第8話「韋駄天のシーリン」

「リリムダ…………。荒野の反対側だな」

「せや。えっらい遠かったでー……」


 チラリと、ギルドの奥にかかっている荒野周辺の地図を見る。

 もちろん、みなくても地形は頭に入っている──。


 リリムダ……。

 鉱山都市か。


 確かに遠いな……。ベームスの街からすれば、いったい何キロ離れてるんだ?

 まさか、あの荒野を抜け、リズ達がこんなところまで踏破したというのか……。


 ──リズ……。


 地図の先、リリムダまで歩いて抜けた彼女を幻視し、目頭が熱くなるアルガス。


 それは、アルガスでも──軽装であっても、到達できるかどうかのギリギリの距離だ。


 だが、あの子なら……。

 あるいはリズならば…………。


 コホン。


「ふむ……。それが本当だとして、なぜ手紙を?…………」


 ッ!


「ま、まさか、怪我でも?!」


 あ、ありうるぞ。

 嫌な予感にアルガスが椅子を蹴立てて立ち上がる。


「おい! どうなんだ! おい、答えろ!!」

「ひぇ?! なんや、コイツ──どなったり、唸ったり……?!」


 リズなら一刻も早くベームスに向かっていてもおかしくはない。

 手紙を出すより、彼女自身が向かった方が早いからだ──!


「いいから答えろ!!」

「お、落ち着けって……。──せや。リーダーのジェイスと、その女のメイベルっちゅうのが、病にやられたらしくてな───足留め食っとるんや」


 そんな奴らはどうでもいい!!


「リズは!! リズは無事なんだな?!」

「あ、あぁ? ぶ、無事も無事や。たぶんピンピンしとるで───知らんけど」ぼそ


 ガタン…………。

 ドサリと、アルガスが背もたれに背を付け、天井を仰ぐ。


「…………い、生きていた」


「ど、どないしてん───って、泣いとるん?!」


 あぁ、やはり生きていた──。


 スーと涙を流すアルガス。


(───良かった……)

 本当に良かった……。



   リズ────無事でよかった………………………。



「アルガスさん」


 きゅっと手を握りしめるミィナの気遣いに、頭をなでて答えるアルガス。

 その様子に、顔を小さくゆがめるシーリン。


「す、すまん……。ちょっと目にゴミが入ったみたいだ」

「お、おう。そうか?」


 なにやら気まずそうな顔をしたシーリンだったが、アルガスからふいに目を逸らす。


「……?」


 男泣きする奴を初めて見たのかもしれないな。

(チッ……)

 みっともないところを見せちまった。


「あ、ありがとうな。……ここまで、道中大変だっただろう?」

「ま、まぁな……。ど、どないしてん? いきなり礼を言うなんざ、気持ち悪いで──」


 急に態度が軟化したアルガスを、いぶかしがるシーリンだったが、

「アタシも仕事でやっただけや。礼を言われる程やあらへんて……」

 ポリポリと頭を掻いて照れ隠し。真正面から礼を言われるとは思っていなかったのだろう。


「しかし、リリムダからベームスまで随分とあるな……かなり急ぎで来たんじゃないか?」

「ふ、ふふん……! ようやく・・・・気付いたな」


 にやり。


「な、なんだよ?」

 態度が急変したシーリンに、思わず身構えるアルガス。

 しかし、

「くくくー。それがこのアタシ、シーリン様の売りなんよ!!」


 ……ジャーーーーーン!!

 そう言って、少ない胸・・・・を張るシーリン。


 なんのことはない。ただのドヤ顔と、ちっぱいだ。


「……って、誰の胸が極小、ぴったりサイズやねーーーーーーーん!」

「そこまで言ってねぇ」


 つーか、そもそも声に出してねぇよ。


「顔に出とるわ!! 人様のオパイを過少評価すな!! このアホ!!」

「評価するほどねぇ、だろうが」

 あ、やべ。声に出てた。つーか、俺、どんな顔してたんだ?

「あるわぁぁぁああ!! あるっちゅうねん!! なんなら見せたろか」

「いや、いい」


 そんなん見たくない。


「見ろや、ボケぇぇぇぇえええええええええええええ!!」

 いや、言いすぎたな。……見たくないわけじゃないが、……あー、やっぱし見たくないわ。

 どうみても、ミィナといいレベルだろうが。


 チラッ……。


 なんなら。ミィナのほうがあるんじゃねーか?


「幼女と比べんな、アホぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 あーうっさいうっさい。


「悪かった悪かった。話が進まんから、悪かったって──」

 めんどくせぇ。

「ち……! なんやええ加減に、謝り腐りよってからに──」

「はいはい。すまんすまん。おっきいおっきい!!……で、どうやってここまで? お前の売り・・ってのはなんだ?」


 大きくもないし、

 興味ないけど、一応、な。


「ふ、ふふん! そない聞きたいか」


 いや、別に──。


「しゃーないなー。なら教えたる。聞いて驚け!」

 ……多分、驚かない。

「ウチの名はシーリン! A級冒険者のシーリンや。またの名を韋駄天のシーリンて言われてるんやでぇぇぇえ!」


 っどやぁぁ。


「……………聞いたことないな」

 ミィナはあるか?

「知らなーい♪」


 だよなー。


「──ずるぅ!!」


 口をあわせるアルガス&ミィナのコンビにズルッとこけるシーリンであった。

 いや、ずるぅ……って口で言うなや。

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