトゥに打ち勝ったのである。
「俺、もうだめッス……。なんか、ほっとしたと同時に身体から力が抜けていくッス……」
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