第9話:圧倒的暴力
黒い霧の中から丸太のように太い2本の太い両腕が飛び出してくる。いや、それは両腕というよりはぶっとい棍棒そのものであった。両腕の先がメイスのように球状であり、腕そのものが凶悪な武器になっていたのである。
それだけでは無い。次に黒い霧から飛び出してきたのはカマキリが持つ大鎌であった。しかし、そのサイズは
さらにはヒュンヒュンッ! と黒い霧を切り裂くような不快な音が響き渡る。薔薇の茎を連想させるような棘だらけの鞭が2本、黒い霧を吹き飛ばしながら、宙を舞うのであった。
「待たセタナ! 我輩の
ポティトゥ3大貴族のひとり、マウント=ポティトゥはそう高らかに宣言しながら、黒い霧の中から完全に姿を表す。顔は熊を連想させるような獰猛さを持ち、両腕は樹齢100年の大木をそのまま棍棒にしたかのような強靭さ。そして、腹から下は、そんな上半身を支えるために馬のように4本足の身体をしていたのである。一見、ケンタロウスのようにも見えるが、こんな生物は実戦経験豊富なネーコ=オッスゥでも見たことも聞いたこともない。
そして、3人の中で紅一点であるコニャック=ポティトゥの顔は豹、残りひとりのジャガ=ポティトゥの顔は大きな口を持つワニであった。身体の基本的な形はマウント=ポティトゥとほぼ同じである。ただ、両腕の形状、顔、身体を覆う体毛の色が違うだけであった。
「あいつはっ……! 法王庁を襲った時のっ!」
ナナ=ビュランだけはこいつらを覚えている。そう、忘れるわけがない。それほどの恐怖をナナ=ビュランに植えこんだ相手だ。眼の前の3人? は、法王庁で暴れに暴れ、ナナ=ビュランの眼の前で、地面に空いた大穴に潜り込んで行った連中であった。
「ふふっ。また会えるかもと予感してましたけど、まさか、こんなところで再会するとは思いませんでしたわ……。ただの肉塊に変える前に名前を教えてもらっても良いかしら……?」
豹の顔をしたコニャック=ポティトゥが右手の大鎌を紅い舌でベロりと舐めながら、ナナ=ビュランに聞くのであった。そう問われたナナ=ビュランは、自分の名を叫ぶ。すると、コニャック=ポティトゥは、おーほほっ! と高笑いをする。
「何がおかしいのよっ!」
「あの娘が泣きながら、名前を呼んでいたのは、あなたの名前だったって思ったまでよ……」
そう言われた瞬間、ナナ=ビュランの脳内に一気に血が昇る。
「お姉ちゃんに何をしたのっ!!」
ナナ=ビュランはそう叫んだと同時に、
ナナ=ビュランは一足飛びで、コニャック=ポティトゥに肉薄する。誰もが激昂するナナ=ビュランを止めようとしたが、彼女は今までで見せた中で最速の動きをもってして、コニャック=ポティトゥの懐に飛び込んでしまったのだ。
コニャック=ポティトゥは薄気味悪い笑みを浮かべて、右手の大鎌を横薙ぎに払う。しかし、ナナ=ビュランは、地面を蹴り上げて、真上にジャンプし、その攻撃をかわす。それだけは無い。ナナ=ビュランは勢いをつけるために横薙ぎに払われた大鎌の腹を蹴り、さらに跳躍する。
そして、コニャック=ポティトゥの頭の高さよりもさらに上に飛び上がることに成功し、ナナ=ビュランは空中で
「がっ……!!」
次の瞬間、ナナ=ビュランの身体には棘だらけの鞭に身体を絡めとられてしまう。さらには乱暴にその鞭で地面に叩き落とされてしまうのであった。ナナ=ビュランは地面に向かって勢いよく投げ飛ばされる。あわや、背中から叩きつけられそうになると、彼女のクッションとなるべく、シャトゥ=ツナーが動いていた。
シャトゥ=ツナーは左手に構えていた丸盾を放り投げ、ナナ=ビュランを包み込むようにキャッチする。しかし、衝撃を受け止めきれず、シャトゥ=ツナーは彼女の身体を抱きかかえたまま、2,3度、地面でバウンドするのであった。
しかしながら、これは怪我の功名とも言えた。ナナ=ビュランとシャトゥ=ツナーは吹っ飛ばされることにより、凶悪な敵から距離を空けることができたのだから。
ナナ=ビュランたちが吹き飛ばされたのを合図に、3人のポティトゥは単純な暴力を振るい始めた。ナナ=ビュランたちを護るために壁となった警護隊の面々に、棍棒と化した腕、大鎌と化した腕、イバラの鞭とかした腕を存分に無軌道に振るい始めたのであった。
マウント=ポティトゥの前に壁として立ちはだかる5名の槍隊は、横に振り払われた右腕の棍棒で彼らが持つ
槍隊を援護しようと弓隊5人が、弓に矢をつがえ、弦を引き絞り、熊顔のマウント=ポティトゥの上半身目がけて、連続で矢を射る。しかし、その矢がマウント=ポティトゥに届くことはなかった。ジャガ=ポティトゥが両腕の鞭をしならせて、飛んでくる矢の全てを叩き落としてしまう。
驚愕する弓隊5人は、それでも弦を引き絞り、矢を放ち続けた。何度もジャガ=ポティトゥの鞭で振り払われようと、マウント=ポティトゥに襲われている仲間の援護をしようとしたのだ。
しかし、弓隊は必死のあまりに、自分の後方にいつのまにか回り込んでいたコニャック=ポティトゥに気づかなかったのであった。彼らは胸と腹辺りを彼女の大鎌でキレイに両断されてしまうのであった。
「アアーーー! ニンゲンの返り血は最高ですわーーー! この一滴一滴がわたくしの身体を若返りさせてくれる感じがするのですわーーー!」
コニャック=ポティトゥは、両断した者たちの上半身を大鎌の先で突き刺し、自分の頭上に持ち上げる。彼女はその死体からボタボタと落ちてくる血を豹の形をした顔に浴びるのであった……。
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