第9話「野生のドワーフ」


「聞いたことないな」「知らなーい♪」


 口をあわせるアルガス&ミィナのコンビに、ズルッとこけるシーリン。


「くっ……。ま、まだ売り出し中やねん! リリムダでは有名やねんで!」

「そうか? 凄いな」「すごーい♪」


 全然凄そうな雰囲気で言わないものだから、シーリンが顔面に青筋を立てている。


「くッ。……し、信じとらへんな! ええい、あれを見てみぃ!」


 シーリンが指さしたのは、ギルドの前にと前られている赤い木馬のような物。


「…………なんだ? おまる子供用携帯トイレか?」


 ガンッ!

 シーリンがテーブルに頭を打ち付けている。


 ……どしたん?


「い、いッたたた……。って、なんで、おまる・・・の自慢せにゃならんねん!」

「いや、そう言う趣味かと」


「どんな趣味やねん!?───アタシは街中でクソをしてみせてまわる変態かぁ!?」


 違うのか?


「ちゃうわぁぁあ!!」


 ごもっとも……。


「あぁ、もう見とれ───」


 肩をいからせたシーリンが、ノッシノッシとギルドを出ると、おまるに跨り───「おまるちゃうわ!」、もとい赤い木馬のような物に乗ったかと思うと、


 キィィィィ…………。


「お?」

「ふぁ?」


 なんと、フワリと浮かび上がった、おま───「ちゃうっつってるやろ!」、赤い木馬。


「全開やでぇ!」


 ギュン─────────!!


「うお!」

「ひゃ!」


 アルガス達が見守る中、空気の擦過音を残して、ギューーーーーーン! と飛んでいく木馬。


 どうやら、魔導機械の類らしい。地面スレスレを浮いているようだ。

 その、あまりに速度と威容に、通行人が驚いて慌てて道を開ける。


 ──っていうか、大通りでやるから、スッゴイ迷惑……。


 そして、ギルドから見えなくなるほど離れたかと思うとクルリとUターン。

 そのまま、再び高速でカッ飛んで来ると、ギルド前で急停止。


「ぷひー」


 肩で息を切らせながらシーリンが席まで戻ってきて、ドヤ顔。

 取りあえず、アルガスとミィナ──そして、見守っていたギルドの人間がパチパチと拍手。


 ……うん、なんぞこれ。


「見たかぁ! アタシの作った魔導スクーターの性能を!」

「お、おう。凄い」「しゅごーい♪」


 うん、素直に凄い。

 …………っていうか、作った?


「お前が??」

「ふふーん。こう見えて、アタシは手先が器用なんよ!」


 ジャーン!! と、着ていたジャケット型の上着をはだけて見せると、その下に収納していた工具をズラリ───。


「………………お前、やっぱりドワーフなのか?」

「その通り! ドワーフ鉱山で修業を積んだ凄腕冒険者、『韋駄天のシーリン』とはアタシのことさね」


 パパーン♪ と効果音がしそうなくらい、ドヤ顔で決める。


 うん。

 つかつかつか、ゴンッ!


「いっだぁあ!? な、なな、何で? 何で今殴ったん? ねぇ、ねぇ、なんで?!」


 なんでぇぇえ?!


「───やかましい。ドワーフってことは、お前結構な歳だろうが、さっき手加減した分だよ」

「い、いい、意味わかんないわ! ちょ、ちょっとぉぉお!」


 だって、子供だと思って手加減しちゃったんだもん。

 それはそれでムカつくので……。


 ──うん。


 ドワーフの女性は、人間でいうところの十代前半くらいの見た目を長年維持する。

 いわゆるエターナルロリ。


 エルフほどではないにしても長命種で、手先が器用だ。

 そして、男はガチムチになり、女はこのとおりチンマイ。


 というのも、鉱山では男が採掘などの重労働と製鉄などを営み、女は鉱石の選別や工作、細工物を得意とする種族なのだ。


 その特徴としては男も女も技術馬鹿で、常に工具を持ち歩いているというが……。


「そういや、野生のドワーフは初めて見たな」

「見た~♪」


「ほーかほーか♪ アタシがの、その──野せ…………誰が、野生のドワーフじゃ! だれがぁ!」


 いや、お前以外にるかよ?


 だいたい、ドワーフは基本引き籠りで、鉱山や集落を出ること自体が稀。

 大半のものは、大好きな技術をひたすら磨く事を常としているという。


 そして、エルフ程に排他的ではないにしても、あまり人里に顔を出すことはない。

 ……どちらかというと、人間が彼らの集落に赴き、商売や技術を学ぶことが多い。

 一般的には、石炭の出る鉱山を好み、人間との関わりはもっぱら商売が基本だ。


 例えば、


 人間が燃料や珍しい原材料を卸し、

 ドワーフが技術や加工品と言ったものを提供する──という加工貿易が中心となっている。


 ……ちなみに、大量の燃料を必要とするため、木を大切にするエルフとは大変仲が悪いのは、この際割愛しよう。


「あー、すまん、すまん。お前には借りがあったな───ほれ、どんどん食っていいから許してくれ」

「ったく、こんな飯で釣られると思わんことやでぇ……あ、お姉さん、このフルーツ山盛りパイと、ミルクと卵の焼き菓子ちょうだいな。───支払いはこのオッサンで」


 釣られとるやんけ。


「……お前より年下だと思うぞ」

「見た目がオッサンじゃん」


 20代だっつの!!


「しかしまぁ……そうか。リズが無事か……よかった」


 アルガスは、再びしみじみという。

 目頭がすぐに熱くあるが、仕方ないだろ?


 それよりも、

「──……で、リズはどこだ? リリムダのどこにいるんだ? 宿の名前を教えてくれ」

「え? なんで?」


 そりゃ、お前───。


「俺が直接行くためだろうが」

 何言ってんだコイツ??




「え゛…………??!!」


 その瞬間、硬直するドワーフが一人──。

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