第6話:ナナの願い
ナナ=ビュランの言う通り、爆発系魔術は扱いが難しく、師匠から弟子に伝える際に、師匠がその爆発系魔術によって、死亡してしまうケースが後を絶たなかった。しかしながら、それでも、爆発系魔術の人気は高く、
だが、術者もろとも爆発四散する爆発系魔術が横行し、使用者は一気に減っていく。極めつけは
それゆえ、
しかし、ナナ=ビュランの眼の前に、その爆発系魔術を使いこなす男が確かに存在した。かの男は黒い
ナナ=ビュランはこの黒い獅子のマスクの奥にはどんな顔が隠されているのか、気にはなっていた。もしかすると、自分の爆発系魔術によって、ひとには見せられないほどの醜い顔になってしまったのではないかと思ってしまい、聞きづらかったのである。
「前々から気にはなっていたんッスけど、なんでそんな恰好をしているんッスか? マスクを被っているのは爆発系魔術で顔に大怪我でも負っているからッスか?」
「ちょっとあんた! そんなプライバシーに関わることを平然と聞かないでよっ! もしそうだぞ! って言われたら、ただでさえ沈痛な空気が、さらにいたたまれない空気になっちゃうでしょっ!」
シャトゥ=ツナーが飄々とした顔で、ナナ=ビュランが思っていることを質問してしまうので、つい怒鳴り声をあげてしまう彼女であった。シャトゥ=ツナーとしては、この遺体から流れ出す血の匂いが充満し、吐き気をもよおしそうな場所で、3人でただ時間を過ごすのは何かと気まずい感じがしたのである。それゆえマスク・ド・タイラーに話題を振っただけである。彼はマスク・ド・タイラーに意地悪をしようとして言い出したわけではない。
「ハーハハッ! わたしがこの獅子のマスクをつけているのは恰好良いからだっ!」
マスク・ド・タイラーが仁王立ちで腰の両側に両手を添えて、高笑いするものだから、ナナ=ビュランたちはずっこけるしかなかったのである。じゃあ、パンツ一丁の上から
「ねえ……。あたし、このひとに助けてもらった時に、ちょっと格好良いかもって思ったんだけど、大間違いだったかしら?」
「ウッス。大間違いッス。こいつ、美的センスが一般人とズレているだけッス。俺はあんな恰好で人前に出るなんて、絶対出来ないッス」
ナナ=ビュランとシャトゥ=ツナーが顔を見合わせて、マスク・ド・タイラーの耳に入らぬ小声でひそひそと話し合う。マスク・ド・タイラーは風に
さて、ネーコ=オッスゥが寒村と殺戮現場を荷馬車で4往復ほどすると、ようやく、遺体の全ては回収されることとなる。遺体を寒村に運び終えたネーコ=オッスゥは、
「どうしたんだみゃー? 荷馬車に乗らないのかみゃー?」
「そう……なんだけど、これに乗っちゃったら、お姉ちゃんたちの捜索は打ち切られるんじゃないかって思って……」
さもありなん。ナナ=ビュランの言うことには一理あった。警護隊はほぼ全滅。荷馬車も1台のみ。この荷馬車は寒村につけば、次は商業都市:ヘルメルスに向かうであろうことはナナ=ビュランに予想できた。ネーコ=オッスゥもナナ=ビュランが考えていることを察して、自分の後頭部を右手でポリポリと掻くのであった。
「仕方ないッスよ……。バンカ・ヤロー砂漠の入り口まで来て、さあこれからだってところで、警護隊が全滅なんッス。ここは1からやり直したほうが良いはずッス」
「でもっ! そうなると、お姉ちゃんたちが生きている確率がグッと減ることになるのよっ! お姉ちゃんたちが攫われて、もう2週間近くも経っているのよっ!」
ナナ=ビュランが喉から搾り出すように悲壮な声でそう言うのであった。そんな声で言われては、シャトゥ=ツナーとしても真正面から反対の意を唱えることは出来ないのであった。しかし、それでもだ。シャトゥ=ツナーはナナ=ビュランの補佐である。彼が第一に優先しなければならないのはナナ=ビュランの安全であった。ココ=ビュランやヨン=ウェンリー、そして
「ふむっ。そこまでして姉たちを助けたいのか? それがこれまで以上の過酷な旅となるのを知っていながらでもか?」
マスク・ド・タイラーがナナ=ビュランにそう問うのであった。彼女は身体を振るわせて、腹の奥から声を出す。
「うんっ! あたし、お姉ちゃんたちを助け出したいっ! 例え、あたしが命を落とすことになろうとも、お姉ちゃんたちを救い出したいのっ!」
ナナ=ビュランは泣きそうな顔でマスク・ド・タイラーに言いのける。無理は百も承知だ。だが、それでも姉や想い人を放っておくことは出来ない。ナナ=ビュランは一命を賭して、姉たちを救いたいと願うのであった。
「あい、わかった! なら、このマスク・ド・タイラーが、キミに助力しよう! シャトゥ=ツナー並びにネーコ=オッスゥ! 女が命を懸けるなら、男たちが何をしなければいけないか、わかっているなっ!!」
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