冒険記録34 戦い方
完治するまで1週間かかったが、動きにくさは無くなっていたようだ。肩をぐるぐると回し、調子を確かめている。一緒の舟に乗っていた漁師たちを見て、伝え忘れていたことがあるのを思い出したヨシュアは近づいた。
「怪我人が出てしまったが、死人は出ていないか?」
「ああ、奇跡的に」
漁師の胸元や袖口から包帯が見えているが、それでも元気そうだった。
「それは何よりだ。すまんな、いきなり戦いに巻き込んでしまって」
「いや、指示があったからなんとか生き残れた。それにあんた、ああいう戦い方に慣れているみたいだな」
笑いながら戦うヨシュアを思い出しているのだろう。苦笑いを浮かべている。
「骸骨相手は初めてだったが、これでも海で旅をしながら生きているからな」
ヨシュアがいた世界で骸骨と戦うというのは夢物語、もしくは、ギリシャ神話を目の前で聞かされていることと同じくらいあり得ないことだった。現実で、もし骸骨に襲われたなどと言ったら、異常者扱いされているだろう。それくらいのことがこの世界では起きている。しかも当たり前に。
おそらく漁師たちが動揺していたのは、骸骨との戦い方を知らなかったから。あれがいたことには少しも触れていない。混乱していたのはヨシュアだけだった。
「いつぐらいに向こうに戻る予定だ?」
「今日だな」
「なら乗る準備をしなくてはな」
そういうとヨシュアは周りを見た。愛馬とヘル二ーを探しているのだろう。
愛馬であるアルヴァーノは近くにいたが、肝心のヘル二ーはどこにも居なかった。
「どこ行ったんだ」
少し待っててくれとヨシュアは漁師につげ、探しに行く。彼が治療に専念している間、一切姿を見せなかった。どこで誰が何をしていようと関係ないを貫くヨシュアだが、この時ばかりは違う。漁師達と戻らなければならない。
「ごめん! 少し遠くに行ってて戻るのが遅れちゃった!」
「私は構わんが、漁師達に迷惑はかけるなよ」
走って近づいてくるヘル二ーを確認したヨシュアは波止場で待っている漁師のところに一緒に戻っていく。
「遅れてしまってごめんなさい! 準備は出来てるから何時でも行けるよ」
「よし。なら乗り込んでくれ」
先の戦いで、コグ船に矢が刺さったあとや剣で斬られた傷跡が出来てしまっているが、まだ動けそうだった。ただ、これ以上傷がついたりすれば沈没してしまう可能性もある。帰りは慎重に進むことを決めたヨシュア達だった。
「出港!」
その声で帆に風を受けた舟が動き出す。今日は風下に風が吹いている。しばらくの間はオールで漕ぐ必要はないだろう。
「海賊というものがどういうことをする奴らか改めて説明する。姿は私を参考にしてくれ」
長い事、太陽の光に当てられて明るくなった黒髪に、ほど良く焼けた肌。少しだけ汚れているがそれでも目立つ額に巻いている赤いバンダナ。体の半分を隠すかのように大きいジュストコール。帯にカットラスと呼ばれる剣を挿している。
「まず、あいつらは当然のように嘘をつく。約束事をするのであれば、絶対に契れないやり方をしろ」
「例えば?」
「効力のあるものと言っても海賊に法が効くかどうかわからんが、あるとすれば血の盟約ぐらいか」
それがどういうものか分からない漁師たちは首を傾げている。血の盟約とは、「親交や約束を強化するために互いの手を切り、血を器に入れてワインなどと混ぜて飲むことだ」とヨシュアが説明すると、目を見開いて驚いている。他にやり方はないのかと抗議してくるものまで現れた。
「紙でしても構わんが、効果は薄いと思った方がいい」
「それでしたい場合どうしたらいいんだ」
「穴が無いようにしろ。海賊たちは堂々と裏をついて卑怯なことをするからな」
今までヨシュアが他の者達に対してしてきたようなことを説明していた。騙し騙されを繰り返してきたからこそ、出来るものだった。
「このことを他の者達に共有するもよし。自分たちだけの秘密にするもよし。だが、少しだけの慈悲は与えてやれ」
ありとあらゆることを考え、正しく判断しなければ最後に待つのは悲惨な死だ。ヨシュアの部下の中にはいなかったが、同胞達の中には首を切られ、船首に吊り下げられ晒された者もいる。他にも木から紐を吊るし、絞首刑で一生地面に足を付けられないまま絶命した者もいる。それほど海賊というものは、危険で死と隣り合わせのものだ。
しかし、彼らは海賊ではない。だからこそ、『慈悲をやれ』とヨシュアは言ったのだ。
「少しだけ?」
「そうだ、少しだけだ。それと、自分たちだけが得するものも混ぜろ。ただ気を付けなくてはいけないことは、それをやり過ぎると逆上して剣を取るかもしれんから加減は考えろよ」
ヨシュアは海賊たちの中ではまだ優しいほうだが、世の中には彼以上に酷いことを考える者もいる。約束事をしなかったが為に、海賊と取引などをした相手側が泣く泣く諦めた者もいた。
漁師たちの体は屈強だが、根は真面目だった。だからこそ、ヨシュアは教えていたのだ。
騙されないように、と。
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