第8話:ポティトゥ3大貴族

 これで何度目の魔物モンスターの襲撃となるのであろうか? バンカ・ヤロー砂漠に近づけば近づくほど、魔物モンスターの襲撃は増える一方であった。まるで、バンカ・ヤロー砂漠がナナ=ビュランたちが近づくのを拒んでいるかのようでもあった。


 連戦に次ぐ、連戦で得られたことと言えば、ナナ=ビュランが火の精霊サラマンダーを武器に纏わせる技術が向上したことである。旅が始まる前までは詠唱を唱え終えてから武器が実際に炎を纏わせるまでに5秒ほどのタイムラグが存在していた。しかし、実戦を経ることで、ナナ=ビュランの技術は磨かれていく。


 今では詠唱を終えてから、1秒ほどでナナ=ビュランが右手に持つ闇の告解コンフェッション・テネーヴァの刀身は真っ赤に染まり、炎を噴き出すことになるのであった。そして、その炎を纏った闇の告解コンフェッション・テネーヴァ魔物モンスターを斬った時に、その傷口から噴き出す炎の量も格段に跳ね上がったのである。


 もうひとつ、ナナ=ビュランたちが得られたことと言えば、シャトゥ=ツナーがヒト型魔物モンスター相手でもそこそこ戦えることになってきたことであろう。彼曰く、感覚がマヒしてきたのか、魔物モンスター魔物モンスターだと自然に頭の中で認識できるようになってきたようッスとのことだ。


 まあ、それでもヒト型魔物モンスターを斬ろうとする時は一瞬の躊躇が生じているようで、彼は本来持つ剣術を十分には発揮できていないようであったが……。実際に、訓練時には剣術において、しゃべらぬ訓練用の藁人形相手にならばシャトゥ=ツナーはナナ=ビュランよりも数段上の技術を披露することが出来た。


 しかしながら、実戦においては、ナナ=ビュランのほうが圧倒的に戦力としては安定していたのである。警護隊のリーダーであるネーコ=オッスゥはそのことには気付いており、戦っている最中はシャトゥ=ツナーにはナナ=ビュランの側から離れないように助言している。


 シャトゥ=ツナーとしては、自分はナナ=ビュランの補佐であるために、そう念押しされているように認識しているが、ネーコ=オッスゥとしては、半人前が2人いて、2人揃ってで、やっと1人前の認識であった。互いに互いを補いあう存在として、彼らを運用していたのである。


 さて、ゼラウス国:商業都市:ヘルメルスから出立し、5つ目の村で4日目の朝を迎えることとなる。もうこの先、村は存在せず、あとは野宿をして過ごさなければならない。バンカ・ヤロー砂漠は眼と鼻の先にある。ナナ=ビュランたち一行は身支度を済ませて、村長に1泊させてもらえたことに関して感謝を伝えると同時に、出立の挨拶をする。


「この村を出て、6時間ほど北西に進めば、バンカ・ヤロー砂漠の入り口ですじゃ。しかし、出来るなら、ここで引き返すことをお勧めするのですじゃ」


「お気遣いありがとうだみゃー。でも、僕の雇い主はどうしても成し遂げないといけないことがあるんだみゃー。彼女に金で雇われている傭兵の身分はつらいんだみゃー」


 ネーコ=オッスゥが冗談交じりに村長にそう告げるのであった。その冗談に村長は、はぁ……としか言いようがなかった。肯定するにしても、彼をジト目で彼を睨んでいる若い女性がいるし、かと言って、否定すれば、傭兵の存在意義を否定しかねない。ここは答えを曖昧にするためにも、はぁ……と曖昧に返した村長であった。


「ここから先はオークやゴブリンといった魔物モンスターは減ってくるのですじゃ。しかしながら、砂漠を縄張りとした魔物モンスターが出てくるようになってくるのですじゃ。野原に徘徊する魔物モンスターと出くわす確率はグッと減るかもしれないですが、気をつけてほしいのですじゃ」


「お気遣い、ありがとうだみゃー。では、用事を済ませて、また帰り道で寄らせてもらうのですみゃー」


 ネーコ=オッスゥは村長に対して、丁重に礼を言って、彼の家から出る。そして、自分が率いる警護隊の面々に声をかけていく。連日、魔物モンスターの襲撃を受けて、怪我人が増えつつあるが、それでも戦闘不能にまで陥る者が出てないことはさいわいであったのかもしれない。ネーコ=オッスゥはこのまま、全員、命を落とすことなく、鎮魂歌レクイエムの宝珠の捜索が終えるれるように祈るばかりであった。



 しかし、彼の祈りを神は聞き届けることは無かった……。



おさに儀式の邪魔をする者タチがバンカ・ヤロー砂漠に近づいていると言われて、やってキタ……。お前ラ、ここで全員、殺スッ! 冥途への土産として、我が名を聞かせてヤロウ! ポティトゥ一族が三大貴族のひとり、マウント=ポティトゥ!!」


 ボロボロの紫色のフード付き外套マントを羽織った筋肉隆々で大柄な男が目深く被ったフードの奥からギラツく視線を飛ばしながら、そう宣言する。


「ふふふ……。マウント。わたくしの分まで喰ってしまってはダメよ? わたくしはねじ切った頭を丸かじりしたいんだから……」


 豊満で魅惑的なボディを彼と同じくボロボロの紫色のフード付き外套マントで隠している女性が舌なめずりしながら、そう宣言する。


「コニャックは悪食だギャ。おい、マウント、わては女のハラワタ担当だから、ぐちゃぐちゃにしすぎないように注意するんだギャギャギャ!!」


 伸長150センチュミャートル程度の小柄な男がヒッヒッヒッ! ギャッギャッギャ!! と気色の悪い笑い声をあげる。彼は紫色のフードをめくりあげて禿上がった頭を晒し、さらには血走った眼でナナ=ビュランを凝視する。彼の標的はナナ=ビュランたち一行の中で一番若い女性であるナナ=ビュランであることは誰の眼から見ても明らかであった。


「では、イザ、尋常に勝負ダ!」


 マウント=ポティトゥと名乗った大柄な男がそう雄叫びを上げたと同時に、ナナ=ビュラン一行と対峙する3人の身体からドス黒い色をしたオーラが立ち昇る。そして、それは一気に膨れ上がり、一瞬、辺りが黒いオーラに包み込まれて、漆黒の闇へと姿を変えたのかと錯覚させられる。


 しかし、それはただ単に、3人の身体から膨大な魔力が噴き出ただけにすぎなかった。彼らの身体から噴き出た魔力は、ナナ=ビュランたちから3人の姿を見失わせるほどの濃さを持っていた。その黒い霧とも言える魔力の奔流が収まった時、ネーコ=オッスゥが今まで見てきた魔物モンスターとは全く違う姿を持つ異形としか言いようがないモノが彼のカラシ色の両目に映るのであった……。

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