第6話

帝都大司教と俺と帝国大魔導師。世俗と魔導と聖界の帝国におけるトップ達が現在真剣に協議中である。


「今回の場合はどうなるんだ?」


「…教会としましては、エルヴィンに石打ち刑は免れないと言う考えですが、問題は彼女本人です。人格で考慮するのか、それとも肉体によって石打ち刑か。」


「…人格で考慮する他ありますまい。殿下、ご決断を。」


「仕方ないか。エルヴィンを石打ち刑に処す。エリシャ嬢については帝都からの追放の上、修道院送致とする。」


「恩情を有難うございます。殿下。」


「構わん。その他の物には1週間の蟄居謹慎と双方の父には賠償金併せて4000万ライヒスマルクを申し付ける。」


払える額であり、他者からの追求を逃れされるには馬鹿な息子に勝手されて、損をした両親でなければならない。

絶対君主制の中央集権国家である故に帝国貴族は軍人や官僚の1部を担う存在でしかない。少々の評判の低下は他家の低下も勘案すれば+-ゼロ所かこちらのプラスになるだろう。


ヘルマンに事情を説明し、受け入れるのにも時間を要したが立ち直った。次の婚約者選定は厳しくなるだろう。沙汰を下してそろそろ一年ほどになる。ヘルマンは卒業まであと1年となった。父上はヘルマンの卒業後ある程度内政について権限を任せるつもりである。勿論俺にはそれ以上の権限と権威が与えられている訳だが。

アリスとの結婚式は盛大な物となった。ヘルマンも祝福してくれたし、帝室に取って大きな利益を伴った。

近衛軍は広まった国土と高まる緊張、人口増から規模拡大が決定した。

倍の十万である。重装騎兵4万の4個師団。重装歩兵師団4個4万、魔道歩兵師団2個2万が内訳で、俺の総司令官としての初陣は小国ランスター共和国戦。

将校はニコラス近衛少将以外は凡将。つまりは凡将のみで勝てるとの目算。

弱兵揃いを捻り叩き潰せとの皇帝陛下のご命令。

第1陣にニコラス率いる近衛重装騎兵2個師団及び近衛軍歩兵1個師団。

第2陣に本隊として俺の帝国軍歩兵師団3個、帝国軍一般騎兵4個師団が動員。計10万の大軍。

敵の共和国軍は騎兵こそ多い5万が存在するものの歩兵は4万と同数であり練度はこちらの方が上。帝国地方防衛隊3個歩兵旅団1万5000が即時共和国軍集結地点のランストー要塞を占拠、ニコラス率いる近衛軍部隊がランストー要塞に入城。すぐさま支配地域を拡大中と伝令の軽騎兵から報告が入った。


「ご苦労、よく休養を取れ。全軍、ランストー要塞まで急速行軍だ!」


歩兵部隊をエルンスト・ライケナウ帝国少将に行軍を任せ俺は騎兵部隊と共にランストー要塞へ入城しニコラスと合流した。

翌日歩兵部隊も合流。

1週間後、対応が遅れた共和国軍歩兵5万がランストー要塞全面に展開。要塞攻囲を狙ったものの外部に展開させていた帝国軍歩兵部隊によって強襲され、断念。後方から騎兵と根こそぎ動員でかき集めた獣人民兵部隊8万が来援。帝国軍と共和国軍との戦力差は11万の正規軍と1万5000の2線級部隊と9万の正規軍と8万の民兵。数的には劣勢となるが俺が負ける訳もない。負ける可能性が万に一でも存在するなら俺に侵攻の司令官は回ってこない。


「帝国軍は基本の陣形だ。歩兵を中央、騎兵と地方防衛隊を招集しつつ両翼に展開。最前線に俺が出る。騎兵1個師団を俺に任せろ。」


「残りの指揮は?」


「ニコラス。お前に任せる。」


残りの将軍と将校は口を挟むことなくそれぞれの持ち場へと帰る。


「ニコラス、任せるぞ。」


「はっ!」


俺も指揮する騎兵師団へと向かった。


ランスター共和国は開戦前、エステル共和国、アロンダイト連邦の列強2国と同盟を締結。対帝国協定を宣言した。密約でランスター共和国軍が侵攻を開始後両国が支援し宣戦布告すると決定されていた。

帝国はアロンダイト連邦政府の軍務大臣まで登り詰め内部に潜入していたスパイがそれを事前に察知しアロンダイト連邦へ密約の不履行と帝国との相互不可侵を要求。軍務大臣という役職を持ったスパイを失った物の5年間の相互不可侵が結ばれた。

直接国土を接していないエステル共和国へは、エステル共和国に隣接する同盟国エロイカ宣誓者同盟が軍を動員、エステル共和国の参戦を防いだ。


「クロエ・セルヴォーク将軍閣下、ご指示を!」


「セルヴォーク将軍閣下!」


「馬鹿な…政府は両国の参戦は?」


「…ありません。欠片程の可能性でよろしければ、エステル軍かと。アロンダイト連邦は帝国と妥協不可侵を結びました。」


「セルヴォーク将軍閣下失礼します!帝国軍騎兵部隊が突入してきます。敵弓兵の攻撃を受け混乱を突かれた模様!」


「撤退の時間は無いか…全軍に伝令、応戦せよ!民兵隊にも命令を!」


燃える軍旗と肉の匂い。騎兵突撃前の射撃には火矢が含まれていた様だ。エルフの聴覚で彼方から疾駆する軍馬の足音が聞こえる。兵士達の怒号と敵軍の鬨の声。士気は圧倒的にこちらが低く、勝てる訳もない戦争だ。上がるはずもない。


「ひと当てして下がる。首都へと全軍で転進する!」


最後の命令を出し、私は鎧を身にまとい、殿軍の指揮を執る準備を始めた。


「老将、レイヴ・エルンスト!帝国の腰抜け共悔しくばこの老耄と一騎打ちしろ!」


「良かろう、俺が相手してやる。」


「貴様は!」


「帝国軍総司令官皇太子オットー。余を討ち取ってみよ老将、されば貴様らの勝利だ。」


気づくと既に本陣の近くまで攻め込まれている。一般兵が周りから退き一騎打ちを見守る。私も天幕から出て観察する。


「剣皇子ならば不足なし!いざ!」


槍を構え突撃するレイヴを躱すと、片手に握る長剣の横で兜に思いっきり振り下ろした。


「槍騎士レイヴでこの程度か?拘束しろ。」


「レイヴ様を守れ!」


決死の雑兵の抵抗。それの確実な失敗を予見しつつ魔術を構築する。


「……焔矢アローレイン・フレア。」


魔術を高速で展開すると殺到する兵士を蹂躙、焼き殺す。


雷槍サンダーランス!」


右手から展開した黄色の魔法陣から槍に型成した雷の奔流が虚空を裂きオットーを目指して突き進む。


絶対防壁アイギス


が、最上級の防御魔術に阻まれ魔術は掻き消える。


「…全軍反転!1人でも多く撤退しなさい!」


「させるとでも思うか?セルヴォーク。」


「蹂躙せよ!帝国の誇りを見せろ!」


首元に剣を突きつけられ私は力なく降伏と全軍へと投降を命じた。


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ランストー平原会戦

参加勢力

アウグスト帝国

ランスター共和国

兵力

帝国軍

歩兵4万

騎兵7万

地方防衛隊歩兵2万3000

共和国軍

歩兵4万

騎兵5万

獣人民兵8万

損害

帝国軍

騎兵2000

歩兵500

地方防衛隊0

共和国軍

歩兵1万7000

騎兵2万

民兵3万2000

備考

帝国遠征軍総司令官セルヴォーク将軍拘束及共和国の名将エルンスト拘束。隣国と同盟締結によって捻出した兵力のほぼ全てを喪失。


経過

弓兵による掃射の後、帝国軍中央よりオットーを先頭に騎兵1万が突入それに牽引される形で歩兵が中央より突入。両翼より騎兵が機動し後方へ方位。少数部隊が後方より騎兵突撃し完全包囲を偽装。本陣を制圧し降伏させた。


影響

アウグスト帝国の勝利確実。ランスター共和国軍主力撃破。アロンダイト連邦への帝国影響力増大。エステル共和国の国際的影響力の低下。

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