第3話

「オットー殿下!どう言う事ですか!」


撤収の準備を進める帝国側使節団の天幕に駆け込んできたのはアルベントスの全権使節ロコソフスキー伯爵。


「我々の契約はどうなった?」


「ロコソフスキー伯爵、一体なんの事かね?」


「フェドロニック公爵殿とも確認したはずだ!ベルナ地方はヨルガルト公国軍及びアウグスト帝国軍が配置されない契約のはずだ!」


「ああ、その事か。展開したのはコレール大公国軍だ。」


「大公国は昨年属国として発足したほぼ帝国と変わらないだろう!」


「約定には反していない。そうだな、フェドロニック公爵。」


「勿論です。ガルナ王国はこの件に関して問題なく考えていますよ。」


「……ふざけるな!我々を馬鹿にするのか!」


「ニコラス、お帰りだ。」


「はっ。」


帝国子爵ニコラス・フォン・ライエル・キンスキー近衛少将。俺の幼馴染だ。ニコラスの指示で近衛少佐2名が両手を掴み軽く外へと押しやった。


「そうだ。フェドロニック公爵、お茶でも如何かな?」


目の細い、表情の読めない公爵はニコリと微笑み答えた。


「勿論、頂きます。」


「来たか。オットー。」


壮年の皇帝。今年で41歳になる皇帝は美男であり彼の最たる所はその計算にある。

彼の脳内は常に式が張り巡らされている。何かの出来事などで数式化し常に最適な決断が下せるという君主に相応しい力を持っている。それが人心から少し外れやすいという点が無ければ。だが、それを忠実な臣下で補えば良い話だ。


「この度の茶番大儀であったな。」


無言で跪く。すると無言で宦官が下がり父上はその手で向かいのソファーを示す。つまりは皇帝と皇子では無く父親と子という事だ。


「ありがとうございます。父上。」


皇帝フランク二世の御前で帯剣特権を持つのは俺と弟のヘルマン、そして父上の弟のヨセフ大公、コンラート公爵のみ。近衛騎士を除けば4名以外は帯剣を許されず更に帯剣特権保持者以外でも38名は直答及び面会特権を持たない。帝国で皇帝に面会できてしかも直に会話を交わせる相手とは数少ない。皇帝が私人としてでも世間話でもすればその人物に権力が集中しかねない。


「お前から見てヘルマンはどうだ?」


「私見で宜しければヘルマンは失策も多いですが年齢は未だ14歳。あの子爵さえ除ければ充分可能性はあるかと。」


「何故、あの子爵が駄目だと思う。」


「こちらを。」


アルノルト・フォン・ヴェルダン子爵。その数々の不正と敵性国家への戦略物資供与の証拠が集められた書類を手渡す。

一読するとそこには君主として腐敗し反逆する臣下への怒りと歳若い息子を利用された事への怒りを示す父親の顔がそこにあった。


「オットー、お前を現在から首都駐屯兵団司令を兼務させる。」


「お任せ下さい。処理します。」


一礼し、俺は足早に去った。

明朝未明、いきなり大槌を構えた首都兵団の兵士がヴェルダン子爵邸の門を破壊。直ちに150名の兵士がなだれ込みヴェルダン子爵とその家族を拘束した。同時に不正に加担していた貴族家8家が同時に拘束され皇帝によって貴族会議が招集された。


「これより帝国大裁判を始める主犯エルマー・フォン・バエルライン侯爵、副主犯アルノルト・フォン・ヴェルダン子爵、その他エルビス男爵、ライケルト男爵、ベルサ子爵、コロナー準男爵、カルマー男爵、ターケンベレム子爵、ネイバス子爵起立。」


近衛騎士が両脇から持ち上げ立たせる。


「不正と内通つまりは大逆罪を持って主犯格二家は取り潰しの上当主とその妻及び成人した男子を全て死罪とする。その他は当主に毒を下賜し妻は修道院へと送り、成人した男子を全て労働奴隷とし、成人した女子の内婚姻していないものを修道院へと送致し、子供は拘束の上然るべき処置を下す。」


帝国大法院とは罪を犯した貴族に対する刑罰を布告する場である。


「奴らの後任として帝国大法院院長をヨーゼフ・フォン・エルマー・バイエルライン伯爵に、帝国海軍一等戦列艦プリンツ・ジーク艦長をミルスライト・フォン・チェスター伯爵、帝国海軍第一艦隊司令をベルフェ・フォン・アルマーダ女子爵を任じ残りの首都防備司令や商務流通総監部総監はオットーに兼務させる。ヘルマン!」


皇帝は立て続けに処分と公認を決め、ヘルマンを呼びつける。


「ヘルマン・フォン・ツヴァイ・アウグスト、貴様を内務事務次官へと任命しアウグスト伯爵家の創設を命じる。」


皇位継承レースから脱落。

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