第2話
対アルベントス全権大使。オットーは皇子として相応しい漆黒の近衛軍大将の一種礼装に身を包み腰には美しいながらも実用性の高い白1色の鞘に入った帝国式長剣が人目を誘う。
オットーは500騎の黒一色の鎧を着た重装騎兵大隊と白一色の装いの歩兵2000の一個連隊を伴って来た。
対するアルベントス全権大使はゲオルギー・ピエトロヴィチ・ロコソフスキー伯爵。立ち会いの仲介人はガルナ王国の公爵、クリスチャン・アルベルト・フェドロニック。
「オットー・フォン・リヒテン・アウグストだ。アルベントス全権大使殿と交渉をしようと思う。ご要望は?」
「オットー殿下、先ずは我々の独立を承認して頂きたい。」
「それは勿論だ。しかし、ヨルガルト公国領の返還は必要だ。」
ヨルガルト公国領はアルベントス領内に楔のように食い込む形をしている。常に危機感漂う事になるだろう。
「…アルベントス領内にくい込むベルナ地方の割譲をして頂きたい。」
苦渋のセリフだろうそれをオットーは簡単に切り捨てた。
「不可能だ。我々はヨルガルト公国公王殿下の依頼を受けて交渉に来たのだから。しかも私には他国領を割譲させる権利はないのでな。」
勿論建前である。アウグスト帝国の国力を100とすればヨルガルト公国は1にもならない。アルベントスですら20程度。ガルナ王国ですら90程度なのだ。
その大国が圧力をかければ1地方程度簡単に手放させる事は簡単だろう。
「1度、話し合いたい。時間を貰えるだろうか?」
そこでアルベントスの大使は折れざるを得ない。外交や国防上ベルナ地方は戦略的要衝。
既にベルナ要塞の建造が始まっている事から帝国は手放す気は無いと知る。
どうぞ、とオットーは随伴の貴族たちと天幕から出ていく。
「ロコソフスキー殿、どう為さるつもりだ。」
「アウグスト帝国には勝てない。今は譲り、後で返してもらう。先ずは妥協だ。」
ガルナ王国が仲介し、エスペランサという都市で結ばれたエスペランサ条約により以下が確認された。
1、ヨルガルト公国領、つまりベルナ、ライデン、ノールファンクの三地方をヨルガルト公国へと返還する
2、アウグスト帝国率いる西方同盟諸国に対して相互不可侵を結ぶ
3、アルベントス王国はアウグスト帝国籍の船艇に対して補給を提供し寄港を無条件で提供する
4、アルベントス王国は周辺海域でアウグスト帝国籍船艇に海賊や海生魔獣の被害を受けた場合アルベントス王国は責任を負う
5、アルベントス王国はアウグストに貢納金年間金貨5万枚、銀貨17万枚を支払う
6、年間800頭の軍馬をアウグスト帝国に対し正規価格で販売する
の6項である。
一部勢力はオットーの対応に弱腰と批判したものの、皇帝は長子オットーの判断を承認。
オットーは大きな政治的勝利を納めた。
†
「オットー大将閣下、こちらを。」
オットーという人間は簡単に表すならこうである。
利己主義的なマキャヴェリスト。
簡単に言えばマキャベリストは国家の利益になるならば如何なる悪業も許されると言う思想だ。
彼にとって国家とは自分であり皇帝となるのは自分であると疑うこともない。つまりアウグスト帝国=オットーである彼は利益をもたらせば悪業は許されると考えている。
しかし彼は知能指数の高く理性的な人間。真に国家に利益をもたらすなら悪業は制限される事も熟知している。つまりは戦場において勝利出来るなら卑怯な作戦も決断出来る。
更には自分にも限界がある事を知っている為最低限に目を光らせ、責任は自分が取る事で優秀な人材に自由裁量を任せることもできる。
と当代一と名高い論述家はオットーを総評した。
オットーに最も近かった側近は彼を一言サイコパスと評した。
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