第10話「引き留める合法ロ───」
「え゛……いや、そのぉ──」
シーリンの奴はなぜか口ごもっているが、
アルガスが直接行った方が早い。
それに軍団を殲滅した後なので、ここしばらくは魔物の氾濫はないだろう。
さすがに、そろそろポツリポツリと回復しているだろうが、以前ほどの魔物の群れが頻繁に出るようになるには、いましばらく時間がかかるはずだ。
荒野に魔物が沸くのは、噂では───どこかにダンジョンがあって、そこから溢れた魔物が繁殖しているのだと言われているからな。
そのせいか、規模はさほど大きくないのか、荒野を覆いつくすほどの魔物は確認されていない。
ただし、時間をおけば強力な魔物がでるのは間違いないのだが……。
「ちょ、直接って───ま、マジか?」
再びシーリン。
なぜか、でっかいパイに被り付こうとして硬直しているのだが──。
「……どうした? 当たり前だろ? 直接合流したほうが早い──だいたい、冗談を言ってるように見えるか?」
そも、そんな場面じゃねーだろ?
「そ、そら見えんけど……え? いや、えっと、ちょっと、それは───」
なぜか、シーリンが困り顔で、ダラダラと汗を流している。
…………なんだ??
「何だ? 何か不都合でもあるか?……別に、お前について来いとは言わんぞ」
「い、いやー……その、ほらあれよ!?」
「……は?」
あれってなんだよ?
「あれはあれや!!」
何言ってんだコイツ??
荒野の危険性のことか? そんなもん、ティーガーで突っ切っていけば、さほど困難な旅路ではないのだ。
だいたい横から、やいのやいのと言われる筋合いはない。
「そ、そうじゃなくて……え~っと、ほら!! リ、リズとかジェイスさんとか、もしかしてこっちに向かってるかもしれないじゃん? 入れ違いになるかも──」
む……。
それは確かに……。
ジェイスがこの街に来るとは思えないが、リズが単独で来る可能性は大いにある。
少なくとも手紙をしたためるほどには、元気だし、こちらに来るつもりではいるようだ。
「なるほど……。入れ違いか……ふむ、ありうるな」
リリムダの街は、荒野の反対側ということもあり、様々なルートが存在する。
乱暴な荒野を突っ切るルートもあれば、いくつも存在する正規の街道を使うルートも当然ある。
もちろん、リズのことだから、荒野を突っ切るような無謀なことはしないだろうが……。
街道も複数あるので、その途中で合流するというのもちょっと現実的ではない。
「そ、そそそそそそ、そうやろ? だから、待つ方がええで!!」
「むぅ……そうだな」
アルガスが首肯すると同時に、シーリンがウンウンウンと、高速頷きを連発。
「そ、そうやそうや! そうしようやん! んねッ!!」
「お、おう……?」
こいつ、何をこんなに慌ててるんだ?
「ほ、ほら! や、宿代だってシーリンさんが出したるで! んね! そうしよ、そうしよ、早く泊まろうや、な! 早く早く!」
「いや、宿はもう取ってるから大丈夫だが、むしろ…………お前はどうするんだ?」
長期滞在してるんだから、宿くらいあるに決まってるだろうが……?
「だ、大丈夫、大丈夫! け、経費で落ちるねん! 宿くらい
経費?
あー、雇い主……。
って、
「───雇い主って、ジェイスだよな?……アイツ、そんなに気前良かったか?」
記憶の限り、すっげー渋チンだったはず。
とくに、アルガスに対しては……。
もちろんリズが雇った可能性もあるが、……それにしては人選がイマイチだ。
少なくとも、リズなら俺と揉めそうな奴は選ばないだろうし、そもそも、あの子は何でか知らんが、俺に女性が近づくのを滅茶苦茶嫌がる……。
まぁ、───シーリンを女性といっていいのか、「なんかゆーたか?!」……すんません。
……いずれにせよ、リズが雇うなら、もっと実績のある人間を選ぶだろう。
「せ、せやで!! ジェイスさんからの依頼や! 手紙を届けるだけにしては結構弾んでくれたんよー、あはは」
は……???
ジェイスが結構弾む?
しかも、手紙だけのために?
…………………………いや、あり得るか?
「──ほ、ほな、宿にいこうや! 宿に……な! そんで、そこでリズさんを待とうや! んね?」
アルガスの腕をとって、グイグイと引っ張るシーリン。
ない胸があたって、それなりにアピールしているが、…………ないものはない。
なので、そっち系でつられてもピクリとも来ない。
「あーあーあー。わかったから、放せ───とりあえず、宿に戻って方針を考える。あとで、詳しく教えろ」
「う、うん! ロンのモチよ!───あ、お姉さん、それはテイクアウトで、」
残り物を包んでもらって担ぐシーリン。
しっかり者なことで……。
「ほらぁ、そうと決まったら行くで───宿はどこや?」
「お、おう……こっちだが───」
釈然としない思いを抱えつつ、アルガスはシーリンを伴って宿に戻ることにした。
長期滞在している宿なので、空き部屋具合は知っている。シーリンが泊まるのは問題ないだろう。
だが、宿屋の主人に「
んなこと、せんわ!!!
確かに、シーリンはドワーフ基準では美人で、人間基準では可愛いと思うが、……俺は別にそういう趣味はない。
しかも、年上といえば年上。
本人は年齢について話していないが、年季の言った工具を見れば結構な歳上だと確信できる。
いわゆる合法ロ───……。げふん、げふん。
「あ゛?……どうしたんよ?」
宿の鍵を受け取ったシーリンがジト目をしつつ、神妙な顔をしているアルガスに言った。
「い、いや、なんでもない……それより詳しい話を───」
「あー……。明日でええか? 疲れてんねん」
そういうとさっさと部屋に引き上げるシーリン。取り付く暇もない。
「お、おい」
バターン!
簡単な荷物だけを持ち、彼女は振り返りもしない。
パッと見、軽装なのは武器などの類いは、例の魔導スクーターとやらに格納しているらしい。
便利なことで。
「まいったな……」
扉を閉められてしまえばアルガスにも追いかけようがない。
ったく……。
ちっこいけど、あれでも女性だ……。
さすがに、無理やり部屋に入るのは
「アルガスさん?」
ミィナは大人しくしていたが、アルガスの難しい顔に不安そうだ。
「ん。……なんでもない。風呂に入って飯食って寝ようか」
「う、うん……」
ミィナが、リズの接していた時間は僅かだが、アルガスとリズの絆を知っているため、そのことについて余計な口出しをしてはいけないと理解しているらしい。
ムッツリと押し黙ったアルガスに着いていくも、シーリンが入った部屋をチラチラと見ている。
どうやら、ミィナはシーリンのことが気に入ったらしい。
「…………シーリンに会いたければ、行ってもいいぞ?」
「ホント?!」
別にミィナはアルガスの所有物じゃない。
一々許可を求めなくてもいいのだ。
やはり、親に売り飛ばされ、奴隷に落ち───ポーターとして買われたことを、この子はまだ引き摺っているらしい。
そういった意味でも、シーリンと仲良くすることは彼女にとってはプラスになるだろう。
ミィナと精神年齢が近いシーリンもどうかと思うけどね……。
人間基準でいえば、おば───!
げふん、げふん。
「遊んでもいいぞ。ただし───……」
「う、うん! 『知らない奴から物を貰わない。知らない奴に着いていかない。リズに手を出す奴はぶっ殺す♪』だよね?……あ、シーリンさんは、」
……最後の『リズに手ぇ出す奴』って、どこで覚えたのよこの子?
え、俺普段から口にしてたっけ?
「…………ま、シーリンはイイだろう。ただし、勝手に外には出るなよ? 宿の中だけだからな?」
「はーい♪」
まぁ、シーリンもミィナの相手くらいならしてくれるだろう。
それに、何かシーリンの態度に引っかかりを覚えるのだ。ミィナを介して繋がりを持っておくのは悪くはない。
たしかにリズの手紙は持ってきたが、それについては色々なことに違和感があり過ぎて、どうにもしっくりこないのだ。
アルガス自身、リズのことが心配になりすぎて、そのことについて盲目的になり過ぎている気がする。
客観視できなくなっているのだろう。
「…………頭を冷やさないとな」
一度、冷静になって考えてみる方がいいということか。
ミィナがシーリンの部屋を入っていくのを見届けながら、アルガスも自室に戻ったのだが……。
その夜────。
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