光の戦士たち7
それは、シーリンがアルガスの手紙を届ける
……リズ達が荒野を踏破し、
「え、えぇーーーーー?! 『
ジェイス達はリリムダに到着するや否や、その翌日までたっ~~ぷりと休養を取って疲れを落としたのち、昼頃に起き出すという重役出勤でギルドに顔を出していた。
メンバーはいつもの3バカ───もとい、三人。
なぜなら、間の悪いことにリズは高熱を出して寝込んでしまったのだ。
……やはり、無理が
毎日毎日、行軍行軍。
そして、心労につぐ心労。
アルガスの死、それだけでも心に耐え難いというのに、3バカの相手……。
そりゃあ、キツイ。
しかも、昼間は経路の偵察のために3バカが休止している間もほとんど休まず行動していた。
さらにはその合間に食料と水の確保……。
……ぶっちゃけ、よく持った方だと思う。
アルガスがいれば、間違いなくリズを褒めていただろう。
それでも、アルガスはいない。
もう、いない………………。
そして、「ちッ……めんどうくせぇな」と散々に愚痴りながら──。
仕方なく、ジェイス達は宿に看病を任せて、渋々ながらギルドに向かうことにした。
リズやアルガスに任せることもできないので、……本当に嫌々ながら、だ。
それというのも、報告義務を怠ると色々面倒なのだ。
なにせ、相手は自分たちを敗走せしめた
あの時の光景を思い出し、思わず震えるジェイス達。あんなもの、人間に敵う相手じゃない、と──。
それでも朝飯を食って、湯を浴びれば、いつもの余裕を取り戻したらしい3バカ。
そうして、宿に用意させた装備を着込み、不敵な表情でギルドに乗り込んだ。
……その恰好は街用の軽装主体だったが、ピカピカの装備で見栄えだけは、まさに勇者パーティだ。
「さ、ささ! ど、どうぞこちらへ!」
「おうおう!」
ギルドでは、禿頭の男性に案内されて奥の応接セットに通される。
「いやー。高名な皆様にお越しいただくとは! 私、当ギルドのマスターを先月
「ふん、覚えとくぜ。───ま、そんなにしょちゅう顔は出せないが、当面はこの荒野付近で活動する予定だ」
「はいぃぃ! そ、それは光栄です──で、今日のご用向きは? あ、もしや、
揉み手をせんばかりに、平身低頭のギルドマスター。
ギルドマスターは大抵、元冒険者がやることが多いが、このギルドマスターはどうみても冒険者には見えない。
小さな手は女の子の様に柔らかそうで、筋肉もなにもない。
……剣など握ったこともなさそうだ。
見た感じは、ただのオッサン。
禿の中肉中背の、どこに出しても恥ずかしくない普通のオッサンだった。
「例の件……?──何のことか分からんが、多分それかな。今日は、報告と貯金の引き出しに来た」
「か、かしこまりました! では、報告は───例の件、荒野に発生した
(チッ……)
…………やはり、すでに噂になっているようだ。
報告が遅れたことを咎められるかもしれない。
──あれ程の規模だ。
いくつかの逃げおおせたパーティが、軍団に危機について報告したのだろう。
ならば、ジェイス達にはもう報告することはないが……、既定情報の確認と補足くらいはしておいてもいいだろう。
なにせ、その軍団と直接刃を交えて、なんとか逃げおおせたのだ。……並の冒険者の情報量とは比べ物にならないはずだ。
「───そうだ。それだ。……あれは、酷く凶悪な軍団だったぜ」
遠い目をするジェイス。
実際には、一当たりしただけで逃走したため、規模なんかはいまいちわかっていないけど──。
「えぇえぇ! そうですね! まさに類を見ない規模の
う、うむ。
やはり、それほど軍団だったよな。なら逃げたのは仕方ない──。
「その通り。……そうさな──うん。あれはもう、魔王級のそれと言っていいだろうッ」
キリッ!
……そうとも。だから負けるのはしょうがない!!
うんうん
「だからこそここに来た。……すぐに国に報告し、王国軍を────」
「えぇ、えぇ!!……ですが、まさかたった一人で殲滅されるとは……! さすがは『
うむうむ。
「───おう。そうだ! 今すぐに、軍の派遣要請をしてくれッ! 俺達をもってしても、
………………は?
何言ってんのこいつ??
「えぇ、そうです。そうです! ベームスの街はいま沸き返っておりますよ。新たな英雄が生まれたと! 皆さまのお仲間の、」
え、いや、ちょ───。
待て待て待て。
べ、ベームスって、あのベームス???
「な、なにを言ってんだ? レ、
「───そう! そうです!! 1000体もの大群だったらしいですな!! 正確には、1078体ものモンスターだったと……。かのアルガス殿が、たった一人で軍団を殲滅されたそうです!」
え?
ア、アルガス……?
「「「………………は、はあ???」」」
いやいや、アルガスって、あのアルガス????
「いやはや……! すばらしい! まさに英雄です。いえ、もしかしたら彼は勇者───おっと、こちらに本物の勇者がおられましたな、ガハハハハハ!」
勝手に納得、勝手に一人ツッコミ。
そして、ギルドマスターは一人でゲハゲハと笑う。
さらに、
「───で、軍の派遣要請とは? そして、アルガス殿はご一緒ではないので?」
いや──────その、
……………………え、えっとぉー。
「「「…………………………」」」
「……あの?」
固まるジェイス一行。
全員が全員で顔を見合わせ、目配せであーでもない、こーでもない。
だが、ここはやはり、
「…………………………………おう! く、苦戦したぜ!!」
ジェイス、渾身の切り替えし。
思考停止からの切り替えしッ!!……グッジョブ!
「でしょうなー! でしょうなー!! いやー、すごい!! さすがは『
一人でバカ笑いするギルドマスター相手に、ジェイス達は引き攣った笑いしかできない。
というか、
問い詰めたい──────「じょ、冗談だよな?」と……。
「ガーーハハハハハ───…………。で、軍の派遣要請とは?」
く。
……しつけえ!
忘れろっつの、失言だっつの!
ダラダラと汗を流しつつジェイスは必死に、軍の派遣というドデカイ爆弾に近い発言を誤魔化す方法を考えていた。
そこに、
「い、いえいえ、ほらマスターどの、ジェイス殿は軍団殲滅後のドロップ品について言及しているのですよ。冒険者どもに拾われるよりも軍を派遣して、国庫に収めようという広い御心が───」
「ガッハッハッハ! なーにをご冗談を? ドロップ品もオール回収。1000体以上の討伐証明に、ベームスでは買取しきれない量のドロップ品の山と聞いて、各地の冒険者ギルドや、魔導商会に商人ギルド、それに鍛冶屋組合がこぞってアルガス殿と交渉をしたがっているそうですぞ───かくいう我がギルドも、いくつか欲しい魔物の素材がありましてな」
いやーよかったよかった。と、一人でホクホク顔のギルドマスター。
当然、ジェイス一行の顔は疑問顔と失言と、何が起こっているのか分からない状況で、七色に顔色が変化していた。
「最高の『ポーター』と『重戦士』の組み合わせだそうで、いやー……凄い。さすがです!…………で、こちら───当ギルドでお引き取りしたい素材なんですが、」
勝手に素材リストを取り出し、皮算用しているギルドマスター。
いやいや……。
(((最高のポーターぁぁあ?? それに、重戦士って……)))
え? あの奴隷のガキと、アルガスのことか??
ジェイス達は、もはや軽いパニックだ。
色々なことがいっぺんに起こり過ぎて、頭が「バーーーーーーン!」といく一歩手前。
ただ、幸いなことに───この場にリズがいない。
それだけが、ジェイスにとって幸運なことだった。
───だってそうだろ?
あり得ないはずのこと。
あのアルガスが生存しており──しかも、あの軍団をどうにかして、殲滅しただとか……?
いや、マジで?
それだけでなく、ドロップ品をすべて回収?! いやいやいやいやいや…………いやいやいやいや……あ、あり得ないだろう?
え?
いや、マジで?
全然、どうやればそんなことができるのか分からない……。
王国軍一個師団でも連れていったとか?
……んなわけねー。
3人の顔色が真っ黒になって、土色に染まる頃、3バカの景色はグニャーと歪みつつあった。
ギルドマスターがいなければ、3人ともバッターーーン! と倒れていただろう。
だが、それをさせないのもやはりギルドマスターの一言だった。
彼は素材目録と一緒に、他のギルドから送られてきた近況情報を見ているのだが、そこにある詳報のアルガスの戦果の一文に引っかかりを覚えた。
「───で、この素材と、これは高く買い取らさせていただきます……。ん? なんだこれ、」
アルガスの戦果詳報、備考欄。
「……なお、アルガス・ハイデマン氏の「将軍級討伐」
しーーーーーーーーーーーーーーーーん。
「───『
───あれ?
いつの間にかもぬけの殻になっていた、応接セット周り。
ジェイスはおろか、メイベルもザラディンもいない。
「…………??? えーっと、御貯金の御引き出しは───」
もちろん答えるものはどこにもいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます