第11話

「外国人君主を追い出せ!ハンガリアによるハンガリアの君主を!カーロイ一世に宝冠を!」


高らかに鬨の声を挙げ帝国式の歩兵銃を構えた1団。騎士階級に下級の貴族。カーロイ一世は一方的に王位を宣言。ハンガリア王カーロイ一世を承認し、アウグスト帝国は北部併合を代償にハンガリア地方の全てを割譲した。大貴族たちとミハイは兵を集め首都から脱出。アウグスト帝国が領地とする北部へ逃走した。

我々は正当なアウグスト帝国領土へと侵入した事にペドログラード大公国へ猛抗議。展開済みの騎兵2個師団と歩兵2個師団が猛攻撃。

呼び寄せていたミハイの婚約者アンナ女伯爵を人質に差し出しミハイは今だミハイを王と認める大貴族たちの領地へと逃走した。


「オットー殿、ペドログラード大公国と話し合いは済んでいるはずでは!」


「焦るなカーロイ。そんないい話がある訳なかろう?」


「…何故だ!」


「この王位をアウグスト帝国が兼ねて併合までは認めた。が、向こうもここまでコケにすると思わなかっただろう。」


「…私も落ち着こう。その代わりに貴殿は何を認めるつもりだった?」


「不凍港獲得の為の南下政策追認。要するに我々アウグスト帝国に盟邦を裏切れと大公ごときが言い放った訳だ。」


我々は歳若い猪では無い。老獪な竜だ。高々出来て13年程度の成り上がりが我々に同盟国を捨てて目先の利益に転べと?

巫山戯るな。


「つまり?」


「この内戦で貴様らの兵士は銃の扱いに慣れた。少なくない数の大公軍も参加している。同盟軍で叩く。そろそろ教会の馬鹿共が聖戦だなんだと言い出す頃合だからな。」


「彼らの南下政策が進行すれば異教徒共とアウグスト帝国が接する。」


「それもあるが、奴らがラテラン帝国に侵攻するならば、我々もコンスタンティウムは占拠しなくてはならない。地中海世界の覇権争いになる。」


「南方大陸にアウグスト帝国が保有する植民地や新大陸植民地の問題か。」


カルタゴやノイ・アウグスタ副帝領。交易ルートを多数抑える我々は地中海を押えられると東方交易に不利になる。

ミスル王国とは友好関係にあり、大運河の使用権をほぼ独占的に得ているが、島国である、アルビオン連合王国とは植民地政策でも対立しつつ、対アレマン王国でのみ団結している現状である。


「その通り。奴らの南下政策はアルビオンの狐共も不快感を持っている。珍しく、我々、アルビオン、アレマンが意見を同じくしたと言う事だ。」


「私は何をすればいい。」


「奴らを叩く。それに軍を差し出せばいい。」


「つまり?」


「アレマン軍2万の騎兵とアルビオンの戦列歩兵1万、2万の軽装歩兵更には我々アウグストの2個歩兵師団、1個騎兵師団、ハンガリアの軽騎兵2万これでピエトログラードの若造を叩く。既にアレマン軍とアルビオン軍はキールズより揚陸済み。主導権は常に我々の手の中だ。」


「…ハンガリア義勇軍2万の供出は同意する。がハンガリア自体の参戦は拒否させて貰おう。」


「結構。」


出された紅茶の杯を干すと、優雅に、あくまでも高貴に立ち上がり従卒に用意させた書簡を手渡し、救世主教国の盟主としての義務を果たす為に聖戦軍の司令部へと向かう。

宮殿の外に回された馬車は既に何時でも進発出来るよう準備がなされ4名の近衛兵が護衛として乗り込んでいた。

全く同じ外見の馬車が他に3台、別ルートを使用し帰還する。


アウグスト系ハンガリア人は帝国軍義勇ハンガリア軍団に配属され現在4万の歩兵つまりは2個師団となっている。帝国本国軍の1個騎兵師団と合わせて聖戦軍の中核をなす。

アレマン軍は右翼を担い、その補強にハンガリア義勇軍が配属される。左翼にはアルビオン軍が展開され一路ピエトログラードを目指す。更に中小国の歩兵をアレマン軍の右翼に配備し全軍の統括指揮はアウグストが取るという事になっている。

教皇ピウス3世によって聖戦が宣され、異端たる北方派の神の意志による地上の撃滅の命が下った。

元来教会はアウグスト帝国の強い影響下にある。国軍規模の兵力を持たない教会は、その教皇領の維持に他国傭兵と列強の庇護を必要としていた。現在の大陸における最大の救世主教正統派勢力はアウグスト帝国ないし、アレマン王国である。アレマン王国は対アウグスト帝国に回教勢力などの異教徒異端と同盟を結んできた歴史がある。が、アウグスト帝国はそれを跳ね除け、常に正統派の勝利を齎して来たのである。故に政治的軍事的に権力をほぼ全てがアウグスト帝国に掌握されていようとも聖域は侵されていない為に協調関係にある。

聖戦の勝利に正統派の勢力を盛り返したい教会と異端の救世主教北方派を信仰するピエトログラードを叩きたい帝国と利益が合致したのである。

着々と進んでいく準備と徹底的に隠された軍事機密。

アレマン軍に漏らさぬよう異常なまでの機密保持体制。


「満足のいく出来になったな。」

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大陸戦記 佐々木悠 @Itsuki515

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