光の戦士たち9
「「代官邸襲撃事件んんんんんん?!」」
メイベルとザラディンが素っ頓狂な声を上げる。
「しーしー! リズが起きるだろ!!」
「あ、ごめ……」「こ、こりゃしつれいを……」
慌てて二人に口を押えるジェイスに、口をつぐむ二人。
チラリと肩越しに振り替えれば、赤い顔をして寝込むリズ……。
今しばらくリズには病床に臥せってほしいジェイスの指示のため、簡単な回復魔法しかかけていないのだ。
もっとも、それ以前にリズは精神的にも参っているらしく、回復魔法の効きはメイベルがどうこうする以前にあまりヨロシクはなかったのだが……。
「……い、いいから、来いって───あ、リズはそのまま休んでていいぞ」
労わる様にリズの枕元に、柔らかくカットしたフルーツをおいてジェイスは部屋を出た。
去り際にリズが「ありが、とう……」と弱々しく呟いていたので、輝かんばかりの笑顔を送っておく。
…………どうやら、代官邸襲撃事件の話に気づいた様子はなかった。
「「「ふー……」」」
そのことに、ほっと一息。
……で?
「なんです、その事件ってのは」
「へ、へへ……。実はよぉ、ギルドで噂になってたのさ──」
「「噂ぁ??」」
へっへっへー。
かくかくしかじか──。
「──え? えぇ?! それ本当の話なの、ジェイス?」
アルガスがベームスの街で大暴れしたあの話。にわかには信じがたいのも無理はない。……もっとも、アルガスが暴れたという風には伝わってはいないものの、ジェイス達にはよくわかる話。
──流れの冒険者で重戦士とくれば、どう考えてもアルガスしかいないだろう。
その直前に軍団を降したという話が本当なら、間違いなくアルガスだ。
「た、たしかに、特徴は一致しますが、
アルガスという単語の部分は小声で言うザラディン。
同時に、リズのほうを振り返り、その様子をうかがう。
「ううーん」うなされているらしいリズ。
「…………そういえば、リズの様子はどうだ?」
「どうもこうもないわ。多分、過労ね」
メイベルの見立てでは、何日か安静にしていれば治るだろうというもの。
「それはよかった───……なら、もう少し寝込んでいてもらわないとな」
「それは……まぁ、回復魔法は言われた通り、
「というか、リズさんが寝込んでいると何が好都合なんです??」
さっぱり話の革新が読めないメイベルたちは顔を見合わせる。
その様子をニヤリと笑って眺めると──。
──ピラッ!
二人の目の前に突き出したのは、ここリリムダの街に領主──リリムダ男爵が出している告知書だった。
「こ、公式文書?! こ、こんなの、どこで手に入れたんですか?……え、だ、男爵軍の招集??」
思わず告知書を握りしめるザラディン。
どうやら、発布前の正規の書類らしいが──……。
「へっへっへ。そりゃ、お前──色々伝手があるんだよ。で、そんなことよりも、なんでリリムダ男爵が軍を招集していると思う?」
ニヤニヤと笑うジェイス。
「さ、さぁ? 盗賊討伐ですか?」
「……あ、もしかして──今更、
ちっちっち。
「残念ッ───こういうことさ!」
ジェイスが得意げに語った内容は、アルガスをよく知るものからすれば驚きの出来事だった。
※ ※
「はぁ? ベームスの代官がリリムダ男爵の倅ぇぇぇええええ?!」
「え? じゃあ、それをぶっ飛ばしたのが、あのアルガスってこと??」
まったくもって説明ありがとう。
「……らしいぜ。街でクーデターがあったらしくてな。それに乗じて、アルガスが代官を討ったみたいだな」
多少誤報が入っているが、リリムダ男爵のもとへ流れた情報ではそうなっているらしい。
「な、なんのために、代官をぉ?───って、それより大丈夫なの? そーいうのって、私達にまで責任が来るんじゃ……」
「大丈夫、大丈~夫。もちろん、手は打っておいた───俺達にとっては一石二鳥、……いや、三鳥の手をな」
ニヒヒヒと、実に楽しそうにジェイスは笑う。
だが、ザラディンもメイベルも懐疑的で顔を見合わせるのみ。
ジェイスの悪だくみは今日に限ったことではないが、いつもろくな結果にならないのだから──。
「……実はよぉ、俺ぁここの男爵とは昔っから懇意なんだよ。だから、話は通しやすかったぜぇ───むしろ、協力を頼まれたくらいだ」
「きょ、協力ですか?」
「さっぱり話が読めないんだけど──どういうこと?」
男爵の倅が、アルガスに討たれたのはなんとなくわかったが……。
「決まってるだろ?……その代官の
こう見えても、ジェイスの家系は勇者の系譜。
ゆえに貴族にも顔が広く、王国での受けがいい。きっと、口八丁で男爵で丸め込んだのだろう。
一方でアルガスは、所詮は流れの冒険者。
実績はそこそこあれど、名声とはほぼ遠い。
そんな奴が、勇者パーティと別行動をして、代官を討ったとなれば───たしかに無関係を装える。
むしろ、被害者ぶることさえ可能だろう。
そうして、名声につられた悪人の仕業とでもしておけばいいのだから、楽なものだ。ついでに、元メンバーの責任をとる! とか適当なことを言っておけば、逆に協力を仰がれてもおかしくはない。
「……じゃ、じゃあまさか──」
「え? もしかして男爵の軍勢って……」
「おうよ。男爵を
仇討は貴族の正式な権利。
そして、代官は王国所属の官僚だ。
「な、なるほど……」
「か、考えたわね──ジェイス」
正直、アルガス一人のために一領主のものとはいえ軍を出動させるほどのものかと思ったが、「ぐひひひひ」と、気味悪く笑うジェイスを見れば二人には何も言えない。
「───で、でも、アルガスは根無し草の冒険者よ? これに気付いたら隣国にでも逃げるんじゃ………………あ、そっか!」
そう。そのための
「くく。ここにリズがいる以上、アルガスはどこにもいけないさ──ついでに、もう一手打っておいた」
ニィと、笑ったジェイス。
「も、もう一手ですか?」
「おうよ」
これだ。
そういって、投げ出したのは、複数の紙束だ。
「あ、あら? これってリズの
「あぁ、アルガスがつけさせていた──え? これが何か??」
顔を見合わせる二人に舌打ちすると。
「ったく、鈍いな」
鼻で笑うジェイスは、
「何のために、こんな田舎ギルドのマスター顔を出したと思ってるんだよ?」
そう言って、ジェイスが差し出したもの。
指名依頼書が一枚───……。
「こ、これは?」
「ふふん~。……この街にはいるんだよなぁ。
そう。
それこそが──────……。
リリムダ冒険者ギルドへ、指名依頼。
ドワーフ族、A級冒険者。
…………………………『韋駄天のシーリン』
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