第7話

エステル共和国軍来援。

敵は13万、歩兵7万に軽騎兵6万。エロイカ宣誓者同盟軍が動員され4万が全力展開されている事を考えても強大な規模をであろう。


「…私に伯爵位と帝国軍少将の階級?何故だ。」


「セルヴォーク将軍、我々は貴女を優秀な将帥であると認識している。そこでだ、獣人民兵と残存兵を率いて我々と協力してもらいたい。」


「…私は小国であろうと元老院に忠誠を誓った者だ。」


「統治機構として、元老院は粛清しない。するのは帝国法に基づいた観点で犯罪者のみだ。」


「…私に祖国を裏切れと?」


「捨て駒の貴殿に忠誠を誓う祖国があるとでも?これを見ろ。」


元老院直属としてセルヴォークに貸し与えられた騎士団の指揮官に書かせた偽装書状。

両国の参戦は不可能となった為にセルヴォーク軍の全滅と引き換えに大きな損害を与え、有利な条件で講和するとの内容。

所謂一撃講和という訳だ。


「…元老院がこれを?」


「ランスター語が読めんか?」


「…巫山戯るな!我々将兵を何だと思っている!何処からこれを?」


「聖カスター記念騎士団長が、エルヴス元老から手渡された物だ。」


「それで?」


「騎士団長も心苦しい事だったと、折を見て話すつもりだったが叶わなかったと言っている。許してやれ。」


「クロエ・セルヴォークは貴方に忠誠を誓う。我が剣は主の為に。」


帝国式の騎士忠誠の誓い。

それに応え腰から剣を抜き肩に載せる。


「我は汝の忠誠に応え、我が騎士と認める。汝は我が剣だ。」


膝を付き、忠誠を示すクロエに剣を与える。


「帝国女伯爵クロエ・フォン・セルヴォーク少将だ。クロエ、この剣を与える。ウーツ鋼の名剣だ使いこなせ。」


「はっ、殿下。」


「訓練と指揮階梯の統一に使え、1週間与える。」


「腰抜けと元老院とエステルの蛮族共を蹂躙してみせましょう。」


国民国家の時代でもない。裏切りにはリスクは伴うし恩義に応えない人物と見なされることには損害しかないが、この状況で切り捨てる予定と言われればこちらにつかないと利益が無い。帝国本国と魔道通信を行い既に伯爵位授与は許諾済み、クロエは優秀な将軍だ。それも攻勢向きの。本来通り帝国への遠征なら良かったのだが、予定変更で侵攻してきた帝国軍を寡兵を以て撃退しなくてはならなくなった。不運な物だ。


黄色地の上にグリフォンの共和国国旗が掲げられる首都ソーディス

突如来襲したのは赤地に双頭の黒竜の帝国軍旗、それに並び立つ長剣と王笏を携えた単頭の黒竜の意匠の皇太子旗、交差する青い長剣の意匠のセルヴォーク伯爵旗を掲げるアウグスト帝国軍約13万にクロエ指揮下の約7万の計20万程。


対する対帝国同盟軍は約13万のエステル共和国軍に、千程の騎士を抱える過去の元老の名を冠する元老院記念騎士団が12個。計14万2000程。

数はこちらの方が上とは言え差は大きくない。が、連携が取れているとは言い難いが1万2000程度が独自行動をしようと大きな被害は出ないだろう。つまり、1万2000が勝手に動く事で発生する被害を拡大すれば良い。

つまり、1万2000が無いと負ける状況に持ち込めばいい。


「ようこそ、元老院の方々。」


元老院の老いぼれ共を呼び出して捕虜交換の交渉。

呼び出してではあるが、こちら側が向こうよりに出向いている為に全ての元老が集まって居る。


「貴殿がアウグスト帝国皇太子オットー殿下か。」


「その通りだ。」


会議は終始和やかに進め、我々は次の段階に進む事を決めた。


「元老院議員の方々に我々が失礼ながら調査をした所を帝国法に反した行いは何一つなく道義的にもなんら問題の無いことが判明した。そこで貴殿らに帝国領ランスター州の総督を務めて欲しい。」


「我らに降れと?エステル共和国も我々に未だ味方しているのですが?」


「ランスターがエステルに蹂躙されるか俺達の庇護の下に入るか二者択一だ。」


「…3日後にお会いしたく思います。」


「…宜しいならば、3日後の同時刻にこちらへ。それまでは包囲はさせてもらうが自衛戦闘以外を固く禁止しておこう。」


「ありがとうございます。」


布石は打った。後はエステルの人間がどれ程優秀かだな。

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