第4話
「我らがオットー皇太子殿下万歳!」
近衛軍のパレードと共に騎馬で俺は帝都を行進している。新たな皇太子の誕生に己の意思いかんに寄らず歓声を上げる民衆とは哀れだとすら思う。ただこの国の皇帝ですら思い通りにならない事もある。力を持てない一般の民衆なら当たり前だろうか?
「この後の予定は?」
「はっ、帝都大聖堂にて神への報告の後、帝立学院の名誉院長就任の演説があります。」
「そうか。ご苦労。」
帝都大聖堂は古めかしい、堅牢な造りの建築物で、有事の際は要塞として転用できると有る。荘厳な大聖堂内で教会の枢機卿から聖別を受けその後帝立学院へと向かう。
帝立学院の大講堂は第3代皇帝カール一世の御世に建てられた。カール一世はヨーゼフ一世建国帝、コンラート一世拡大帝から受け継いだ帝国を巧みな内政手腕で国力を増大させ、第4代ヘルマン一世征服帝の征服事業を支えた功績を持つ名君である。そのカール一世にちなみ大講堂はカイザー・カール大講堂と名付けられている。
学院生全てが一堂に会し用意された席に着座し俺が口を開くのを待っている。
「学院生の諸君。私が諸君らの既知の通り皇太子となりこの学院の名誉院長を務めるオットーだ。この学院にカール一世陛下が望まれたのは身分の上下なく向学心と向上心をもって熱心に学問に取り組み帝国の役に立つ人材を育成する事である。諸君らの良くない評判を聞いている。貴族子弟諸君に選民思想が蔓延っていると。貴族子弟諸君に明言しよう。貴族子弟諸君、君達が選民なのではない。過去に功績を生したその人物が神に愛された選民なのだ。我ら人間に人を選ぶ事は不可能。その事をよく考え、それぞれ考えて欲しい。」
中央集権化され絶対君主制の敷かれるこの国で貴族階級に選民思想が蔓延っているのは良くない。だいいちに特別なのは皇族のみであって貴族なんか幾らでも替えがきくのだ。
後嗣無く当主が死んだ場合、最低でも15人は自称親戚の継承権者が現れる。
まあ、実際には偶々、皇帝家に反抗的な貴族家の投手が急に病死した時など皇帝家から送り込む場合もあるのだが。
「諸君らは自らの才覚でこの学院に選ばれたのであり、それは家柄による物とは一切関係の無い事を明言しよう。以上だ。」
壇上を降り、控え室に戻ると暫くして久しぶりに会う15歳の婚約者アリスフォード・フォン・テューダー公爵令嬢が現れた。
「オットー様!」
飛びついて来る彼女を受け止めて頭を撫でてやる。
「久しぶりだな、アリス。」
「はい、オットー様。」
暫く会話を弾ませていると邪魔が入る。
「オットー皇太子殿下失礼します!」
「誰だ?」
急に扉を無断で開け入って来たのはこの学院の学生であろう少年。
「御無礼は承知の上です。殿下、申し訳ありませんがいち早く中庭へお越しください。」
焦りが見える。成程、何か面倒事らしい。
「無礼は構わん。アリス行こうか。案内してくれ。名は?」
「マティアス・フォン・アルヴィス男爵公子です。」
一介の男爵公子が慌てて、皇太子の部屋に無断ではいる程の案件。急ぐべきか。
掛けてある長剣を手に取るとマティアスに先導させ、3人で走る。
中々に衝撃的な後継だった。弟のヘルマンとその婚約者エリシャ・フォン・ノーフェンダー侯爵令嬢が相対しエリシャの横に立つ男が思い切りヘルマンを殴り飛ばしていた。少し見ていると何とか自制心をはたらかせヘルマンは手を上げていないらしい。
「ヘルマン!」
再度振り上げた拳を受け止めて間に入る。
「兄上!」
「マティアス、何事だ?」
「…ノーフェンダー嬢がヘルマン殿下に婚約破棄を宣言しまして殿下が何故と問われるとノーフェンダー嬢の新たな婚約者を名乗るエルヴィン・フォン・ヘンダー伯爵公子が殿下を殴り飛ばしました。」
「近衛兵、この2人を拘束しろ。宮殿へ向かう」
4名の近衛軍将校に拘束され近衛軍の馬車に閉じ込められる。
「諸君、緘口令だ。口は災いの元だ。累が及ばぬよう、口をとざせ。」
俺の弟になにをしやがる。
「オットー様、私も!」
「アリスも着いてきてくれ。」
†
「父上!」
「何事だ、オットー。今は宰相と軍務大臣が居るのだぞ。」
「丁度いい、宰相ステファン・フォン・エルンスト侯爵、貴殿の寄子のヘンダー伯爵公子、軍務大臣ミハイ・フォン・ノーフェンダー侯爵の娘エリシャの件について報告だ。」
「…何でしょうか殿下。また、エルヴィンの奴がやらかしましたか?」
常習犯らしい。
「エリシャはヘルマンに対して婚約破棄を突きつけた。エルヴィンとやらと婚約するとの事だ。」
「何だと?」
怒りに盈ちる父上の声にミハイ侯は縮み上がる。
「申し訳ありません陛下!今すぐ娘を詰問致します!」
「ミハイ、それは不要だ。ヘルマンをエルヴィンが殴り飛ばしたからな。学院生の目前でだ。近衛兵が2人を拘束している。先に報告したヘルマンの母上は心労から倒れられた。そう言えばミハイ、貴殿の妻はヘルマンの母上の侍女の1人だったな?」
「何処だ!」
「私の屋敷です、父上。その前にアルヴィス男爵とその公子を呼んでください。ヘルマンの事を知らせてくれたのが公子マティアスです」
「落ち着いた方が良いか。会ってから向かう。全ての関係者を集めておいてくれ。」
さて、可愛い俺の弟の元へと向かうか
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